第4話 助っ人はプニプニ

「やぁ坊ちゃん、嬢ちゃん」


 村に着く直前、マックとサティは見窄らしい格好の男たちに囲まれていた。

 彼らの正体はどうやら盗賊のようで、陸の孤島と化しているヨナ村を狙って森を抜けてきたようだ。


「アニキ、こいつらスライムを連れてますぜ」

「テイマーごときにビビってんのか?」

「そうじゃありやせんが……」


 マックら彼らの言動からサティの言っていたことが間違いではなかったとわかったと同時に、早く村に行かなければいけないことを思い出した。


「あの、僕たち急いでいるので、道案内なら他の人に言ってください!」


 横を通り過ぎようとすると、男たちは剣を抜いて道を塞いだ。


「ちょっと待てよ、坊ちゃん。お前はヨナ村の出身だろう? 道案内してくれよ」

「良いですよ」


 彼はあまりにも常識が無さすぎる。

 二つ返事で承諾したマックに、盗賊たちも呆気に取られている。


「ちょっとマック。この人たち盗賊よ? 悪い人たちなのよ?!」

「え、そうなの?」


 サティが普通の子で良かったと心から思う。

 ここまで言われなければ分からないという方がある意味恐ろしいが。


「分かったか坊ちゃん。痛い目に遭いたくなきゃ――」

「やっちゃえ王様!」


「はぁっ?!」


 王冠のスライムが大きな口を開けて男たちを飲み込もうとした。が、いとも簡単に避けられてしまう。原因は明白。

 体が大きい代わりに遅すぎるのだ。


 反撃し、斬りかかる男。


「王様、避けて。早く動いて!!」


 もう駄目だと感じながらも、マックは大声でをした。するとどうだろうか。先ほどまでとは段違い……いや、まるで斬りかかった男の時間だけが遅れているように見える。


「い、今だ王様!」


 そこからは早かった。

 キングスライムは先ほどと同じように大きな口を開け、男はそのまま吸い込まれるように体液に身を溶かされていった。

 

「や、やった。勝った!」


 喜ぶマックとスライムたち。

 

「良かった良かった」

「サティ、今なんか言った?」


 サティは首を横に振る。


「私ですよあるじ

「お、王様!?」


 綺麗なイケメンボイスで言葉を話し出したのは、王冠を被ったスライム。マックが王様と呼ぶ、キングスライムだった。


「いやはや、危ないところでした」

「どど、ど、どういうこと?」

「我々スライムは対象を喰らうことでその者の能力を得、その物に擬態することができるのですよ」


 補足すると、この能力はキングスライムのみ、もしくはその配下となったスライムしか使用することはできない。

 

「な、なるほどぉ?」

 

「とにかく村を救わないと」

「お待ちください。他のスライムの話では、もっと厄介な賊がまだ三名ほど隠れているようです」

「そっか。じゃあ、今度は食べる前に詳しい話を聞こう」

「御意に」


 キングスライムといえども、契約主には逆らえないようで。全くもってがない。


◇◇◇◇◇

 

「これは何というか」

「ちょっと人外過ぎませんか?」


 何を言う。

 お前たちの子なのだから多少は人外でも問題あるまい。

 それに、彼の伝説はまだ始まったばかりじゃぞ?


「もしかして、まだ強くなるのですか?!」


 いいや。

 彼が強くなるというわけではないからの。


「ものは言いようですね」

「魔王なんて呼ばれたら承知しませんからね!」


 魔王は他におるから大丈夫じゃ。

 それに、我が子の安全が保障されるのじゃから、お前たちも安心だろう?

 

「それは、そうですが……」


 あ、魔王を手懐けるのも良さそうじゃのお!


「……こいつ殴って良いかしら」

「お、落ち着けリンダ!」


 ほっほっほ。


◇◇◇◇◇


「助けてくれぇ!」

「静かに。喰われたくなかったら仲間の居場所を言って」

「俺は雇われただけで、詳しくは知らないんだ!」

「雇われた?」


 サティが男を睨みつける。

 その後の賊の話によると、自分たちを雇ったのは中央に住む田舎貴族のひとり。その者がヨナ村を襲うように仕向けたのだとか。


「それで、その貴族の名前は?」

「そこまでは知らねえ。俺は末端の人間だから――」

「そっか。食べていいよ、ウェル」


 ウェルは「待ってました!」と言わんばかりの勢いで男に喰いついた。美味しそうではないが、見ているとなんだかお腹が減ってくる。


「ぷはぁ! やっと話せるようになったよぉ」

「良かったね……っていうか、ウェルって女の子だったのか。もっと女の子っぽい名前の方が良かったかな」

「そうだよぉ。でも、この名前気に入ってるから良いの!」


 嬉しそうに跳ねるウェルと、「何がなんだか……」と頭を抱えるサティだった。


 色々とハプニングはあったものの、一行は無事に村に帰ってくることができた。

 ふたりと何十匹かのスライムは「盗賊のことを伝えなくては」と村長の家へと向かった。


「戻ったかマック、サティ」

「これは一体……」


 村長をはじめイザベルや村の人々の中心にいたのは、拘束されたハリヴだった。彼は村人に暴行を加えた後、イザベルに捕えられ、反省するまでの間、厳戒態勢で監視をされているらしい。


「もう許してくれよぉ」

「まだ反省しとらんだろうが!」


 なんだか可哀想だけど、あの事を言わないわけにはいかない。マックは意を決して村の周りにいた盗賊のことを村長たちに話した。


「貴様かハリヴ!」

「ち、違う、俺じゃない」


 曲がりなりにも貴族が盗賊と結託するなど、中央に突き出せば重罪人として処罰されるだろう。


「本当に違うんだ。俺はただ……」


 言葉を失い涙を流すハリヴ。

 

「俺はただ謝りたかったんだ。この村を出てから貴族に拾われて、傭兵として名を上げてこの地位にまで登り詰めた。少しはマシになったところを彼女に、リンダに見せたかったんだ」


 彼はまだリンダへの想いを忘れてはいなかった。

 しかし、いっときの間違いであったとしても、彼の行動は許されるものではない。


「泣き落としは効かんぞ」


 村人たちの心は動かなかった。

 そんな時、村の鐘が鳴り響き、一同は何事かと気構えた。


「魔物だ! 魔物の群が押し寄せてきたぞ!」


 刻一刻と、村に危機が迫っていた。

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