103 小学生と同レベルの
各種おえらいさんや、よそからやってきた人と話をしていると。
不意に、聞き慣れた声が響き渡った。
「っしゃぁ! 俺の勝ちだ!」
――熱血少年のネッカである。
今日もイグニッションファイトに勤しんでは、勝利をもぎ取っているらしい。
負けず嫌いな彼らしい一面は、イベントでも健在だ。
「楽しそうですねー」
「あ、いたぞ。あっちだ」
そう言って指差す先に、ファイトで勝利したネッカ少年とそんなネッカ少年を見て目を輝かせる少女が一人。
黒髪ショートで、前髪を花がらのピン留めで留めている少女だ。
彼女こそが、時折話題に上がるネッカ少年の幼馴染ことアツミちゃんである。
「あ、エレアちゃん! 店長さん! こんにちわ!」
そんなアツミちゃんが、こっちに気づいたのか手を振って挨拶してくる。
せっかくなので俺はエレアと視線を交わし、アツミちゃんとネッカ少年の元まで向かうことにした。
これも、イベント主催者としての挨拶の範疇だな。
「ふたりとも、楽しんでるか?」
「あ、店長! おう、楽しんでるぜ! ここまで順調に三連勝だ!」
ネッカ少年も気がついて、笑顔でVサインをする。
流石は天火市最強小学生、相手は仮にも闇札機関の優秀なエージェントなのだが。
ものともしない強さだな。
「相手してるのは……リオンさんですね。わぁ、<ライブラアイドル・グラスゼリー>ちゃんですよ、可愛いです」
「――次なる星読み、必ず勝利してみせます」
で、相手しているのはそんな闇札機関最強である十二天将の一人、リオンさんだった。
今は<ライブラアイドル・グラスゼリー>というモンスターの仮装をしている。
セリフまで、<グラスゼリー>っぽい。
「ライブラアイドル」は文学少女系アイドルというコンセプトのデッキだ。
文学少女っぽいアイドルを集めた、地味なんだか派手なんだかよくわからないデッキ。
オタクが好きそうな美少女が多いのが特徴だな。
<グラスゼリー>はその中でもキーカードであり、知名度も高い。
特徴的なでかい黒縁メガネをクイッとしながら星読み――<ライブラアイドル>にとってのイグニッションファイト――の感想を述べていた。
「次は本気のこの人とやってみたいな」
「こらネッカくん、この人は<グラスゼリー>さんなんだよ!」
「へいへい」
ネッカ少年の言う通り、本来のリオンさんは快活なスポーツ少女だ。
使うデッキも、アスリート系動物モンスターを中心とした「アニスリート」デッキ。
仮装のためとはいえ、メインではないデッキを使っているのだ。
本領……とはいい難いだろう。
とはいえ、今はイベント中で仮装をしているというバフのお陰でそこまで本来の実力と遜色はないのだが。
後、デッキの完成度も高いしね。
何せ俺が作ったレンタル用デッキを使用しているからな。
自画自賛? 事実だよ。
それはそれとして、アツミちゃんは今はリオンさんが仮装をしているということを尊重しているようだ。
なんというかこれは……歴戦のオタクの目線である。
「今日は二人で回ってるんだな」
「そうなんだよ、アツミがどうしても俺に戦ってほしいモンスターがいるっていうから、回ってるんだ」
「あ、えっと……えへへ……そうなんです」
どうやら、アツミちゃんたっての希望でモンスターとファイトして回っているらしい。
「今回の仮装モンスター……可愛い女の子モンスターが多いんですよ!」
「わかりますか!」
アツミちゃんの言葉に、エレアが頷いていた。
主催者権限で、可愛い系モンスターを大量にねじ込んだ主犯がここにいる。
まぁ、如何にもなモンスター系の仮装はイグニスボードを使わないと難しい。
主な仮装モンスターは、人型が中心になる。
そうなると、イケメンと美少女が自然と多くなるんだよな。
で、ネッカ少年はアツミちゃんに請われてそういう美少女モンスターとファイトしているようだ。
アツミちゃんは、多少ファイトの心得こそあるものの仮装モンスターに勝てるほどではない。
どちらかというと、ネッカ少年のファイトを隣で見ている方が好きなんだとか。
「アツミの奴、最近こういうモンスターにやたらと熱心なんだよな」
「エレアの布教がうまくいったからなぁ」
で、そんなアツミちゃんは今現在、順調にオタクの道を突き進んでいる。
エレアによる布教が成功したからだ。
「そういえば、クローはどうしたんだ?」
「ん、クロー?」
クール少年のクロー。
基本的に、こういうイベント事だとネッカ少年はクロー少年と一緒に行動していることが多い。
それが今回、アツミちゃんと二人きりっていうのは結構珍しい組み合わせだ。
「え、えーっとそれはその……」
何やらアツミちゃんが恥ずかしそうにしている。
……ん? チラチラとネッカ少年の方を見ている?
「なーんか、渋い顔して一人でコスプレブースの方に行っちまったんだよな」
「あーそれって」
エレアが、ピンと来た様子で人差し指で上を指差す。
「ネッカくんとアツミちゃんを二人きりにしたかったんですね!」
ああ、うん。
アツミちゃんが恥ずかしそうにしているあたり、そういうことなんだろう。
というか、エレアの言葉でアツミちゃんが顔を真赤にしてしまった。
「あ、いえ、あ、その、あ、えっと、あうあうあう」
「んふふふー、アツミちゃんも隅に置けませんねぇ」
「やめたれ」
とりあえず、エレアの頭にぽんと手を乗せて咎める。
むすっとした様子でエレアがこっちを見上げてくるが、無視だ無視。
「だ、大丈夫かアツミ?」
「ネッカくぅん……あううう」
「お、おう?」
んで、そのまま顔を真赤にしてネッカ少年の後ろに隠れてしまった。
そうすると、今度はネッカ少年のほうが興味深い反応を見せる。
少し、気恥ずかしそうなのだ!
「ちょ、アツミ! なんで俺の後ろに隠れるんだよ!」
「だ、だってぇ、だってぇ……」
ネッカ少年が振り返ると、アツミちゃんもそれに合わせて体を移動させて。
なんだか微笑ましい光景が広がっていた。
「て、店長もエレアの姉ちゃんもなんで笑ってんだよぉ!」
「いや、微笑ましいと思って」
「微笑ましくねぇ!」
やがて、恥ずかしくなったのか。
「アツミ、行くぞ!」
「え、あ、ネッカくん!?」
アツミちゃんの手を取った。
アツミちゃん、真っ赤である。
これは後で冷静になった後、ネッカ少年も真っ赤になるパターンだな。
そして、二人は勢いよく走り出してしまった。
――見ての通り、ネッカ少年とアツミちゃんはそれなりにお互いを意識している。
なんとも微笑ましい関係だ。
ダイアが未だにコハナちゃんとくっついてないのとは違うのだ。
あいつほんといい加減にしろよな……。
「それにしても、ずいぶんアツミちゃんのオタク化が進行していたが」
「ソ、ソウデスネー」
目をそらすな。
「アツミちゃんが、業の深い世界に入りこまないか俺は不安だよ」
「あ、それなら心配は要らないとおもいますよ!」
業が深いというのは、アレだ。
ネッカ少年とクロー少年の関係に、ねっとりとした関係性を見出してしまうことだ。
が、それは問題ないとエレアは言う。
「だってほら、アツミちゃんの場合クローくんとネッカくんがそういう感じになったら、ヤキモチ焼いちゃうと思いますから」
「なるほど」
確かに、一理ある。
二人の関係性に尊さを見出すには、どうしたって客観的な視点が必要だからな。
「……ん、なんか実感がこもってるな?」
「そりゃあだって、店長とダイアさんの関係で身を以て知ってますから」
「なるほど実体験――って、え?」
「え?」
不意に、俺はエレアがとんでもない自爆をかましたことに気がつく。
エレアも遅れてそれに気がつく。
俺達はそれからしばらく沈黙し。
「えっと」
「はひ」
「いや、別に」
「は、はひっ」
しばらくそんなやり取りをしてしまった。
なお、どこからか走ってきたレンさんが、
「熱血の民たちと同レベル!」
と言って去っていた。
しょ、小学生と同レベル。
割とショックだった――
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