101 開会! モンスターランドカーニバル! ……の開会式
様々な準備を終えて、ついにこの日がやってきた。
「モンスターランドカーニバル」開催当日。
多くの人々が、この「天火市市民公園」に集まっている。
なんというか、開幕前だというのにとんでもない数だ。
それを前に――
「と、いうわけでこのイベントは多くの人の協力と連携によって実現した。その事に改めて感謝の意を示すとともに、参加者諸君! どうかイベントを楽しんでくれ! 以上だ!」
多くの人が集まったメインステージで、主催の一人である俺が挨拶を終えた。
俺はこのイベントにおいて、実質的な主催者として認識されていた。
企画も準備も、エレアが大分中心に立っているのだが、俺はそのエレアの上司なわけで。
ついでに、満場一致で「この街で行われるファイト系のイベントの顔役は俺しかいない」と周囲から認識されていた。
まぁ、実力的にも立場的にも否定できることではないのだが。
それはそれとして、少し居心地が悪いのも事実だ。
で、挨拶を終えて主催者席に戻る。
隣には、主にイベントで参加者を迎えるキャストの責任者であるレンさんがつまらなそうな顔で俺を見上げつつ座っていた。
「天の民は話がつまらん」
「俺が無難なことを言わずに、誰が言うんだよ。話も短くまとめたし、これ以上はないぞ」
「そう言われるとそうなのだが……」
無難なことしか言わなかった俺の挨拶が気に入らなかったらしい。
しかし俺は海馬社長のような強烈なプレゼン、演説はできない。
するようなキャラでもない。
そして俺が言った通り――この後の主催者挨拶は、濃いメンバーが多い。
俺がメインステージを降りた後、壇上に上がったのはめちゃくちゃテンプレな小悪党という感じの人。
ひょろ長いタイプの、鼠みたいな顔立ちだ。
「うひょーっひょっひょっひょ! お集まりいただきたーいへん感謝するざます! 天火市市長の
んで、これだ。
この人は金々関ワルゾウ、なんと天火市の市長である。
如何にも悪そうな風貌と名前だが、その例に漏れず元は悪い市長だった。
なんとイグニッションファイトが大嫌いで、天火市中の小学校にイグニッションファイト禁止令を出してしまったのである。
当然反発したネッカ少年と対立、最終的にダークファイターとしての正体を現しネッカ少年とファイト。
ネッカ少年の勝利により、無事事件は解決した。
んで、面白いのはここからで、その時ネッカ少年のカウンセリングを受けたワルゾウ氏は改心。
以後、イグニッションファイト大好き市長としてこれまでの悪行の罪滅ぼしをするべく奮闘。
今ではそれなりに市民からも好かれている名物市長と化していた。
アレだな、三枚目の悪役が改心して主人公の味方になった後、大人としての責任を果たしつついい味を出すタイプのアレだ。
今回のイベントでも、それはもう全面的に協力してくれた。
どうでもいいけど、小学校にイグニッションファイト全面禁止令を出した際、天火市各地のカードショップにもギャグ系悪の組織が嫌がらせにやってきていたそうなのだが。
うちには来なかったんだよな。
ワルゾウ氏曰く、「突いて蛇どころか竜が出てくる藪を突くほどワタシもバカじゃないざます」とのこと。
こうやって警戒されるから、俺はダークファイター関係の事件に関われないんだろうなぁ。
さて、そんな現在は善人な市長だが――こういうタイプの人の例に漏れず話が長い。
ちょうど今、しびれを切らしたネッカ少年が、市長へ文句を言いにいっている。
「ワルゾウのおっちゃん! 話なげーよ!」
「だまらっしゃいネッカの坊主! ここからがいいところざます! それとおっちゃんじゃなくて市長と呼ぶザマスよー!」
「後がつかえてるじゃんか! あーもう、こうなったら俺がイグニッションファイトで勝ったら話終わりにしろよ!」
「いい度胸ざます! 今日こそその顔に吠え面かかせてやるざぁますよ!」
んで、こうなると。
結局ファイトが挟まればそれはそれで時間がかかるのだけど、観客はファイト大好き人間しかいないのでこの展開は大歓迎だ。
大盛りあがりの中、二人のファイトはネッカ少年の勝利に終わった。
「ほらな?」
「むむむ……」
で、それを眺めながら俺がレンさんに言うと、レンさんは納得し難そうな難しい顔で唸った。
更に追い打ちをかけるかの如く、続いて空から人が降り立ってくる。
ファイト工学研究所、副所長の麻上クレハさんだ。
「はぁーい! みんな、今日のイベントを楽しみにしてくれたかしらぁん!」
例のジェットパックで降り立ったクレハさんは、軽く挨拶をしてからファイト工学研究所の説明を始める。
語り口は濃いが、存在自体が濃いワルゾウ氏と比べると内容はいたってまともだ。
エクスチェンジスーツと、登場に使用したジェットパックの宣伝もしっかりやっている。
と、思ったら。
『ぐおおおおおおおおっ!』
なんか、恐竜みたいなメカが現れた。
「なんだなんだ?」
「おお、かっこいいぞ」
小学生って恐竜好きだよね。
と、隣で目を輝かせているレンさんをみて思いつつ。
「ふふふ、この恐竜は私達が開発しているエクスチェンジスーツの発展型よぉん!」
どうやら、イグニスボードの投影機能を使わずモンスターを出現させる技術を研究中らしい。
イベントに間に合わなかったのは残念だが、イベントはお披露目するのにちょうどいい舞台と言えるだろう。
「ところであの恐竜、なんか暴れだしそうじゃないか?」
「恐竜だしな……」
なのだが、雲行きが怪しい。
恐竜メカが、物理的に暴れだしそうなのだ。
このままだと、会場の観客に飛びかかりそうだぞ!?
「ピガガピー! そこまでデス!」
と思ったら、メカシィがブースターをふかして飛んできた。
対空しながら、恐竜ロボと相対する。
「そこまでデスダイナソー・ロボ! 先輩としてこのメカシィがその乱暴狼藉をとめマス! ピガガピー!」
「あれ、ダイナソー・ロボという名前なのか……もう少しいい名前はないのか?」
「資料によると、エクスチェンジスーツ発展型も名前はエクスチェンジスーツ発展型(仮)だな」
俺はいつの間にか手元に配られていた資料を確認してつぶやく。
ともあれ、どうやらこれはダイナソー・ロボのデモを兼ねた演出らしい。
メカシィの宣伝も兼ねてるんだろうな。
「ところで、壇上に立っているのが口紅の民なのはなぜだ? 所長の民はどこに行った」
「口紅の民て……所長のコウイチさんならほら、あそこにいるだろ」
そう言って、俺はダイナソー・ロボを指差す。
アレがエクスチェンジスーツの発展型だというなら、中に人が入っている必要がある。
資料を見れば、操縦しているのはコウイチさんで間違いないようだ。
ところで、口紅の民って、クレハさんの名前の赤と口紅が濃いのをかけてるのだろうか。
こういうダブルミーニングは上手いよな、レンさん。
で、ファイトは無事進行してダイナソー・ロボは倒された。
会場も熱気に包まれてきている。
「ほらな? 俺が真面目にやらないとこの後が大変だろ?」
「ぐぬぬ……いやしかし、最後の挨拶を行うのは
そう言って、レンさんが舞台袖に視線を向ける。
真面目なエレアが真面目な挨拶をすると期待しているのだ。
だが、残念だったな。
エレアは真面目な挨拶をできないだろう。
なぜなら――
司会に促されて現れたエレアは、めちゃくちゃ緊張していた。
物理的にカチコチな動きをしている。
期待していたレンさんが、頭を抱えるくらいだ。
「配信などでは、緊張せずできていたではないか――!」
「アレはカメラ越しだからな……ちょっと行ってくる」
あまりにもあまりな様子を見かねて、俺はそっと舞台袖の方に向かう。
なにせ、今のエレアはそれはもう緊張しまくっているわけだからな。
具体的には、
「ほほほんじふはおひがらもよよよよよよよ」
こう。
もう何を言っているか伝わらないレベルだ。
それでも俺が舞台袖に行って、
「落ち着け、エレア!」
そう小声で呼びかけると、俺に気づいたエレアは顔を輝かせる。
それから、気を取り直して改めて挨拶を始めました。
「ご、ご紹介に与りました、え、エレアです!」
まだ緊張しているようだが、それでもなんとか挨拶と呼べる挨拶ができるようになった。
よかったよかった。
と、思っていたらドンドン口が回らなくなっていき――涙目でこっちを見てくる。
「が、がんばれエレア……エレアなら行ける!」
俺がそのたびに声をかけて、エレアは顔を輝かせ挨拶を続ける。
そんな事を何度か続けて。
「そ、それでは……モンスターランドカーニバル、スタート……です!」
なんとか、開催宣言までこぎつけた。
いやぁ、よかったよかった。
と、思いながら席に戻ると……
「……我々は、なぜおまえたちのイチャコラ開催宣言を見せられているのだ?」
ジト目のレンさんが、砂糖を吐くような顔で出迎えるのだった。
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