96 過去:負けないでください、店長! 宿命の対決、店長VSダイア ②

「――俺は、<大古式聖天使エンシェントノヴァ ロード・ミカエル>をサモン! カウンターエフェクトを一枚セッティングしてターン終了だ!」


 先行を取った俺が、基本の構えでターンを終える。

 ダイアが相手でも変わらない、相手の攻撃を受けて返すのが俺のやり方だ。


「では行くぞ、私のターン。現われろ――<グランシオン・バニシングフライ>!」

「……出たな、<グランシオン>モンスター」


 フィールドに、小さな竜のようなモンスターが出現する。


 「グランシオン」。

 それが、今年の公式戦から使い始めたダイアの新しいデッキだ。

 このデッキを使い始めて以来、ダイアは常勝無敗を続けている。

 後に最強とは憧れであるという結論を出す俺だが、この時のダイアは文字通り最強であると言わざるを得なかった。


「……第三回ファイトキングカップ」

「ん?」

「あの大会で君に勝利した翌日、私はこのカードを見つけたんだ」


 ぽつり、とダイアはそう語る。

 正直、納得できるタイミングではあった。

 なにせあれで俺に勝利して以降、ダイアはどこか憑き物が落ちたような感じだったからだ。

 日本チャンピオン逢田トウマ。

 最強とすら呼称されるファイターが、ほんとうの意味で最強になった瞬間。


「まぁ、デッキとして形になるまで、数年も時間をかけてしまったが……それでも、このデッキは今の私が作れる最高のデッキだ」

「……なるほどな」

「続けていくぞ、<バニシングフライ>はサモンする時に、デッキから<心火しんかの楽園 グランシオン>をセメタリーにコストとして送る」


 <心火の楽園 グランシオン>。

 このデッキのキーカードだ。

 以前ダイアが使っていたデッキ、<点火の楽園 バニシオン>と同じくフィールドに設置するタイプのエフェクトで、「グランシオン」デッキはこれの存在を前提としている。

 「進化」した「壮大」なる楽園。

 故にグランシオン。

 まさしく、進化したダイアのデッキにふさわしい。


 先ほどのサモンは、通常の方法で行うサモン……“ノーマルサモン”以外の方法で行うサモンだ。

 遊戯王だと通常召喚はただ召喚と呼称して、それ以外の召喚を特殊召喚と呼称するんだが、イグニッションファイトだと逆なんだよな。

 ともかく。

 このコストとしてセメタリーにカードを送るエフェクトは、先程のサモンのためのものだ。

 そしてこのサモンは、エフェクトによるサモンではない。


「俺は<ゴッド・デクラレイション>を発動!」

「――いきなり<ゴッド・デクラレイション>!?」


 驚くエレアをよそに、俺の<ゴッド・デクラレイション>で<バニシングフライ>はサモンが無効にされる。

 エレアが驚くのも無理はない、俺は普段のファイトでそうそう<ゴッド・デクラレイション>を最初から使うことはない。

 大抵は、ファイトの終盤で相手の行動の要所を止めるために使用する。

 もちろん、今回みたいにそうでない場合もあるわけだが、エレアがそれを目撃したのはこれが初めてのことだからな。

 そして、初手から<ゴッド・デクラレイション>を使っていく相手というのは――


「だが、コストである<心火の楽園 グランシオン>のセメタリー送りは適用される。続けて、<心火の楽園>のエフェクト! セメタリーにあるこのカードは1ターンに1度、このカード以外の<グランシオン>カードをデッキに戻すことで手札に加えることができる」

「<ゴッド・デクラレイション>の封殺を……踏み越えた」


 最初の攻防。

 正直、こうなることはファイトが始まる時点で理解っていた。

 <バニシングフライ>のエフェクトは強烈だ、一つはサモンする際に、キーカードである<心火の楽園 グランシオン>をセメタリーに送るエフェクト。

 もう一つは、その<心火の楽園>がフィールドにある時、デッキから<グランシオン>モンスターをサモンできるエフェクト。

 どちらも初動のカードとしてはトップクラスの効果を誇る。


 特に前者は、今ダイアがやってみせたように俺の<ゴッド・デクラレイション>を貫通する。

 サモンを宣言した時点で<心火の楽園>がセメタリーに送られるから、サモンを無効にしてもその効果までは防げない。

 そして、<ゴッド・デクラレイション>は相手のサモンやエフェクトを無効にした時、そのカードを破壊してセメタリーに送る。

 だからこのカードでサモンを無効にしても、<心火の楽園>はダイアの手札にどうあっても加わってしまう。


「あれ、でもそれなら<心火の楽園>の発動を無効にしてもよかったんじゃ……」

「残念ながら、そうもいかない」


 エレアの疑問を俺が否定する。

 原因は、とても単純だ。

 その後、ダイアが<心火の楽園>のエフェクトを利用してモンスターを展開。

 切り札を呼び出す。


「さぁ、<ミカエル>に並びたて、俺の新たなエース! <グランシオン・ドラグバニシメント>!」


 燃え盛る<グランシオン>の中央にある火山から、屈強な体躯のドラゴンが現れる。

 アレがダイアの新エース……これまでは映像でしか見たことがなかったが、中々威圧感のある姿だ。


「<ドラグバニシメント>はサモンした時、フィールドに<心火の楽園>がない場合。デッキ、セメタリーから<心火の楽園 グランシオン>を手札に加える。まぁ、今回は意味のない効果だが」

「なるほど、<心火の楽園>の発動を無効にすると、<楽園>自体の回収効果も相まって二回発動するから、<ゴッド・デクラレイション>が無意味になっちゃうんですね……」


 そんなところだ。

 ダイアのファイトを直接見たことがなかったエレアはともかく、俺はダイアの「グランシオン」でのファイトは何度も動画で見返してるからな。

 ――自分で、攻略するときのために。


「さぁ、続けていくぞ! <ドラグバニシメント>! <ロード・ミカエル>を打ち倒せ!」

「迎え撃て、<ミカエル>!」


 俺達のエースが激しく激突する。

 <ドラグバニシメント>の炎を躱して接近した<ミカエル>の拳を、<ドラグバニシメント>が受け止めた。

 そのようにして、最終的に<ドラグバニシメント>が勝利するものの、<ミカエル>は自身の効果で破壊を免れる。


「痛み分けか……!」


 そう言ってダイアは笑みを浮かべるが、打点で負けているのはこっちだ。

 俺はその事に危機感を覚えながらも、自身のターンを迎える。


「反撃と行かせてもらう!」


 俺は一気にモンスターを展開。

 <極大古式聖天使 メガブラスター・ウリエル>をサモンする。

 この効果で<心火の楽園>をデッキに戻そうとするが――


「<心火の楽園>は<グランシオン>モンスターがいる時、フィールドから離れない!」

「<バニシオン>の頃には破壊耐性だったのにな!」


 結局、デッキに戻ったのは<ドラグバニシメント>だけだ。

 とはいえ、展開の手がそこで止まることはない。

 俺は続けて――


「さぁ、こいつも出させてもらう! <極大古式聖天使フルエンシェントノヴァ ハイエクシード・ラファエル>!」


 <ハイエクシード・ラファエル>。

 俺の所有するエースモンスター群、「極大古式聖天使」の一体。

 <ラファエル>はその中でも蘇生に特化した効果を持つ。

 俺はターンエンドと同時に戻ってくる<メガブラスター・ウリエル>をいち早くフィールドに戻し、二体で攻撃を行った。


「この攻撃が通れば……店長の勝ちです!」

「残念ながら、そう簡単にはいかないな! <心火の楽園>のエフェクトにより、1ターンに1度、<グランシオン>モンスターをサモンできる!」


 相手ターンにもサモンができるエフェクト。

 これも「バニシオン」の頃はできなかったのだが。

 おかげで、ダイアは盤面を崩されても立て直しが随分と楽になった。

 厄介なことだ。


 ともあれ、俺は攻めきれずターンを終了。

 ダイアにターンが回る。


「……なるほど、流石は店長。やはり強いな」

「俺には、お前が随分と理不尽な強さになったように見えるがな」

「ふふ……それはあくまで、表面的な強さにすぎないよ」


 そう言って、ダイアは笑う。

 ダイアは強くなった。

 「グランシオン」は未だ誰にも破られていない。

 嬉しいことに、ダイアは無敗でここまでやってきたのだ。


「それに、店長の強さは揺るぎないものだ。俺が迷い、戸惑っている間も、店長は一度だって揺らぐことはなかった」

「ダイアは、揺らぐことで強くなるタイプだろ、俺とは違うよ」

「ああ、でも……こうして今日ファイトして、一つ理解ったことがある」

「それは?」


 そう言って、ダイアはちらりと視線を彼女に向けた。

 ――俺達の戦いを見守る、エレアに。



「それは――君は揺らぐことはないが、変わることはあるということだ」



 そう言って、ダイアはあるカードを掲げる。

 その姿を、俺はよく知っていた。


「……お前!」

「さぁ店長、変わった君なら、コレも当然受けきれるはずだ」


 ダイアがそのカードを使う時、決まってカードを天高く掲げるからだ。



「<破壊の雷>。その効果は、相手フィールドの全てのモンスターを――破壊する」



 相手フィールドモンスターの全破壊。

 俺の<ゴッド・デクラレイション>と並ぶ強力な汎用カード。

 ダイアの、もう一つの代名詞とも言えるカードが、俺のフィールドのモンスターを焼き払った。

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