早くも、プロゲーマーとしての洗礼を受ける

北條院 雫玖

第2話 スペルマジック

 私の名前は、岩崎美咲。13歳。

 最近、プロゲーマーになったばかりの新人で、キャラクター名は、セレスディアって名前で活動しています。

 監督やチームの仲間に教わりながら、SNSで近況報告をしたり、ゲーム配信などで私の存在を知ってもらえるように行動してみたけど、ネットからの反応はあまり良くないのが悩み。

 ゲーム配信をやっていると、「確かに上手いがこれでプロなんだ、俺でもなれるわ」とか「これなら、バレンの方が上手いわ」等々、私のことを批判してくるコメントが書かれる毎日。

 バレンは私のチーム仲間で、正式名はバレンディッシュ。

 ファンからはバレンやバレン様の愛称で親しまれている女性プロゲーマー。私はバレンさんって呼んでいる。

 彼女の得意なゲームジャンルは、アクション系RPG。

 ゲーム配信をやると同時接続数は5万人を超えることもある。人気と実力を兼ねそろえ、視聴者とのトーク力も高く、誰も真似できないであろう魅せプで視聴者から絶賛されている。


 対して私はと言うと、同時接続数は40人とバレンさんの足元にも及ばない。

 最初こそは、サディクション期待の新人ってことで最大同時接続数は2万人を超えた時期もある。

 この時に配信していたゲームは、エレメントフィスト。

 私がプロになれたキッカケのゲームだったから、これでやっていこうと思った。

 だけど、私の戦い方は合気道。自分から攻めたりはしないし、主に反撃するだけ。おまけに、視聴者とのトークもおぼつかない。

 コメント欄には、「何で攻撃しないの?」「何もしないからつまらん」「すごいとは思うけど、ただ投げてるだけ」等々、辛いコメントが流れる毎日。

 中には、「合気道の本気を見た!」や「合気道だけでよく戦えるな。すげぇ」「おれも合気道やってみようかな」と、励ましのコメントも書いてくれたので嬉しかった部分もある。

 それでもめげずに、毎日配信をしていたけど、徐々に視聴者が減っていき今に至る。

 監督やバレンさん、チームの仲間に実際のゲーム画面を見てもらいながら、相談をして解決策を見出そうとした。

 だけど、返ってきた答えを聞いて私はすごく落ち込んだ。

「セレスディアの合気道の技術は、対戦した者にしか伝わらないし分からない。確かに凄いけど、配信向きではない」と言われてしまった。後で気づいたことだけど、実際、私の視聴者はリアルでも合気道を習っている人しかいなかったのだ。

 このままではプロとして認識してもらえず、ただただチームのお荷物になってしまう。

 私は、トーク力が無ければ、バレンさんみたいに魅せプで視聴者を楽しませることが出来ない。

 自信があるとすれば、謎解きと合気道。

 この2つを上手く掛け合わせて、プロとしての人気をどうにか獲得出来ないものかと悩んでいると、監督からある提案をされた。

「なぁ。セレスディア。君は謎解きも得意だったよな?」

「はい。でも、そういった配信もやってみましたけど中々見てくれる人がいなくて……」

「だったらさ。スペルマジックをやってみないか?」

 スペルマジックか。

 これって確か、めちゃくちゃ自由度が高いって評判のRPG系だったような。だけど、私この手のゲームは興味がなかったからやってこなかったんだよなぁ。

 どうしよう。

「これならウチのメンバー全員やっているから、序盤はアドバイスできるよ?」

「ふむ、そうだったんですね。じゃぁ、みなさん結構やり込んでいるんですか?」

「いやぁ、やり込んではいるんだけどね。今じゃ週一で開催されるギルド戦のときぐらいにしかログインしていなくて、メインでやってる人がいないんだ」

「そうなんですね。けど私、RPG系は今までプレイしてきたことがなくて……それに、どうして謎解きが関係するんですか?」

「スペルマジックはちょっと特殊でね。通常のRPGとはことなり、NPCからの情報を頼りにクエストをクリアしていく部類で、明確な目的地が表示されないんだ。だから、クエストを受注しても何処に行けばクエスト達成になるか、どうすれば進展するのかを情報を頼りに謎を解いて行く方式。そんなんだから、クエストを途中で放置するプレイヤーが多いんだ」

「なるほど。だからか。ちょっと面白そうかも」

「おお! やってくれるか! んじゃ。宜しく。知りえた情報はみんなに共有してくれると助かる」

「はい! 分かりました!」


 翌日。

 SNSで配信予定を報告し、「新しく始めるスペルマジック」というタイトルでスペルマジックをメインに活動をすることに決めた。

 私は運営にゲーム配信をしても良いかと申請をしたが、通常のフィールドは無理でもごく限られたフィールドであれば問題ないと許可を得ることが出来た。そのフィールドに入ったら、ディスプレイに配信可能エリアと表示されるみたい。

 何でそうなったか詳しい事情を聞いてみると、過去はゲーム配信の許可を出していたが、ゲーム配信者がプレイしているフィールドを視聴者が特定して、悪質なプレイヤーに情報を伝えて集団で襲いレアアイテムを強奪する事件が頻繁に発生した。

 このことから、善良なプレイヤーを守るために一部のフィールドを除き、ゲーム配信を禁止にしたそうな。

 だけど、ゲームを録画し編集をしたあとに、運営に編集した動画を送り許可が下りれば、SNSにその動画をアップロードしてもよいとも言われた。

 ある意味、徹底していると思う。でも、私からしてみれば……正直言って、かなりめんどくさい!

 そう思っていたのだが、公式ページを閲覧していると実はこのゲーム……なんと、ゲーム内通貨をリアルマネーに換金出来るシステムを導入していた。

 そりゃ、悪意のあるプレイヤーがいたら、お金目的で襲うわな。

 こんな危険なゲームを私に勧めて来たのか、あの監督は。

 謎解きどころではないぞ?

 まぁ、襲われたら返り討ちにしろってことなんだろうけどさ。

 しかし、立場を逆にして考えれば純粋に世界観を楽しみ、善良なプレイで活動を繰り返し行っていけば、運営と視聴者からも信頼は得られると思えたので大変だろうけど頑張ろうと思う。

 

 さてと、行きますか!

 スペルマジックの世界へ、ログイン開始!


 『スペルマジックの世界へようこそ、セレスディア。登録手続きは既に済んでいます。職業を選択してください』

 ふむ。どの職業にするか。何があるんだろう?

 私は職業をスクロールしていくが、膨大な量の職業があって驚いた。

「えぇ、職業だけでこんなにあるの!? 剣士、魔法使い、傭兵、二刀流剣士、忍者、侍、付与術士……ふぅ。読むのも疲れた。んーどれにしようかなぁ」

 結構、あるな。まぁ、焦らず見つけるか。

「んー、合気道だけだと派手さがないって言われてるから、強力な攻撃が出来る職業にしてみるか。あー、でも、接近戦だとどうしても攻撃はしないで合気道の戦い方になっちゃうんだよな……」

 どうするか。迷う……。

「接近戦は合気道。だとすれば、遠距離攻撃かな? 相手が近づいてきたら合気道で対処して、間合いが離れたら遠距離で攻撃するとか。うん。ありかもしれない。だとすると、武器を持たないで遠距離が出来る職業か」

 私は職業を何度もスクロールをしていき、自分の戦い方が出来る職業はないかと確認した。

 すると、ある職業が目に飛び込んで来た。

「ん? 魔弾銃士? 何だこれ? どれどれ。専用の片手銃を使用し魔法の弾丸を撃ち出す。装弾数は6発で固定。武器を納刀するときはホルスターに収める。リロードには詠唱が必要っと……これだ! これなら遠距離は銃で、接近戦なら合気道で戦える! これにしよう!」

『職業、魔弾銃士が選択されました。この職業に決定しますか?』

 はい。

『職業が決定されました。最初の街へ転送を開始します』


 始まりの街。グルーデル。

「おお、ここが最初の街か。どれどれ、ここは配信エリアかな? って、表示が出てこない。じゃぁ、録画スタート。で、早速ステータスを確認っと」

 ん? 何も表示されない。レベルやスキル。スキルツリーも何にもない。確認出来るのは、装備欄とインベントリだけか、どうなってんの?

 一応、マップは開けるけどクエストマーカーみたいなものはないし、チュートリアル的なアナウンスもなしか。

 じゃあ、せめてどんな武器なのか見てみよ……て、ん? この銃って、もしかしてリボルバー? 確かに装弾数6発ってあったけど、オートマチックじゃなかったのか……まぁ銃にはかわりないからいっか。

 何かしらのイベントが起こるアナウンスもされないままか。仕方がない、マップを頼りにしばらくこの街をくまなく探索してみるか。

 

 私はこの後、マップを頼りに宿屋、武器屋、防具屋、鍛冶屋等、順番に回っていった。

 NPCを初め、街では多くのプレイヤーで賑わいを見せていた。

 歩いていて思ったことだが、この街はかなり広い。ログインしてから約一時間が経とうとするけど、まだまだ探索の余地はある。私は迷わないように、訪れた個所に印を付けながら街を探索して行き、その道中で的当てらしきものが出来る場所を発見した。

「んー、ここは何だ?」

「なぁ、そこで突っ立っているあんた、的当てでもやんのか?」

 ぼーっと立ち尽くしていた私の背後から男性の声が聞こえて来たので、振り返ってみるとにこやかな笑顔をしながら近づいてきた。

「ん? あんたの初めて見るアバターだな。それに、そのキャラ名どっかで見たような……」

「え、あ、いえ。はい。このゲーム初めてやります。初心者です」

「初心者ねぇ。まぁ、確かにそんなところで突っ立って、何もしてないのを見れば初心者だって分かる」

 あぁ、こいつ、ムカつく! 分かんないんだからしょうがないじゃん!

「えっと、すみません。ここは何をする場所ですか?」

「んだよ、そんなこともわかんねぇのかよ。ここは、的当てをする場所だよ。みりゃわかんだろ? まっ、的当てっていってもただの暇つぶし、いや暇つぶしにもなんねぇな。んで、初心者のお嬢ちゃん、あんた職業は何にしたんだ?」

 ……なんか、こいつの説明、だんだんムカついてきた。でも、ここはガマンだ。

「教えて頂き、ありがとうございます。職業は魔弾銃士です」

「ぷぷ、ぷはは! ひぃ、どんだ初心者がいたもんだ。まあ、あんたみたいな初心者にはお似合いだぜ。だはは、笑いが止まんねぇ」

「……何がそんなに可笑しいんですか?」

「だってよ、ぷぷ。魔弾銃士は最弱なんだよ! だーれも選ばねぇよ。弱くていらねえし、PTでお荷物だし、速攻転職するわ。だはは。だったらそこの的当て練習がお似合いだぜ」

 コイツ、二度と関わりたくねぇ。

「ご忠告、どうも」

「おう。ザイベル、なーにをそんなに笑ってんだ?」

「キースじゃねぇか。いやよ、この最強の初心者様にレクチャーしてやったのよ。にしても、予定より遅かったな。まっ、退屈しなかったからいいけどよ」

「わりぃ。ちーとばかし時間かかっちまった」

 なーんか、もう一人変なのが加わった。さっさと、私の前から消えろよ。かと言って私から離れれば、もっとバカにされそうでムカつく予感しかしねぇ。はぁ。もし配信していたら、確実に放送事故だな。全く、初日から散々だわ。今回の動画は編集せずとも、お蔵入り決定だな。

「あれー、初心者さん、めずらしいアバターしてるねぇ。こんなアバター作れたっけ? キャラ名はセレスディアって、ああ!」

「んだよ、キース。突然大声上げて」

「ほら、あいつだよ! 最近プロゲーマーになった。所属は確か、サディクションだ! 俺、こいつの配信みたことあるし」

「え、マジで? こいつがあの期待の新人?」

 もう! そんな大声で叫ぶなよ! 他のプレイヤーに聞こえたらどうすんだよ! って、あ、めっちゃ見られてるし……。

 しかも、同意したかのように笑ってんじゃねぇよ!

「あの有名なプロチームが、こんな奴選ぶなんて終わったな」

「だな、人選ミスじゃね? てか、女だから選んだんじゃね?」

「言えてる」

 だめだ、これ以上何か言われたらキレそう。

 私だけならともかく、監督や仲間もバカにされた感じでイライラが収まらん。

 てゆうか、私こいつらに何もしてないのに、何でここまで言われなきゃなんないのさ。

 見返してやりたいけど戦い方を完全に把握出来てない以上、反撃したら勝ち目はないし、街の中で揉め事を起こせば犯罪者になってしまう。

 エレメントフィストならボッコボコに出来るのに……。

 って、こいつらもしかして、そのことを知っていて私のことバカにしてる?

「それになんだよ、そのアバター。かわい子ぶっちゃって。いかにも私可愛いですアピールかぁ?」

「言えてる。そう考えると女って得だよなぁ」

 アバターのことまで言ってきやがった。流石にもう無理、ガマンの限界だ。

「おい。そこの二人。黙って聞いてれば調子に乗りやがって。言っていいことと悪いことの区別が出来ないの?」

「おぉ、怖いねぇ。怒らしちゃった」

「わーい。にっげろー」

 こいつら、何処まで私をバカにすれば気が済むんだ……。

 って、ホントに逃げやがった!

 はぁ、プレイ初日から散々だ。けど、名前は覚えた。いつか、正当な勝負を挑んで絶対に泣かせてやる。

 しかも、一生懸命考えて作ったアバターのことまでバカにしたのは、マジで許せない。

 こうなったら、衣装を職業に合わせて変えてやる!


 武器はリボルバーで、この世界では不遇の職業。

 プロらしくないかもしれないが、アウトローみたいな感じが似合うかも!

 今日はここまでにして、このイライラを衣装作りで発散させようっと。

 その後は、完成した衣装がサーバーに反映されるまでの間、魔弾銃士の研究だな。

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