それでもふたりは異世界を謳歌する。【改稿版】

乙希々

序章

第1話 二人だけの世界

「──ねえ、ここって一体どこなの?」

「うーん……、僕にはさっぱり、かも──、」

「っ、何なの!? だって貴方あなたが私をこんなところに連れてきたんじゃない!」

「それは違うって! そ、それに今はケンカなんかしてる場合じゃないだろっ──」



 仄暗ほのぐらい森の奥。


 遠くの空から、クワッークワッーと鳥のような鳴き声がした。周りの景色は鬱蒼うっそうと生い茂った樹木に囲まれている。


 そんな薄暗い森のなか、木漏こもれ日の光だけを頼りに、〝僕〟と〝彼女〟は、何の当てもなくただ彷徨さまよい続けていた。


 それだけに僕は、彼女の無垢な問いかけに何も答えることが出来ない。


 こんな状況化だ。お互い不安な気持ちになるのは分からんでもないが、こんなときに口喧嘩くちげんかなんかしてる場合じゃないだろ。時間だって限られている。


 ただでさえ薄気味悪い森の中で、完全に日が暮れたら目も当てられやしない。だから今は、木々の間を無理やりでも歩き、まるで富士の樹海みたいなこの森から一刻も早く脱出するのが先決だ。


 それも非力な僕らたった二人だけで。


 それがたとえの相手だとしても……。


 ──って、それってかなり気まずくね?

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