279 さぁ、世界を再生しよう! ③

 ハクさんは、真面目な人だ。

 ちょっと露出が好きで、とりあえず脱ぎ始めるけれど。

 その性根は至って真面目。

 真面目すぎるくらいで、空回りする時もある。

 ただ、それ以上に努力の人だ。


 両親が行方不明になっても、エージェントとして、人として、多くのことに正面から取り組んでいる。

 先日のU-18はその集大成と言ってもいいのではないか。

 エージェントをする傍ら、学生としても大会に出場し結果を残したハクさん。

 ついには世界大会のベスト3にまで上り詰めて、その実力は明らかだ。


 それでも、そんなハクさんからしても。

 俺達――最強クラスのファイターは遠く見えるのだろうか。

 先日、ヤトちゃんが汎用カードを使用したことでトップファイターへの道を開いた。

 実力的にはハクさんだってヤトちゃんには負けていない。

 だけど、ハクさんにとってその一歩はあまりにも遠いのではないか。


 俺と出会わなかったら、ハクさんとヤトちゃんはもっと衝突を繰り返していただろうというのは、何となく分かる。

 モリアーティがそう二人を誘導したからで、二人が悪いということはない。

 それでも、ハクさんとヤトちゃんはお互いがお互いを意識してしまう関係だというのは、俺にも解るのだ。


 姉妹ではあるが、血はつながっておらず。

 血はつながっていないが、魂は繋がっている。

 普通の姉妹関係よりもよっぽど複雑だ。


 だからこそ――二人は互いに切磋琢磨し、高め合う関係であってほしいと俺は思う。



 □□□□□



「私は<仮面道化 ルナティック・ヴォーパル・バニー>をトリプルサモン!」

「……来たな!」


 ファイトは進み、いよいよハクさんの最終エースが三体同時に降臨する。

 ここを凌げば俺の勝ち。

 凌げなければ、ハクさんの勝利だ。


「<仮面道化の集結マスカレイド・クロス>を発動! フィールドの『仮面道化』モンスター一体を指定し、そのモンスター以外の『仮面道化』モンスターの攻撃力を指定したモンスターに加えます!」

「代わりに、そのモンスターでしか戦闘できないってところか」

「いえ、普通に全員で攻撃できます!」

「思ったより強いな……!」


 すでに<エクス・メタトロン>の妨害エフェクトは使用している。

 これを止める手段はない。

 <エクス・メタトロン>には戦闘時にフィールドの『古式聖天使』モンスターの数だけ打点を上げるエフェクトがあるが、流石に最終エース3体分では焼け石に水だ。

 このままでは、<エクス・メタトロン>が突破されてしまう。


「そういうことなら致し方ない。俺は<古式からの新生エンシェント・リバース>を発動! <エクス・メタトロン>をセメタリーに送りデッキからサモンの条件を無視してモンスターを呼び出す!」

「そのカードは、以前にも見たことがあります。それを使用するということは出てくるのは――」


 そう、以前にこれを使用した際に出したモンスターはどちらも――


「――<大古式聖天使 レジェンド・バニー>!」


 相手の使用するモンスターに相似するモンスターだ。


「……よりにもよってレジェンドが拾われるのか……不憫な奴め」

「レンさんが遠い目をしています!」

「いつものことじゃないかな……」


 とにかく続けよう。


「<レジェンド・バニー>は伝説のバニー! セメタリーのモンスター一体を選択してカウンターエフェクトとして装備する! 選ぶのは<デュエリスト・エレア>だ!」

『すぴぴ……ふぇ? こころこれすかぁ?』


 どうやら目を覚ましそうなエレアが、バニーガールになる。


「そして、装備したモンスターのエフェクトを、カウンターエフェクトとして使用できる。デッキから一番上のカードをセメタリーに送り、相手カード一枚を破壊!」

『えーと、えーい』

「……<ルナティック・ヴォーパル・バニー>はモンスターのエフェクトでは破壊されません」

「だが、これはカウンターエフェクトだ。最も攻撃力の高い<ルナティック・ヴォーパル・バニー>を破壊!」


 寝ぼけたエレアが、えいやと投げた白いエネルギー弾が、<ルナティック・ヴォーパル・バニー>を爆破した。

 そしてエレアが爆発音で目を覚ます。


『うひゃあああ!? な、何事ですか!? ここはどこ、私は誰!? え、店長とハクさん!? そして何故私はバニーガールに!?』

「まぁまぁ、お気になさらず。<レジェンド・バニー>の攻撃力は装備したモンスターの分アップする!」

「丁度<ルナティック・ヴォーパル・バニー>と同値……いいでしょう!」


 <ルナティック・ヴォーパル・バニー>がバニーガール・エレアと激突する。

 よくわからないままに、木槌を振るって戦うエレア。

 最終的に、モンスターは相打ちになって消えていった。


『後で、美味しいもの奢ってくださいね!』

「ああ、ありがとうなエレア」

『ハクさんも頑張ってくださーい!』

「ええ、ありがとうエレアさん」


 かくして、エレアが完全に退場し、残るは<ルナティック・ヴォーパル・バニー>が一体だけ。

 この攻撃が通れば俺の負けだ。


「だが、そう簡単には行かないのは解ってるだろ」

「……ええ」

「俺は、最後のカウンターエフェクトを発動する。発動するのは当然――<終焉覚醒>だ!」


 ここで俺は最後のカード、終焉カードを使用する。

 使用した<終焉覚醒>から怪しい気配が吹き出した後――


 ぽん、と弾けてどこかへ消えた。


 ……アレぇ?

 いや、エフェクトはそのまま使えるだろう。

 俺はセメタリーの<レジェンド・バニー>を覚醒させる。


「現われろ! <極大古式聖天使 ルナティック・レジェンド・バニー>!」


 <ルナティック・ヴォーパル・バニー>を模したモンスターが、俺のフィールドに降臨する。

 さぁ、最後の殴り合いだ。


「このまま行きます! <ルナティック・ヴォーパル・バニー>で攻撃!」

「<ルナティック・レジェンド・バニー>のエフェクト! セメタリーの<レジェンド・バニー>を装備! その攻撃力分自身の攻撃力を上げる!」

「<ルナティック・ヴォーパル・バニー>のエフェクト! セメタリーの『ヴォーパル・バニー』をデッキに戻し、その攻撃力の半分を自身に加えます!」


 両者の攻撃力は、これで完全に同値。

 このまま行けば、またも相打ちだ。


「続けて私は……<仮面道化の千変万化マスカレード・ミラージュ・アクト>を発動します!」

「今までに見たことのないカードだな……」

「ええ、ついさっき私もドローして、初めて存在を知ったカードですから」


 なんてことだ、ファイトの世界は摩訶不思議だな。


「これも、<万華鏡>と同様にセメタリーの<ヴォーパル・バニー>を戻します。その後、あるモンスターをサモン!」

「あるモンスター?」

「教えてあげます! この月兎仮面には、魂の繋がったたった一人の妹がいるんです!」


 し、知ってる~!

 というパンドラみたいなリアクションを思わずしそうになったが。

 そういうことであれば、なるほど確かに。


「私一人では、店長さんにもダイアさんにも勝てないかもしれません!」


 声がする。



「店長にだって、勝てます! 来てください! <蒸気騎士団 怪盗ヤト>!」



「――待たせたわね、姉さん!」


 そして、暗闇の中から<怪盗ヤト>の姿をしたヤトちゃんが現れる。

 サモンの影響で衣装が進化したか。


「……こうして、二人が同じファイトに並び立つのは初めてか」

「露出は多いが……対になる衣装は映えるな、白月、夜刀神」


 俺とレンさんが感想をこぼし、ヤトちゃんとハクさんは視線を合わせる。

 そうして頷きあうと――


「<怪盗ヤト>はセメタリーの『蒸気騎士団』モンスターをデッキに戻すことで、そのエフェクトを発動できます!」

「私が戻すのは――<蒸気騎士団 仮面ハク>! そのエフェクトで、フィールドかセメタリーの『蒸気騎士団』、もしくは『仮面道化』モンスター一体を選択!」

「その攻撃力を、フィールドのモンスターに加えます! 選択するのは当然<怪盗ヤト>!」


 <蒸気騎士団 仮面ハク>。

 ハクさんが蒸気騎士団に加入した際に受け取ったものだ。

 それをここで利用するのか。


「これで――」

「――終わりよ!」


 <ルナティック・ヴォーパル・バニー>と<怪盗ヤト>が同時にこちらを狙う。


「……なるほど、見事なものだな」


 俺はそこで敗北を受け入れて――ライフが零になった。

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