第17話 お困り事はこちらまで
ちょっと助けてほしい。
そんなことはありませんか?
修理、掃除、雑用、なんでも承ります。
お困り事はこまりごとバスターズへ。
「なんだ、これ?」
アジトへ帰った翌日。
朝食を食べてるとイッカが一枚の紙を出してきた。
「俺たち、みんなの困り事を解決する何でも屋を始めたんだよ。そのチラシだ」
「よくできてるでしょ」
「……なんでまた、そんなこと始めたんだよ」
「ヒスイが外に行ってる間ヒマ……何か俺たちにもできることないかなって思って」
「ソアラに相談したら、手を貸して欲しい人を助ける仕事をしたらって言われたんだよ」
今ヒマって言いかけたよな。ヒマって。
「結構活躍してんだぜ。子供達におもちゃ作ってあげたり」
「野菜の肥料の研究を手伝ったり」
2人はドヤッと嬉しそうな顔をしている。
楽しそうで何よりだ。
「で、それがどうかしたのか?」
「他人事みたいに聞いてるけど、ヒスイもメンバーとしてソアラに報告してあるからな」
「一応学校の勉強の一環ってことになってるから、依頼があれば授業時間も使えるよ」
「えっ?聞いてないんだけど!」
「言ってないからな。と言うか、ヒスイが外に行ってる間に決めたしな」
「俺に選択権はないのか」
「まあまあ。せっかくだから一緒にやろうよ。結構楽しいよ」
何が何だかついていけない俺をよそに、2人は盛り上がって学校に向かってしまった。仕方ないのでついていく。変な事にならなければいいけど。
「おはよう。今日はこまりごとバスターズにお願いがあるんだけど、ヒスイ君に話はしたのかな?」
「大丈夫!喜んでバスターズに参加するってさ!」
言ってない。1ミリも言ってない。
けど、イッカとウノの嬉しそうな顔を見たら断れなかった。
「……ああ。がんばる」
「それは良かった。早速だけど、子供達に楽器を手づくりさせようと思ってね。パーツを1人分ずつに分けて置いていってくれるかい」
1人分に必要なパーツの説明を聞いて、3人で作業していく。
黙々と手を動かしていると雑談に花が咲く。
「そういえば、ソアラって子供達には敬語なのに何で俺たちには違うんだ?」
「ああ、前は子供がそんなにいなくて学校なんてなかったんだよ。ソアラが俺達に色々教えてくれてただけで」
「でも小さな子が一気に増えた時があってね。それで学校を作ってソアラが先生になったんだよ。そこから生徒達には敬語を使うようになったんだよね」
「意外とカタチから入るタイプなのかもな〜。で、昔の名残で俺たちは敬語じゃないと」
「俺は学校ができてからここに来たけど?」
「僕たちにあわせてるのかもね。1人だけ違うのも変かなって」
当たり前なんだけど、アジトにも色々歴史があるんだな。
そんな話をしてるうちに作業は終わった。ソアラに報告すると礼と共に次の依頼に向かうよう言われた。
備品班が今日届いた荷物の仕分けを手伝って欲しいらしい。俺たちは指示された場所へ向かった。
「あ、こっちこっち。いや〜助かるよ。今回は量が多くてね」
備品班のバンさんが倉庫で待っていた。隣には山のように積まれた荷物。
包みを解いては言われた場所にしまっていく。
「バンさん。これはそっちにまとめたら使いやすいと思うんですけど」
「ん?ああ、そうだね。そうしてくれるかい。ありがとう」
ウノが気を利かせて片付け方を提案したりしている。
「ウノは片付けんの得意なんだよな〜。部屋も俺が散らかしてるとテキパキ指示されて片付けさせられんだよ」
普段はおっとりしてるウノの意外な一面を見た。一緒に過ごしてても知らないことはまだまだあるんだな。
「3人のおかげですっかり片付いたよ。ありがとうね」
「お困り事は我らにお任せを!」
「こまりごとバスターズにいつでもご依頼ください!」
イッカとウノが謎のポーズを決めて満足そうにしている。バンさんは笑いながら「また頼むよ〜」と言ってくれた。平和な光景に頬が緩む。
次の依頼は子供グループの年長2人組、ライザとシユからだった。
「スイのお気に入りのぬいぐるみが破けちゃったのよ」
ライザが見せてくれたクマのぬいぐるみは、首の部分が破けて綿が見えている。ちなみにスイというのはグループ最年少の3歳さんだ。
「スイ、すっかり落ち込んでて。治してあげられないかな?」
シユが心配そうに相談してくる。これはなんとかしてあげたい。
するとイッカが「よし!」と胸を叩いたあと、2人と目線の高さをあわせて話しだした。
「大丈夫!俺、裁縫は得意だからすぐ治せるよ!」
2人の顔が明るくなる。良かった。子供の暗い顔はやっぱり見たくない。
イッカは裁縫道具を取りに行くと、あっという間にぬいぐるみを治してしまった。途中、子供2人に縫い方まで教えるオマケつきだ。
「イッカは器用だな。そういえば授業でも何か色々作ってるもんな」
「イッカは大工志望だけど、僕は仕立て屋さんとか細かい作業するのも向いてると思うんだよね〜。まあ大事なのは本人が何になりたいかだけど」
ウノと2人で感心していると、「終わったぞ〜。次行こう」とイッカに呼ばれる。
子供達はお礼を言うと、ぬいぐるみを届けようと嬉しそうに駆け出していった。
「最近、ジャガイモを使ったメニューが少ないんだ」
次の依頼はジャガイモさんからだった。ジャガイモの出番を増やすために一緒にレシピを考えて欲しいらしい。なぜそこまでジャガイモにこだわるんだろう。
「あ、それならいい物があるかも」
俺はある物を思い出して、いったん部屋へ戻る。持ってきたのはクキが教えてくれたスパゲティのレシピだ。
「これ、ジャガイモ使ってるし美味しかったから役に立つんじゃないですか」
「何だって!素晴らしい!さっそく調理班のみんなに見せに行ってくるよ!」
ありがとう!と豪快に礼を言いながらジャガイモさんは去って行った。何が彼をそこまでジャガイモに縛りつけるのだろうか。
「さっきのレシピどうしたの?」
「こないだの仕事で一緒だった人に教えてもらったんだよ」
「仕事って色んなヤツに会うんだな」
「え?いや、そうでもないけど。その人はたまたま仲良くなったっていうか」
なんだか上手く説明できない。
微妙な空気になっていると、遠くから見知った顔が手を振ってやってくる。
………なぜアルアがここにいるのだろう?
「アルア?今日は訓練の日じゃないですよね?」
「ああ。今日は別件で来てたんだが、面白そうな話を聞いたんでな。まずはその2人に私を紹介してくれるか?」
ポカーンとしてるイッカとウノに気づいて、慌ててアルアを紹介する。
「イッカ、ウノ!この人はよく話してる俺の師匠のアルアだ。アルア、この2人は俺の友人のイッカとウノです」
「アルアだ。ヒスイからいつも話は聞いている。私の弟子と仲良くしてくれてありがとう」
アルアが手を差し出すと、石化が解けたように慌てて2人が握り返した。
「イッカです!こちらこそ、ヒスイのお師匠さんのことは聞いてます!」
「ウノです!まさか会えるなんて光栄です!」
なぜそこまで畏ってるんだろう。2人の中でアルアはどんなイメージになってるんだろうか。
「はっはっは。私も会えて光栄だ。何でも困り事の相談に乗ってくれるそうじゃないか。1つ、私の話も聞いてくれないか」
………イヤな予感がする。
「「もちろんです!アルアさんの頼みなら何でも聞きます!」」
「2人して嬉しいことを言ってくれる。実はな。最近仕事が忙しくてトレーニングをサボりがちでな。体が鈍ってきたのが気になるんだよ」
やめてくれ。イヤな予感しかしない。
「1人で鍛えるのもいいんだが、誰か付き合ってくれないかと思ってな。組手の相手もしてくれると助かるんだが」
「え?我々でいいんですか?」
「喜んでお手伝いしますよ!」
「そうか。なら運動室に移動しようか」
嬉しそうにアルアについていく2人に憐れみの目を向ける。なんとか俺だけでも逃げ出せないかとそっと後ろに下がろうとすると、「どうした、ヒスイ。行くぞ」とアルアに牽制されてしまった。さようなら、俺の平和な日常。
「なんだ、3人ともだらしない。鍛え方が足りんぞ」
運動場に移動した後、散々アルアにトレーニングと組手に付き合わされて、俺たちは立ち上がることすらできずにいた。
「だがまあ、今日はもう遅いしな。これくらいで終わりにしようか。なかなか楽しかったぞ。また頼む」
最後に恐ろしい一言を残してアルアは帰って行った。
「はぁっはぁっはぁっ。あの人なんなの?本当に人間なの?」
「僕には途中から鬼に見えたよ」
いまだ運動場の土に顔をつけたまま、2人が声を絞り出す。
「なんか、2人ともごめん。巻き込んで」
「いや、こまりごとバスターズに来た依頼なんだから、みんなの責任だ」
「でもヒスイは凄いね。毎回こんなトレーニングしてるんだから」
「いや、今回は特別厳しかっただけだよ。いつもはここまでじゃない」
今回はアルアが完全に遊んでいた。ほんと何しに来たんだ、あの人。
「でもさ、お前がどんなに強くたって、困った事があれば俺たちに言うんだぜ」
「そうだよ。僕たちはこまりごとバスターズなんだから」
2人がやっと起き上がって、真剣な顔でこちらを見てくる。つられて起き上がった俺は、突然の言葉にどうしていいか戸惑っていた。
「今回も帰ってきたら何か思い悩んでるしさ!仕事でも俺たちの知らないトコで色んな人に会ったりしてるしさ!師匠はベラボーに強いしさ!心配になんだよ、ほんとに!」
「もちろん言えない事が多いのはわかってるから無理には聞かないよ。でも僕たちだって何かしたいんだよ。ヒスイの力になりたいんだよ」
2人の迫力に気圧される。なんか。どうしよう。凄く嬉しい。
「………えっと、ありがとう?」
「なんで疑問形なんだよ!」
「そこは素直にありがとうって言ってよ!」
思いっきり笑われる。つられて俺も思いっきり笑った。笑い声が3人分、広い運動場に響き渡った。
「はぁっ。笑いすぎて腹痛い。………なあ、さっそく1つお願いしてもいいか」
「いいぜ!」
「何でも来いだよ!」
「俺が仕事から帰ってきたら『おかえり』って言ってくれるか?」
2人が目を丸くしている。お互いに顔を見合わせて、それから俺に抱きついてきた。
「そんなん当たり前だろ!」
「僕たち家族みたいなもんなんだから!」
勢い余って3人で転倒して、また大笑いする。
『また家族が増えたな。このままいけば本当に大家族になるんじゃないか』なんて考えながら、それも悪くない気がしてる自分がいた。
しばらくすると、子供達が手づくりした楽器を手に運動場にやってきた。各々楽しそうに楽器を鳴らしながら踊ったり歌ったりしている。
ああ、なんて幸せな光景なんだろう。アジトに帰ってきて良かったな。心の底からそう思った。
俺の不安をすっかり消し去ってくれるなんて。
凄いぞ、こまりごとバスターズ。
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