264 ハブられアリスの世界滅亡講座 ①
かくして、和国世界での騒動は幕を閉じ、俺は終焉カードを手に入れた。
普通に退治しただけで手に入れることができたのは、俺がほしいと思ってたからかな?
なんというかこう、運命力を望む方向に誘導したんだと思う。
トップファイターなら必須技能だ。
「それで、何故天の民は終焉のカードを欲する」
「そうよ。それ、所有するにしてもかなり危ないカードだと思うんだけど」
「まぁ最終的には、どこかしらのエージェント機関に預けるよ。今はこれを使って、終焉カードがどういう種類の滅亡をもたらすカードか調べたいだけだ」
俺の言葉に、ヤトちゃんが首を傾げる。
レンさんも「理解はできるが……」みたいな胡乱な視線だ。
「そもそも、世界を滅亡させるカードってのは、この世界にはいくらでもあるんだ」
「……まぁ、それはわからなくもないけど」
なんたってタイトルにもなってるくらいだしな。
俺は何を言って……あいた!(スパーン)
なにするんだよ、レンさん。
その扉は開いてはいけない? なにそれ……
「こほん。世界を滅亡させるカードが複数あるってことは、世界を滅亡させる方法も複数あるってことだ」
「まぁ……そうね。そもそも終焉カードにしたって、終焉の仕方は世界によって異なるわけだし」
蒸気世界であれば、クルタナを爆発させたり。
和国世界であれば、和国大樹を支配したり。
まぁ、いろいろだ。
「そこで、具体的に終焉カードがどういう絡繰で世界を滅ぼしてるか探ることで、こっちの世界で起きた似たようなパターンの事件から解決策を探るんだ」
「むむむ、そう言われると合理的に思えてきたぞ」
「こっちの世界だと、世界滅亡の危機なんて日常茶飯事だものねぇ」
なんだったらすでに過去何度も滅んでて、その度にどうにかこうにか再生してる可能性だってある。
事実、北欧神話は一度滅んで再生してるわけだしな。
「というわけで、今回はそんな世界滅亡の専門家を講師にお招きして、終焉カードの滅亡がどんな種類のものなのか探っていこうというわけだ」
「おー」
「おー……いや待て、我も専門家だぞ!? 我より世界滅亡に詳しい人間などそうそう――」
というわけで、お呼びしよう。
「アリスさん、入ってきてくれー」
「……いたなぁ、我より詳しい人間」
文句なしの世界最強エージェント、プロファイターとしてもヨーロッパチャンプであり。
間違いなく、この世界における最上位のファイター。
アリス・ユースティアさんだ。
そんなアリスさんは――
「むっすー」
めちゃくちゃむすっとした顔で、入ってきた。
何で……?
「店長、こんにちわデス。お久しぶりデス」
「お久しぶりアリスさん、またあえて嬉しいよ」
「つかぬことをお聞きするデスが――どうして先日の和国世界の援軍に私を呼んでくれなかったデス?」
原因それかぁ――
「いやそれは……予定が合わなかったからだろ?」
「そうデス! でも納得いかねーデス! 私も活躍したかったデス!」
なんてわがままな……仮にもハタチ越えた大人がなんてわがままな……!
「アロマにいいとこ見せたかったデス! お姉ちゃんすごいって言ってほしいデス!」
「尊敬はしてるだろ……アロマさんも」
「尊敬ポイントで店長とキアにかてねーデス!!」
そんなこと言われても……
「とにかく、だ。話がこれ以上脱線する前に、本題に入るぞ」
「そうよそうよ、ここでうだうだやってたら一生本題に入れないわよ」
「ぐうう、解ってはいる……解ってはいるデス!」
かくして、アリスさんは涙を流しつつ本題に入る。
それでも悔しいのか、何やら変なオーラが漏れ出していた。
これ、悪落ちしたりしないだろうな?
今は大丈夫でも、そのうちするヤツだぞ、これ。
「それでは、まずこの世界で起きた様々な世界滅亡事案を見ていくデス」
「字面のパワーがすごいわね」
言いながら、アリスさんはメガネを掛けてホワイトボードをどこかから取り出した。
メガネはともかく、ホワイトボードはマジでどこから出てきた?!
あ、視界の端にエレアが親指をグッとさせているのが見えた。
アリスさんもそれにグッと返している。
店の備品だったか……
ちなみに俺達の現在地はデュエリスト火札本店のバックヤードである。
「まず第一に、マジカルファイター事件から。こちらは非常にシンプルで、世界を滅亡させるダークファイターが異世界から攻めてくる事案デス」
「うちでも結構扱うわよね、ハウンドとか」
「世界のダークファイター事件の約三割が異世界や宇宙からの侵略者デス。残り三割が地球産悪の組織が世界征服を仕掛けてくるパターンデス」
更にそこに、四割の別パターンが入る、と。
とはいえ本題はそこではない。
ポイントは異世界からの侵略者は世界を滅亡させる存在が混じっているということだ。
まぁ、デビラスキングがそこまで本気で世界を滅ぼそうとしてたかは疑問だが。
「まず、特筆すべきこととして地球産悪の組織は世界を滅ぼそうとする連中はそこまでいないデス」
「そりゃあ、故郷だからな。これから手に入れようって世界を滅ぼしたら意味ないし」
「対して、侵略者タイプは普通に世界を滅ぼす連中が多いデス」
確か、キアが戦ったキアのお父さんを支配した連中も地球を滅ぼそうとしてたよな。
とはいえ逆に世界を滅ぼそうとしない侵略者もいる。
エレアの世界の帝国はこのパターンだ。
「じゃあ、終焉カードは侵略者タイプなの?」
「少し違うデス。侵略者はモンスターであることが多いデス。デスが、侵略者の方が主体デス。……伝わるデス?」
「終焉カードはカードが主体だが、侵略者はそうではない、ということだな」
例えば帝国の皇帝はモンスターだ。
だが、カードがこっちの世界に侵略してきたわけではない。
対して終焉カードはカードが本体だ。
なにせ、ダザイやモリアーティは現地の存在をモチーフにしているからだ。
ダザイに至っては現地人だしな。
「一番わかりやすい違いは、カードに意志がないってところだな。そういう侵略者はモンスターでも、意志がある。けど終焉カードには意志がない」
「世界を滅ぼすカードっていう概念そのものデス」
うむ、と頷き合う。
つまり終焉カードは、この最もポピュラーな世界滅亡の要因「侵略者による滅亡」とはまた別種ということだ。
「それって、終焉のカードによる滅亡って結構レアケースってことかしら?」
「そうとも言えないデス。カードが原因で世界が滅びかけることも、よくあるデス」
「よくよく考えなくても、我らの世界滅びかけすぎだろう」
まぁそこは、この世界がそういう世界だから。
なんというか、無数のホビアニを一つの世界にぶち込んだらあちこちで世界が滅亡しまくるよ、みたいな。
うーん殺伐。
「カードそのものに、世界を滅ぼす力がある事自体はよくあるデス。そういったカードが、何かしらの拍子に生まれてしまうこともデス」
「そういうカードを手に入れた人間が、洗脳されてカードの手先になったりするんだよな」
「この間のダザイみたいね」
ホワイトボードに、先程まで描かれていた侵略者の絵や悪の組織の絵が消され、カードがファイターを洗脳する絵をアリスさんが書き込んでいく。
かなりかわいい。
そしてエレアが崩れ落ちる音がした。
何も消すことないじゃん……だって。
「ただ、終焉のカードがこれに該当するかと言うと……それもちょっと怪しいデス」
「え? こっちじゃないの?」
「こういった世界を滅亡させるカードには、主体性がまったくない場合が殆どデス。主体性がある場合は裏に黒幕がいるデス」
――つまり、とヤトちゃんがレンさんと視線を交わす。
「――終焉カードにも、黒幕がいるってこと?」
ヤトちゃんの言葉に、アリスさんは難しい顔をするのだった。
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