99 ファイトロボ・メカシィとイベントの準備
イベント開催に並々ならぬ情熱を燃やす者がいた。
一人は言うまでもなく、企画担当のエレアだ。
そしてもう一人……一人? がメカシィである。
エレアが情熱を燃やすのは当然だが、メカシィがやる気になる理由も明白だろう。
今回のイベントは、カードショップ「デュエリスト」が主催し、ファイト工学研究所がそれに協力している。
メカシィは俺の店の店員であり、ファイト工学研究所の出身でもある。
両方に関係しているのだから、メカシィのモチベーションは大雑把に考えても通常の二倍である。
しかし、そんなメカシィにも問題があった。
「ワタシは今まで……忸怩たる思いをしてきマシタ……! ピガガピー」
開けた広場――イベントを開催するエリアでメカシィはぽつりと零す。
その目には、並々ならぬやる気が感じられた。
メカとは一体……。
「なぜなら……やることがないのデス! ピガガピー!」
――――ぶっちゃけ、メカシィにできることはあまりなかった。
というのも、準備段階でやることはいくつかあるのだが……。
それらは主に「企画の準備」、「資材の搬入」、「その他打ち合わせ」に大別される。
唯一「資材の搬入」はメカシィが大いに実力を発揮できる可能性があったのだが――あまりにも量が多かったため業者を頼んでしまった。
「打ち合わせ」にメカシィは当日スタッフとして参加しているが、できることはあくまで説明を受けることだけ。
メカシィはこれまで、やる気を滾らせたままそれを発散するところがなかった。
後単純に、俺とエレアが打ち合わせで忙しくする関係上、店はメカシィに任せざるを得ないのだ。
「今のワタシは……通常の三倍のやる気に満ちあふれていマス! ピガガピー!」
かくしてメカシィは現在、真っ赤に染まっていた――
「赤くなると通常の三倍って、いつのネタだよ!?」
「何言ってるんですか? 店長」
通りすがりのエレアに突っ込まれてしまった。
しまった、この世界にはガンダムがないのだ。
それに類するものはあるのだが、直接的に同じではないのだ。
たまに前世のミームが漏れ出て、困惑されてしまうことがある。
気をつけないと。
「……参りマス! ピガガピー!」
「メカシィさんが残像を出しながら走り始めました!」
トランザムじゃねーか!
混ざってる混ざってる!
「それにしても、いよいよ準備が始まりましたねぇ」
「ああ、あと数日もすればイベント本番か……長かったような、短かったような」
各方面とのすり合わせも終わり。
人も機材も、全て手配することができた。
宣伝もバッチリで、ネット上でもかなり話題になっているようだ。
前世と違って、カードにまつわるイベントは一般層からオタク層まで幅広く訴求する大イベントだ。
来客の数は結構なものになるだろう。
その分、人も多く集まって準備に勤しんでいる。
その中で、猛然と活躍するのがメカシィというわけだ。
「でしたら、メインステージの設営はこのメカシィにお任せください。ピガガピー」
「一人でやるのか!?」
「メカシィは、最強を目指すファイトロボですので。ピガガピー」
さて、メカシィの方に意識を移すと。
会場の中央に出来上がる予定のメインステージ設営を行うようだ。
興味があるので、俺はそちらの方に向かってみる。
どうやらメインステージ設営を単独で行うようだ。
設営を行っているスタッフが、大丈夫なのかと困惑している。
「メカシィ、行けるのか?」
「店長。お任せください、メカシィはやり遂げます。ピガガピー」
そうして、メカシィは体のあちこちから腕を取り出した。
無数の大工道具が握られている!
そして全部赤く光っている!
「メカシィに施された108の改造の一つ! 建てまシィモードの実力をお見せいたしマス! ピガガピー!」
「108も改造されてるのかよ!? ってか建てまシィって!」
アレか、全部に◯◯シィっていう語尾がつくのか!?
とか突っ込んでいる間にも、ブースターを吹かせてメカシィは設営予定地に突っ込んでいった。
ブースター!?
「うおおおおおおおおおお! ピガガピー!」
「す、すごい勢いでステージが出来上がっていく!」
メカシィがステージの周りを回転すると、少しずつメインステージが出来上がっていく。
大工道具は……使っていない!
「3Dプリンター!?」
「うおおおおガピー!」
じゃあ何なんだよその大工道具!
ともかく、どうやらメカシィには3Dプリンター機能が実装されているようだ。
この世界の3Dプリンターは性能が前世のそれとは段違い、こういうメインステージだって作れちゃう。
もしかしてあの大工道具がプリンターの各種装置なのか……?
何にしても、最終的に立派なメインステージが出来上がった。
メカシィは空中を浮遊しながら額の汗を拭う動作をしている。
相変わらず、とても人間臭いメカだ。
「完成しマシタ! ピガガピー」
「おお、すごい」
「やればできるもんだなぁ」
設営スタッフの人と、メカシィの高性能っぷりに感心している。
流石メカシィ、デッキを研究所の予算で強化すること以外は何でもできる。
「では、ワタシは次の場所へ向かいマス。ピガガピー」
「トラ……三倍モードは使いすぎるなよー!」
「了解しマシタ! ピガガピー!」
そう言って、メカシィは別の場所へ向かって飛び去っていった。
□□□□□
その後も、メカシィは八面六臂の活躍で会場を設営していく。
これまで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく。
それはもうすごい活躍だった。
「んで、概ね準備も終わったわけだが」
予定していたスケジュールは大幅に前倒しされ。
あっという間に会場は完成。
後は本番を迎えるのみとなった……わけだが。
「その功労者たるメカシィは……何をしてるんだ?」
「店長、これはメカシィ用エクスチェンジスーツデス。ピガガピー」
メカシィがタイツを着ていた。
何か……よくない趣味みたいになっている!
とはいえ、メカシィ用エクスチェンジスーツというのは納得だ。
エクスチェンジスーツはファイト工学研究所の制作物、おなじ制作物のメカシィが装着するのも至って自然な流れである。
「め、メカシィさん!? まさかそれで人型に!? び、美少女ロボに!?」
「急にどうしたエレア」
「だ、だって店長! メカシィさんが美少女ロボになったら、なっちゃったらー!」
突然やってきたエレアが、心配そうに叫んでいる。
というかこれは、アレだな。
美少女ロボが見てみたいという欲望と、店員という俺に近い立場のメカシィが美少女になってしまう危機感が綯い交ぜになっているな。
「ご安心くだサイ、エレアさん。メカシィが転身するのは……美少女ではありまセン」
「ほっ……ああいやでもちょっと残念……」
「――巨大ロボデス。ピガガピー」
「巨大ロボぉ!?」
あ、エレアが大興奮している。
そりゃあ興奮もするか、ロボはオタクの魂だからな。
「では参りマス。転……身!」
「その掛け声、絶対に必要ってわけじゃないとおもうんだけどな……」
とか言っていると、メカシィが――変形を始めた。
すげぇ、変形だ!
どこからか飛んできた合体パーツとも合体し、大きなロボットになっていく。
ホログラフすげぇ!
「お、おおお……ロボだ、ロボになっていくぞエレア」
「興奮しますね……店長!」
俺とエレアは二人で手を取り合って、思い切り興奮していた。
だってロボだぜ!?
そりゃもう、飛び跳ねるくらい興奮してしまうのも無理はないことだ。
そして――
「我が名はダーク・メカシィ……溜まった鬱憤により闇落ちした……ダークなメカシィ。ビガガビー」
――メカシィは闇落ちした。
ああうん、溜まった鬱憤と、それを晴らすことによる無茶が祟ったんだな……
いや唐突すぎない!?
「……と、止めますよ、店長!」
「あ、ああ……イベント主催として、行って来いエレア!」
かくして、今日の単発回のファイトが始まった。
まぁ、流石にこの流れでエレアが負けるということはないのだが。
何にせよ、エレアもエースモンスターが<帝国革命の開拓工兵>という巨大ロボである。
巨大ロボ同士の対決は見ごたえがあった。
なお、後日。
メカシィはあまり無茶をしないよう、三倍モードを封印することとなるのだった。
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