第127話 大切な弟


 ユサユサと揺らされます。

 もう少し寝かせて欲しいのですが……


 ……ら………くら………

 

 すみません、疲れているので、もう少し…………


 さ………ら……さく……


 ………………………疲れてるんですけど?

 私は薄く目を開きました。


 そこには焦った顔から、嬉しそうな顔に変わる私の弟がいました。


「! 桜! 桜! 大丈夫か!? 意識はあるか!?」


「雪君……ごめんなさい、お姉ちゃんまだ眠いので、もう少し寝かせてもらえませんか?」


「はは、まだ大丈夫そうだな。さすがにこんなところで寝るのはよくないと思うぞ?」


「………………」


「おーい! 寝るのは少しだけ待ってくれ! せめて背負われてくれ!」


「…………はーい」


 私は体を起こそうとして――――――いったぁぁぁぁい!!

 私は足の激痛で叫び、急に意識が覚醒しました。


「うぉ!? どうした!? どっか痛むのか!?」


「っぅ………えぇ、足を痛めてしまいまして…………って雪君!?」


「足か…………あぁ、すごい腫れてるな。これは歩けないだろう。ほら、背負うから乗ってくれ」


「えっ、はい……いや! それより、どうして雪君がここに!?」


「桜を探しに来たからだよ。あぁ、ちょっと背中が湿ってるかもしれんが、我慢してくれ」


「それはいいんですけど……えっと、他の人は?」


「俺一人だぞ」


「!? ダメだよ! 一人で森の中に入っちゃ! 夜の森は危険なんだよ!?」


「それを桜に言われてもなぁ……中々のブーメランだぞ?」


「私はお姉ちゃんだからいいの!」


「よくねぇよ! そんな怪我しといて何言ってんだ。ほら、いいから背中に乗ってくれ」


 私は雪君を叱りたいですが、状況が状況ですので渋々雪君の背中に体を預けました。

 私を背負うと私の太ももを持って雪君が私を背負いながら立ち上がりました。

 雪君の背中は逞しいですね。

 確かに湿っていますが…………正直この匂いは嫌いではありません。

 私が雪君の首に顔を埋めていると、雪君は歩き始めました。


「ところで、ここは合宿場からどれくらい離れてるんですか?」


「さぁ?」


「えっ?」


「いや、俺も桜を探し回ってたからここがどこか知らないぞ?」


「…………二重遭難になってるじゃないですか」


「ははは、そうだな」


「笑い事じゃないですよ!? 私を背負ってどこに行く気ですか!?」


「ここがどこかは知らないけど、彷徨ってる間に小屋を見かけたぞ」


「本当ですか!? ということは、ここは合宿場に近いかもしれませんね」


「んーどうかな。小屋を見かけただけで、近くに寄ってないから何とも言えないけど」


「そうですか……誰か居てくれればいいのですが……」


「誰も居ないと思うぞ。明かりも着いてなかったし」


「そうですか……あれ、そういえば今何時ですか?」


「少し前見た時は日付変わってたぞ」


「え゛っ」


 ということは肝試しから四、五時間ほど経っているということですか……

 ……もしかして、その間ずっと雪君は、私を探していてくれたということでしょうか?


「……ずっと探していてくれたんですか?」


「あぁ、俺と時雨が戻ったらちょうど先生と職員の人が熊の話してて、その話を聞いてたら、愛羅がダッシュで戻ってきてさ。桜が襲われたって聞いたから慌ててな」


「…………どうして、探しに来てくれたんですか?」


「どうしてって、大切なと…………大切なお姉ちゃんが危険な目に合ってるのにほっとけるわけないだろ」


「……私はお姉ちゃん失格です」


「えっ? なんで?」


「私のせいで、大切な弟を危険な目に合わせてしまったので……」


「桜のせいじゃないだろ」


「でも、私を探しに来てしまったせいで、雪君も遭難するはめになってしまいました……」


「そもそも、熊に襲われたから遭難したんじゃないか」


「そうだけど……きっとお姉様ならもっと上手く……」


「お姉様? 桜ってお姉さんいるのか?」


「うん……あぁ、そういえば、言ってませんでしたね。実は―――」


 私はそのまま姉の話をしました。

 自分の家のこと、優秀なお姉様のこと、一歩足りない自分の話を。


「ふーん。色々すげぇんだな。家とか姉さんとか」


「うん。私と違って、お姉様達は本当にすごいんだ」


「桜もすごいだろ」


「私はすごくなんてありませんよ。お姉様たちと比べたら「なんで比べるんだ?」……えっ?」


「いや、お姉さん達がすごいのはわかったけど、なんで桜は自分と姉を比べるんだ?」


「なんでって……」


「今のままだと桜が神藤家の後を継げないとか?」


「継ぐのは長女でしょうね。私と二番目のお姉様はサポートになると思います」


「今のままだとサポートできないってこと?」


「そんなことはないと思いますけど……」


「じゃあ、なんで比べるんだ?」


「……何でも出来てしまう姉に追いつこうとして、自分の一歩足りなさに、気づいてしまったから……ですかね。きっと今回も熊に会ったのがお姉様たちだったら、こんなことにはならなかったと思うんです」


「そんなタラレバの話しても意味ないだろ? 出会ったのは桜と愛羅なんだから」


「そうですが……」


「あー、んー……熊、熊、熊……まさかり担いだ金太郎が熊と出会っていれば、相撲してたんだろうなー」


「? なんですか、金太郎って?」


「えっ?」


「まさかりって……もしかして、昔話の銀花子のことですか?」


「銀花子になってんのか……」


「ん?」


「いや、気にしないでくれ」


「金太郎って、男の子みたいな名前ですね。男の子が熊と相撲ですか……ちょっと見てみたいです」


「帰ったら俺がやるよ。相手は……時雨だな」


「時雨ちゃんが熊役ですか。雪君が襲われるイメージしかありませんね」


「……ベアーハグされそうだな」


「ふふふ」


「やっと笑ってくれたな。おっ! あれだあれ」


 雪君の言葉を聞いて正面を見ると、確かに小屋がありました。


★********★

すみません、何度も書き直してたら遅くなりました。


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