32 ロボがデッキを組む時代

 休日、ファイター達は俺の店“デュエリスト”に集い、ファイトを繰り広げている。

 そんな、いつもと変わらぬ賑やかな店内に現れたのは……ある“一機”のファイターである。


「失礼しマス、ピガガピー」

「いらっしゃいま……せー……?」

「ん? メカシィじゃないか、いらっしゃい」


 振り返って声をかけようとしたエレアが停止する。

 驚いた様子のエレアを他所に、俺はやってきたファイター――ロボファイターのメカシィに声を掛けた。


「め、め、メカだあああ! メカですよ店長! メカ! メカメカメカ!」

「いや、前に話しただろ、ロボファイターのメカシィだよ。……なんでそんなテンション高いんだ」

「オタクはロボと美少女でテンションを上げる生き物なんです!」


 いや、それは多分エレアだけだと思う……。

 まぁ今日は他のオタク――ヤトちゃんとダイア――が店にいないので、実際のところどうなのかは解らない。


「ハジメマシテ、メカシィともうしマス。ピガガピー」

「んー! メカっとしてますね! 個人的にはこれでメカ娘だったら最高なんですが……」

「欲望が漏れ出しすぎだろ」


 なんて話をする俺達。

 店内のお客たちはといえば、その反応は二分されている。

 突然のメカに驚いているお客と、メカシィへ普通に挨拶しているお客だ。

 ネッカ少年やクロー少年はメカシィに挨拶してるな。

 まぁ、この二人の場合メカシィと既に邂逅してファイトした後なのだろう。

 こういうへんてこなファイターとの遭遇率がこの街で一番高いのはネッカとクローだ。

 メカシィからもらっただろうデッキケースを手に挨拶しているぞ、かっこいいだろうそのデッキケース。


「それでメカシィ、今日は何をしに来たんだ?」

「はい、店長。アレからワタシはさらなる進化を遂げマシタ。その成果をお見せしたいのデス」

「おお、それは楽しみだな」

「お店だけに。ピガガピー」


 なんて?


 しかしそうだな。

 俺は既に一回戦っているから、別の誰かに戦ってもらうのも悪くはないかも知れない。

 店内を見渡して……俺は、エレアの方を向いた。


「エレア、ファイトしてみないか?」

「え、私ですか? 一応勤務中ですけど……いいんです?」

「見た感じ、お客の中でメカシィと戦いたいと思ってそうなのがネッカとクローだけだからな。あの二人はもうメカシィと戦ったことあるみたいだし」


 せっかくなら、初見の相手と戦ったほうがメカシィにとってもいいだろう。

 そこら辺をネッカ少年とクロー少年も理解っているのか、ファイトの様子を遠巻きに眺めている。

 というかあの二人は、今まさにファイト中だからな。

 手が空いていないのだろう。


「そういうことなら解りました。せっかくですし、相手になりますよ」

「おお、感謝しマス。では早速ですが……ピガガピー」

「中央のフィールドを使うか? 今なら待ち時間はそんなにかからないとおもうが」


 言いながら、デッキを取り出したメカシィへ呼びかける。

 エレアは、すっかりフィールドでファイトするつもりなのか、フィールドでファイトする順番を予約する端末の方に向かっている。

 ……の、だが。


「あ、イエ。手持ちがないのでテーブルでお願いしマス。ピガガピー」

「ずこー」


 メカシィが申し訳無さそうに言うと、エレアが勢いよくずっこけた。

 リアルでずこーとかいってずっこけるやつ初めて見た……



 □□□□□



 で、肝心のファイトなのだが。


「勝ちましたー」

「無念デス。ピガガピー」


 エレアが勝った。

 メカシィも弱いファイターではない。

 エレアとなら、肉薄したファイトができると思ったのだが……


「まさか、革命前に勝ってしまうとは思わなかったです」

「ムムムー。ピガガピー」


 思った以上に、すんなりエレアが勝ってしまった。

 ただ、見た感じメカシィが弱くなったというわけではない。

 メカシィの言う通り、そのファイトは更に洗練されているし、本来なら彼はもっと強くなっているはずだ。

 ファイトを横から見ていたネッカ少年と、クロー少年も首を傾げている。


「これはアレだな」

「店長……」


 言いながら、俺はメカシィとエレアの間に立つ。

 二人がファイトを終える間に、仕事を一段落させてやってきたわけだ。

 まさかここまで早く決着が付くとは思わなかったが。


「メカシィ、デッキを弄ってないだろ」

「……! そ、その通りデス」


 目に相当すると思われる液晶パネルを白黒させるメカシィ。

 文字通り白黒になる眼って初めてみた……じゃない。


「確かにファイトは以前より洗練されてる。でも、それに応じてデッキを強化してないせいでチグハグになってるんだ」

「巨乳キャラが、ブラがまたきつくなっちゃった……みたいな話ですね?」

「エレアは本当に何を言っているんだ」


 マジで何言ってるの?

 まぁ、俺とメカシィにしか聞こえないくらいの声量だからギリギリ……いや、メカシィが顔を赤くしてキャー、とか言ってる。

 じゃあダメだな。

 ……その機能、必要だった?


「デッキの強化……デスか。ピガガピー」

「ああ、どうしてしないんだ?」

「それが……その……お恥ずかしながら」


 メカシィは、何だか恥ずかしそうに輪っか型の手をつんつんさせている。

 なんとも人間臭い仕草だ。

 んで、肝心の理由はと言えば。



「……予算が無くて、新しいカードが買えなかったのデス。ピガガピー」



「……」

「……予算ですかぁ」


 せ、世知辛い……。

 エレアが、なんだか神妙に頷いている。

 予算が尽きるという現象に、親近感を感じる要素があるのだろうか。


「解りますよ……特撮やアニメの制作で、序盤に予算を使い切っちゃって後で困るんですよね」

「そっちかぁ……」


 まぁ、エレアのことは置いておいて。


「ワタシ、メカシィはロボファイターとして、当機が画期的なスペックを有していると自負しておりマス」

「まぁ、めちゃくちゃ多機能だしな」


 目を白黒させたり、赤くなって恥ずかしくなったり。

 どうしてそこに力を入れちゃったんです?


「……デスが、そこに予算を使いすぎて、肝心のデッキに予算が割けなかったのもまた事実デス。ピガガピー」

「予算の使い所間違ってますよね?」

「ハイ」


 認めちゃったよ!


「とはいえ、無駄は無駄デスが……その無駄に優秀なスペックのおかげで、学習の余地が大きいのも事実デス。ピガガピー」

「ああ、学習の末に自分のムダを自分で認識できるようになってしまってます……」

「お気になさらず、ミセス・エレア」

「ミセスゥ!?」


 ミセス!?

 俺とエレアは、二人して咳き込んでしまった。


「え、エレアでいいですよ。ぴーひょろぴー」

「かしこまりマシタ、エレア。ピガガピー」

「語尾伝染ってるぞ」


 ……とりあえず、話を戻そう。


「とにかく、そういうことなら話は簡単だ」

「と、いいマスと?」

「デッキを強化すればいいんだよ」


 デッキが強化されてないせいで、本人のスペックにデッキのスペックが追いついてないなら。

 解決法は一つしかない。

 デッキを改造して強化する。

 ある意味、強くなるもっとも単純な近道だ。

 とはいえ……


「それは……申し訳ありまセン。手持ちがないのデス。ピガガピー」

「手持ちのカードも、手持ちのお金も、……ってことですよね。世知辛いです」


 ここはカードショップだ、だから店の中には無数のカードがある。

 しかし流石に、ただでカードを分けるわけにも行かない。


 とはいえ、そこは俺に考えがある。


「だったら、この店にあるカードを使って“レンタルデッキ”を作ってみないか?」

「レンタルデッキ……デスか?」

「そう、俺の店ではデッキを持ってない人や自分の持ってるデッキ以外のデッキを使ってみたい人向けに、レンタル用のデッキを用意してるんだ」


 主に、自前のデッキを使うと身バレしてしまう(もう身バレしてる)ダイアとか、そういう客向けのサービスであるレンタルデッキ。

 普段はデッキを複数組みたいタイプの俺が、一人で組んでるわけだが。

 今回はそれをメカシィにやってもらおうというわけだ。


「よろしいのデスか……? ワタシは、部外者デスが……ピガガピー」

「問題ないさ、メカシィが信頼できるのは俺が一番理解ってるし、ここには人の目が山程ある。それに……」

「それに?」


 俺は、何気なく続けた。



「もしカードを盗む奴がいるなら、その時は“後悔”してもらうだけだからな」



 その言葉に、何故か店内は静まり返った。

 ……解せぬ。

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