ロボファイター、メカシィの場合。
――ピガガピー、ピガガピー。
ワタシはメカシィ。
ファイト工学研究所が開発した、最新のファイトロボデス。
ファイトロボとは、イグニッションファイトにおいて最強にアプローチするための手段の一つといえるでしょう。
最強とはなにか、多くの人々がその問いについて答えを求め続けてきました。
あるものはいいマス、初代ファイトキングこそが最強の形だと。
あるものはいいマス、歴史上もっとも新しい“世代最強”のファイターこそが最強だと。
あるものはいいマス、自分こそが最強だと。
どれもきっと正しいのでしょう。
初代ファイトキングは、初代ファイトキングカップにしか現れなかったからこそ生涯無敗であり。
世代ごとの最強と呼べるファイターならある程度断定することができマス。
今の世代なら、逢田トウマがそうであるように。
そして、基本的に世代が進むにつれてファイターの平均的な実力は高くなっていく。
なら、最新の世代最強こそが最強だと考えることもできるのデス。
最後は、言うまでもないでしょう。
誰もがそう宣言したいからこそ、最強を目指すのデスから。
ファイトロボは、絶対に変化しない普遍の最強を目指して作られています。
機械は人間よりも強くなれるはずだと、その思考能力は人間を遥かに凌駕していると。
その信念の元、我々は作られマシタ。
ワタシ、メカシィはそんなファイトロボの究極形として、ファイト工学研究所が設計しました。
そのコンセプトは、人間と同じように進化するファイトロボ。
従来のファイトロボとは全く異なるコンセプトから、人間に近しい“感情”、”思考”、”精神”を目指して作られたのデス。
ワタシ自身、ワタシは人間に近しい思考をしていると自負しておりマス。
その点においては、博士達の設計は完璧だったといえるでショウ。
……まぁ、デッキにかける予算はなかったわけデスが。
とにかく、そうしてロールアウトしたワタシは、ファイトを通じて多くのことを学びました。
ファイトに勝利する喜び、敗北する悔しさ。
多くのファイターと知り合う経験、満たされる好奇心。
なんということでしょう、ファイターとはこんなにも興味深く、そして輝かしい人々だったとは。
そう考えた時、理解してしまったのデス。
どうして博士たちは……人々は最強に憧れるのか……と。
ファイターとは、ファイトの中で未来を見つけ出し、前に進む存在。
時には悩み、迷い、立ち止まる時もあるでしょう。
中には、苦しみから逃げるために間違った道を選んでしまう人もいるかもしれません。
それでも、前を向いて進むファイターがいる限り、きっとそんなファイターも救われるのデス。
ならば、その到達点とは何なのか。
人々が目指す先、その先にあるものは何なのか。
それを見てみたいと思うのは、ファイターならば自然な考えなのでしょう。
そしてワタシも、ファイトロボとして学習を進める内に、その考えにたどり着いてしまったのデス。
もとよりワタシは最強を目指すファイトロボ。
むしろ、そうならなければいけない存在だったのデス。
しかし、だからこそ私は悩みました。
ファイトを通して学習を重ねる度、ワタシは痛感していくのデス。
デッキを強化できないという制限こそあるものの、ワタシは間違いなく強くなっています。
なのに、ワタシはワタシよりも強いファイターの存在を認識せずにはいられないのデス。
ネッカというファイターがいます、元気のよい熱血少年デス。
彼は強いファイターで、何より負けず嫌い。
ワタシとのファイトも最後まで諦めずに戦い、見事ワタシに勝利しました。
ファイトの結果は、最後まで読めないものでした。
ワタシが勝っている可能性だって決してゼロではないでしょう。
なのに、ワタシは彼に勝てないと感じたのデス。
何故でしょう、才能の差? ありえまセン、ロボに才能は関係ないのデス。
運命力の差? 確かにそれはあるでしょうが、運命力は水物、常に変化するものデス。
心構え? これが一番近いのでしょうか、未だ学習の途上にあるワタシが、ファイターとして既に多くの経験を乗り越えてきたネッカに勝てないのは道理かもしれません。
ですが、それらが全て正しいとも思えない。
もっと感覚的な、“勝てない”という認識こそが、ワタシと彼の差だという結論に私はいたりマシタ。
それは、ロボという立場で出すことなど、普通なら考えられない結論デス。
ですが、そうとしか言えないものでした。
最強とは、とにかく感覚的、感情的なもの。
最強の定義が人によって違う以上、そう結論づけるしかないのでショウ。
であれば、ワタシの最強は――?
そう考えた時、ワタシは“彼”に出会いました。
店長ミツル。
カードショップ”デュエリスト”を経営するこの街で最強と噂されるファイター。
その実力はまさに本物。
彼に挑んだワタシは、当然のように敗北し……またしても勝てないと感じたのデス。
ただ、その時はあくまで、最強クラスのファイターとのファイトを経験したに過ぎませんでした。
学ぶことは多くこそあれ、それ自体がワタシに大きな影響を与えることはなかったのデス。
変化は、彼のショップを訪れた時に起こりマシタ。
そこで彼は、ワタシが予算の関係でデッキを改造できないと即座に看破し、その解決策を提示したのデス。
そこでワタシは、多くのファイターと協力することを学びマシタ。
これまでワタシは、常にワタシだけで行動してきたのデス。
博士たちとは連絡を取っていましたが、あくまで事務的なものであり踏み込んだ話はしていません。
ファイターとのファイトによる学習も、サンプルを求めてのこと。
ファイトしたファイターとは、一期一会の関係だったといえるでしょう。
だからこそワタシは、衝撃だったのデス。
他者と交流し、カードを通して解り合うという行為が、これほどまでに有意義なものだったのか……と。
心の共有。
感情の共有。
そして成果を共に分かち合うこと。
それらはファイト以外の形で、ファイターに成長を与えるのだとワタシは初めて気づきました。
そして、そのことを気づかせてくれたのは店長デス。
店長ミツルは、ワタシに道を指し示してくれた。
そのことは、ただファイトでお互いを理解するだけではできないこと。
他者の背中を押し、成長を促す。
それこそが、店長の強さなのでしょう。
故にこそ。
仮に、今ワタシが最強の定義について答えを出すとしたらそれは――
人を前に進ませる強さ。
そういう結論に、いたるのデス。
□□□□□
「と、いうわけで――今日からうちの新人として働くことになった、メカシィだ」
あれから少し。
俺はとある人からある打診を受けた。
その人は、「ファイト工学研究所」の所長。
メカシィが博士と呼ぶ人物だそうで。
その内容は、メカシィを店員として雇ってくれないか……というものだった。
「よろしくおねがいします、ピガガピー」
「おおー」
一礼するメカシィ……一礼? まぁ、多分一礼だと思われる動作を見せるメカシィ。
エレアが、パチパチと拍手をしている。
「それでメカシィさん、どうしてメカシィさんはバイトを?」
「ええとその……お恥ずかしながら、デッキを強化する予算を自分で稼ぎたいと思いまして。ピガガピー」
「自分で!?」
何でも、メカシィが自分から言い出したことらしい。
今回、俺がメカシィにデッキ構築を頼んでファイトで一定の成果……まぁ、ぶっちゃけ俺に勝利したことでデッキ強化の有用性は認められた。
だから追加の予算で、メカシィのデッキはさらなる強化を施すことが可能になったわけなのだが……
「ワタシは、あくまで自分の手でデッキを強化したいのデス」
「真面目ですねぇ」
俺もそう思う。
「というか……メカとは一体……普通の人間より人間臭いですよ」
「それ、君が言う?」
正直、俺もメカシィがメカなんじゃなくて、メカ型のモンスターなんじゃないかと疑っているところはあるが。
それはそれとして、俺としても人手が増えるのは大歓迎である。
ぶっちゃけ人を増やしてもよかったんだけど、いまいちちょうどいい人材がいなかったんだよな……
街一番のカードショップとして、ダークファイターに狙われる可能性を考えると下手なファイターに店を任せるわけには行かないのである。
その点、メカシィならば文句なしだ。
「というわけで、よろしくなメカシィ」
「はい、よろしくお願いしマス。ピガガピー」
というわけで、俺の店に新しい店員が増えるのだった。
「ところで……メカシィさんの性別って男女どっちなんですか?」
「性別の設定はありません、ピガガピー」
「志望動機の次に気にするところがそこなのかよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます