111 宴もたけなわ
会場内を見て回ったり、外部からやってきた人と話をしたり。
時折舞い込んでくる問題への対応を、責任者として判断したり。
そうこうしているうちに時間は過ぎていく。
「やっぱり、全体的に想定よりお客さん多いですね」
「初めての試みだったからなぁ、これでもかなり多めに見積もったんだが」
やはり一番の問題は、来場者が想定よりも明らかに多いことだろう。
宣伝がうまく行って、「エクスチェンジスーツ」という目玉もあった。
だが、それにしたってお客が多い。
俺の店がバズってる時だって、これほどお客が来ることはなかったのだが。
「シズ姉の言う通り、それだけ私や店長に会いに来る“きっかけ”が皆さん欲しかったんですかねぇ」
「かもなぁ。それにしたって、俺達人気ありすぎだろ……」
「店長が人気あるのは当然ですよ!」
それはエレアもだと思うんだが……。
ともあれ、原因はこのイベントが「イベントであること」だとシズカさんは言う。
これまで俺の店がバズった時にやってくる客は、バズったというだけで俺達の店に興味を持ってやってくる行動力のある人たちだった。
たいして、今回のイベントの来場客はそうではない。
イベントとして、こっちから招いたからこそ行ってみようと思った人が多いという。
何にせよ、潜在的な俺達のファンは予想よりも多かったということだそうだ。
もちろんエクスチェンジスーツに興味を持っている人もいるが。
ただ、エクスチェンジスーツは今のところ高価なので、そういった人たちは仕事でエクスチェンジスーツを活用したいという人が多い。
単純な来場客としてやってくることは、あまりないだろうな。
「それにしたって、あんだけあった屋台の材料の在庫が切れるとは……」
「まぁ、屋台自体は数が少ないですし、しょうがないですよ」
問題は色々おきている。
どっさり用意した屋台の在庫が切れたりとか、未だにデビラスキングが捕まってないとか。
唯一問題がないのは、司会のレンさんがタイムキープをほぼ完璧にこなしているメインステージくらいじゃないか?
「あの人器用すぎるな……」
「レンさんにできないことは、ブロッコリーを食べることくらいですよ」
なんだそれは……むしろ子供なのにブロッコリー以外の子供が苦手そうなものは食べれるのか。
なすとかピーマンとか。
ともあれ、俺達は現在モンスターブースにいる。
理由は単純で、そろそろここの受付が終了する時間だからだ。
待ち時間の関係上、イベント終了までファイトしたい来場客を受け付けることはできない。
どこかで打ち切らないと。
そして打ち切りのタイミングは最初から告知済み。
今はその時間を、手の空いた仮装モンスターのキャストが呼びかけているところだ。
「ぐわはははは! 我らとの狂宴も残された時間はわずか! 闘志あるモノはその闘志を燃やすがいい!」
「モンスターブースの受付はもうすぐ締め切りよ! ファイトしてないファイターは遅れないようにね!」
キャスト毎に、個性が色々出ているな。
ロールプレイ強めのモンスターは、割と勿体ぶった言い方をしているし、普通に受付の締切を教えるキャストもいる。
俺達は締切を呼びかけているキャストの一人であるヤトちゃん――が扮した<探偵ショルメ>に声をかけた。
「今、どんな感じだ?」
「あ、店長。コホン……とりあえずこの後ファイトする予定のないキャストで呼びかけてるところだけど」
「問題なく受付を締め切れるか不安、って感じですかね」
いくら呼びかけても、うっかり受付に遅れる来場者は出てくるだろう。
放送を使って呼びかけてもいるが、効果の程は不明だ。
「やっぱり、さっきも言ったけど万が一受付に遅れた人が出たら、手の空いてるキャストがイグニスボードで対応するしかないだろうな」
「やっぱりそうなるわよね……わかったわ、準備しておく」
というわけで、仮に受付に遅れる来場者が出たり、受付には間に合ってもファイトが長引いて、イベント閉幕までに対戦できないファイターが出た時。
手の空いてるキャストがイグニスボードを使って対応することにした。
これは当日になって出された案だが、それをうまい感じにGOサインを出すのが俺とエレアの仕事だろう。
「んじゃ、エレアと店長もこの後メインステージだったわよね」
「はい、もし間に合ったら見に来てください」
「ええ、それじゃあ――」
ヤトちゃんが俺達への報告を終えると、再び<ショルメ>のロールプレイに戻ろうとする。
その直前、
「告白ファイト、楽しみにしてるわよ!」
そう、ヤトちゃんから言われた。
「だからしませんよ!」
そしてエレアの絶叫が、会場に響くのだった。
□□□□□
世間一般では、メインステージでエレアが俺に告白することになっている。
メインステージのエキシビションマッチで、俺とエレアが大トリを務めることとなったのは周知の事実。
イベントの主催者であり、俺もエレアもそれなりに有名人。
街のファイター代表としてもふさわしく、自然な成り行きでこのマッチングは成立した……のだが。
多くのファイターが、それをエレアから俺への「告白ファイト」と認識している。
俺は、世間一般の評判はエレアに教えなかった。
だが、周囲の人間の評判はそうではない。
だからこうして、事あるごとに告白ファイトだと言われているわけだが。
エレアはそれをあくまで冗談として受け止めていた。
いやそもそも、周囲の人間はエレアがエキシビションで何を告白するか知っている。
だからこそ、エレアもそれを冗談と判断したわけだが。
これで世間の評判も聞いていたら、そうは思わなかったかも知れない。
でもそうなったらファイトどころの話じゃないしな。
ともかく、モンスターブースを立ち去って、俺達は次にコスプレブースへ。
コスプレブースでは従来のコスプレイベント同様、コスプレファイター同士のファイトが認められている。
その結果、コスプレブースはモンスターブースより更に騒がしくなってしまっている。
白熱しているのだ。
モンスターブースのファイトは、相手を選んで行うものだが、コスプレブースは違う。
その場のノリでマッチングが成立する以上、変なファイトが始まって最終的にどちらも後に引けないことになる可能性だってある。
そこで出番となるのが――
「さぁ、行きますわよアウちゃん、キリアちゃん!」
「ええ」
「う、うんっ!」
――マジカルファイターだ。
マジカルファイターは一般に認知されておらず、あくまでここでは仮装の一種と思われている。
だが、だからこそ事件がおきた時真っ先に駆けつけ、ファイトでそれを制圧するのだ。
おきた事件をファイトで解決する場合、善良なファイターの方が勝率がいいという統計結果が出ている。
運命力の思し召しってところか。
そこに加えて、アロマさん達を正義の味方だと相手が思わないことで、油断が発生する。
彼女たちをここに配置したのは、そういった狙いあってのものだ。
「頑張ってくれよ、三人とも!」
ちょうど出動するタイミングだった三人に声を掛ける。
三者三様、それぞれ俺に挨拶をした後――
「エレア様! 告白ファイト、楽しみにしておりますわ!」
と言って、彼女たちはその場を去っていく。
「だから告白ファイトじゃないんですってばぁ!」
エレアは否定するものの。
その後も、多くの知り合いがエレアに「告白ファイト楽しみにしている」と伝えてきた。
俺に対しては……あんまりないな。
内容がほぼ被っているからだろうか。
このエキシビションファイト最後の演目を、俺とエレアのファイトにしたのは、エレアがねじ込んだのだろうと誰もが思っているのだ。
まぁ、実際その通りなんだけど。
何にしても――
そろそろ、時間だ。
もうすぐこの宴も終りを迎える。
俺達は、その最後の大仕事を片付けるべく、メインステージに向かった。
向かおうと決めてから、ステージにたどり着くまで。
俺達の間に言葉はない。
……やっぱり告白ファイトなんじゃないか?
と思ったものの、俺が聞くことではないな、うん。
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