84 そういうわけで、私と店長でファイトした動画上げてバズらせましょ

 話を聞く限りでは、どうやら企画を作るのに必要なパズルのピースが全て揃っている状態だという。

 後はそれを、うまくパズルに嵌めていくだけ。

 まぁ、素人の俺からするとどうやってパズルに嵌めるのかすらわからないのだが。


「流石に個人で銀盾持ってるだけはあるじゃない、エレア! これだけできれば、ちゃんとした勉強をすれば十分イベント企画で食べていけるわよ!」

「そ、そうですかね……店でイベントをするときにも役立ちそうですし……ちょっと勉強してみようかな……」


 流石シズカさん、褒め倒すと宣言した通りエレアを褒め倒している。

 エレアの方も、すっかり舞い上がってる感じだ。


「んじゃ、ちょっとエレア借りるわよー」

「明日までには返してくれ」

「ひゃわわ……店長のもとに返されちゃいます……」


 エレアはそれでいいのか……?

 ともかく、その日一日エレアはつきっきりでシズカさんとともに企画を作成し――



「か、完成しました……」



 翌日、それを完成させた。

 まさか一日で完成させるとは、俺もびっくりである。


「いやぁ、本当に完成するとは……シズカさんの言っていた通り、すでにできてた企画案をいい感じに並べればすぐでした」

「といっても初稿だけどね、こっから関係各所と話し合って煮詰めていくのよ。そこは店長とエレアに任せるわ!」

「ああ、ありがとうシズカさん。助かったよ」


 軽く見せてもらったが、素人目には問題があるようには感じられなかった。

 これ以降は、店の外の人間の視点で見てもらう必要があるだろうな。


「さてと、それじゃあ後の問題は……」

「ゴクリ……」

「ずばり、宣伝よ!」


 宣伝。

 これがうまくいかなければ、どんな面白い企画も民衆に伝わらない可能性がある。

 非常に重要なファクターだろう。


「でも、どんな宣伝をすればいいんでしょう……」

「コレに関しては簡単よ、今後継続的にこのイベントを開催するとしても、最初の一回はあくまで話題性さえあればいい。ファンを掴むのは注目を集めてから」


 なるほど、と頷くエレア。

 それを尻目に、何故かシズカさんがこっちを向いてきた。


「つまり、一番安易な方法でもいいってことよぉ」

「……まさか」


 かくして、シズカさんは俺を指さして勢いよく宣言する。



「そういうわけで、私と店長でファイトした動画上げてバズらせましょ!」



 安易……まぁ、安易といえば安易なのだろうけれど。

 そして安易だからこそ、誰もが理解できる有効な手段だ。

 何より、これはすでに俺とシズカさんの間で相談済のこと。

 だからこそ、シズカさんに二日も予定を空けてもらったんだからな。


「言っておくけど、これは今までのようなお遊びのファイトじゃない。私がアンタを倒す本気のファイトよ……ミツル!」

「その名前で呼ばれるのもいつ以来だったかな。とはいえ、俺もこの日を楽しみにしてきたんだ。悪いが勝たせてもらうぞ!」


 お互いに、笑みを浮かべて向かい合う。

 ぶっちゃけこの日を楽しみにしてきたのだ、俺もシズカさんも。

 ファイトをするという話になった時から決めていた。


 俺達は、全力をぶつけるファイトをするのだ――と。


「あ、シズ姉はエクスチェンジスーツを使うので、着替えてからやりましょう」

「ずこーっ」


 なお、そもそもこのファイトを動画にするのは、エクスチェンジスーツのプロモのためだ。

 なのでシズカさんはそれを着ていないといけないのだが、忘れていたらしい。

 というか、ずこーってエレアが滑るのはシズカさんの影響かよ……教育に悪いぞ!



 □□□□□



「さぁ、始めるわよミツル!」

「……プロとしてのシズカさんとファイトするのは、これが初めてだな」


 シズカさんが、先程まで着ていた私服――と同じ衣装に変化させていたエクスチェンジスーツ――をプロファイターとしての衣装に変化させる。

 ダイアもそうだが、プロファイターは専用のコスチュームみたいなものを着用する決まりがある。

 いわゆる勝負服みたいな……


 シズカさんの場合は、青ベースのドレスみたいな感じ。

 モチーフは、「妖精の女王」。

 初めて出会った頃から変わらない、シズカさんを象徴するようなモチーフだ。


「ふふ、プロにならなかったアンタと、こうしてプロとしての衣装で戦えるときが来るなんて」

「嬉しいのか? それは光栄だな」

「いいえ、違うわ。私はね――」


 シズカさんが、笑みを浮かべる。

 ――ただし、その笑みはとても獰猛な笑みだった。


「全力でアンタをぶっ潰せるときを、ずっと待ってたのよ! 勝ち逃げミツル!」

「なら、ここで勝ってみせればいいさ、シズカさん! まぁ、勝つのは俺だがな!」


 お互いにデッキを構えて――



「イグニッション!」



 戦いの火蓋を切る。


「私の先行! <水精湖の踊り子ウンディーネスト・ダンサー>をサモン!」 


 シズカさんのデッキは「水精湖ウンディーネスト」モンスターを主軸にしたデッキ。

 水の精霊ウンディーネの住処ネスト、それがウンディーネストである。

 水面シズカはその名前からして水を体現しており、さながら自身を女王としたウンディーネたちの王国のようだ。

 シズカさんは冷静に盤面を形成する。


 対する俺も、<ロード・ミカエル>を呼び出して応戦。

 激しいぶつかり合いが続く。


「大学を卒業する時のファイトで私は貴方に勝利して、貴方というファイターにケリを付けてプロになるはずだったのよ!」

「まぁ、勝ったのは俺だったがな」

「その時から、ずっと待っていたのよ! プロとして、貴方に勝利するその時を!」


 シズカさんは誰よりも負けん気がつよいファイターだ。

 ファイターには様々な性格のファイターがいて、勝つことが楽しいファイターもいれば、負けたくないという思いが強いファイターもいる。

 俺の周囲で言えば、ダイアが前者でありシズカさんが後者。

 そして俺は……その中間ってところかな。

 三者三様に、それぞれが趣向の違うファイターだった。


 その中で、負けず嫌いなシズカさんは、常に自分の負けを認めなかった。

 次こそは勝てるはずだと、俺とダイアに勝負を挑み――時には勝って、時には負けた。

 

「それは、いつまでも続いてくわたしたちの関係だと思っていた。でも、アンタはショップ店長の道を選んで、私達は違う未来を進んだ」

「結果として勝ち逃げを許して、悔しかったか?」

「いいえ――」


 シズカさんのエース、<水精湖の極光騎士ウンディーネスト・アウロラナイト>と俺の<極大古式聖天使フルエンシェントノヴァ アークロード・ミカエル>が激突する。

 激しいぶつかり合いの中、シズカさんは――



「嬉しいわ! とても!」



 笑みを浮かべていた。


「だってそうでしょう、私があそこで負けたことで、私はもう一度貴方に勝つ機会を得た! 私が負けを認めない限り、私達のファイトは終わらない! 私が勝つまでね!」

「欲張りなことだ。負けたって言ってるくせに負けを認めてないんだな」

「ええそうよ、なぜなら私は――水面シズカなのだから!」


 ああ、変わらない。

 シズカさんは、やはり水面シズカなのだ。

 それでいて、彼女は進み続けている。

 常に進化を続けている。

 今もまた、かつてのシズカさんより格段に強くなって俺の前に立ちはだかり。

 勝利をもぎ取ろうと迫ってくる。

 負けたくないと高らかに吠える。


「さぁ、まだまだ加速していくわよ!」

「ああ、このファイトを……刻みつけるとしようじゃないか! 全てに!」


 そうして互いにカードを振るい、未来を切り開く。

 俺とシズカさんの全てをぶつけた、その戦いの結末は――



 □□□□□



 後日アップされたシズカさんとのファイト動画は、大変好評だった。

 企画が纏まったことで、正式に開催が決定されたイベント――


 正式名称、「モンスターランドカーニバル」。

 その宣伝としても、非常に有効なものとなった。

 何より、エクスチェンジスーツに対する注目がにわかに集まり、各地から問い合わせが殺到しているらしい。

 それもこれも、あのファイトのおかげだ。


 そして、


「……いやぁ、行っちゃいましたねぇ」

「行っちゃったなぁ――一億回再生」


 なんと、動画が一億回再生を突破した。

 凄まじい再生回数に、思わず恐れおののいてしまう俺とエレア。

 ただし、



「……ダイアとのファイト動画」



 一億回再生を突破したのはシズカさんとの動画ではなく、ダイアとの動画なのだが。

 まぁ、今見返しても非常に白熱したファイトだったわけだが。

 それにしたって、まさかシズカさんとの動画に触発されてこっちまで伸びるなんてなぁ。

 そして、


『納得いかないわ!』


 というメッセージが、シズカさんから届くのだった。

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