31 ロボがファイトする時代
ファイターにも、色んな奴がいる。
エージェント、プロファイター、ショップ店長。
そういった専門職に限らず、一般人だってデッキを握ってファイトをすればファイターだ。
ファイトクラブに所属する学生も、社会人が接待でファイトをするのも、不良グループが抗争の中で別の不良グループとファイトをするのも。
どれもファイターと言ってしまえば、ファイターだ。
中には、人間じゃないファイターだっている。
エレアなんかその典型だろう。
モンスターでファイター、自分自身をデッキに加える特殊性を持ってしてもそれがファイターの括りから逸脱することはない。
だから、こういうファイターも存在するわけだ。
「ソコのアナタ。これよりファイトをねがいマス。ピガガピー」
ここ数日、とある理由で町中をウロウロしていた俺を呼び止めたのは、ロボだった。
ホビーアニメに出てきそうな、ちょっと愉快なデザインのロボだった。
っていうか語尾にピガガピーとかつけてた。
俺は、待っていましたと言わんばかりにロボの方へ振り向いて問い返す。
「俺でいいのか?」
「はい、ワタシはファイトロボ、メカシィ。アナタとのファイトを所望しマス。ピガガピー」
そのピガガピーは語尾かなにかか?
名をメカシィというらしいそのロボは、輪っか型のよくある腕をガションガションさせつつ、イグニスボードを俺に見せてくる。
どうやら本気で、俺にファイトを申し込んでいるらしい。
現在、俺は休日中の身。
辻ファイトを受けるのは、やぶさかではない。
というか、寧ろ暇していたくらいなので、そういう誘いは待ってました……もとい、大歓迎だ。
とはいえ、相手はロボ。
別にこの世界なら、そういうファイターは不思議じゃない。
ただ自分が戦ったことがあるかといったら、また話は別だ。
……異界から侵略してきた尖兵ロボと二回くらいファイトしてるな。
完全なロボじゃないけど、サイボーグファイターともファイトしてるな。
なんならフル武装エレアもちょっとロボっぽいな。
なんだ、結構戦ってるじゃん……
いや、この世界の純正ロボとファイトするのは初めてだ。
惑わされるな……
「わかった、ファイトだな。俺は問題ないぞ」
「かしこまりマシタ、ご協力感謝しマス。ピガガピー」
言いながら、デッキとイグニスボードを取り出す。
「一応、自己紹介しておこうか。俺は……」
「存じておりマス。カードショップ”デュエリスト”店長、棚札ミツル様。ピガガピー」
「そりゃまた、光栄なことで」
「我が社のデータベースには、この世界のありとあらゆる”強者”のデータが存在しマス」
メカシィを作った会社は、強いファイターのデータ収集に熱心なようだ。
そもそも、メカシィの存在だって、ファイターとのデータ集めがメインなんだろう。
とはいえ、そんな事情は関係ない。
俺はあくまで、挑戦を受けたファイターとして相手を迎え撃つのみ。
さぁ、ファイトして“アレ”を手に入れるぞ。
「行くぞ、イグニッション!」
「イグニッション! ピガガピー!」
……イグニッションの宣言でもピガガピーしなきゃダメなのね?
□□□□□
「トドメだ、<アークロード・ミカエル>! <メカメカシィルダー・金メッキの騎士>を攻撃!」
「ピガガピー!」
ファイトは俺の勝利だった。
メカシィの操る「メカメカシィルダー」モンスターは、その名の通りメカメカしい盾を構えるロボット軍団だ。
防御的な効果が多く、初動はお互い防御に構えて膠着状態に陥ったりした。
最終的に、俺がより攻撃的なエースを呼び出して戦況を動かしたものの……「メカメカシィルダー」の防御力自体は本物だ。
結構苦戦したな。
「オミゴトデス、店長ミツル。ピガガピー」
「そっちこそ、いいファイトだったよメカシィ」
敗北したことで、それっぽく吹っ飛んだメカシィが戻ってきた。
なんか体中から黒い煙が吹き出してるけど、大丈夫だよなこれ……
「カンシャいたしマス、店長ミツル。ワタシのファイトが、ワタシのデータに反映され……ワタシはより強いファイターへと進化するデショウ。ピガガピー」
「そう言われるとなんか、照れるな」
「つきましては、今から表示するQRコードを読み取って、今回のファイトに関するアンケートにお答えいただけますと幸いデス。お答えいただいた方には、特別なデッキケースをプレゼントしておりマス」
「一気に事務的になったな!?」
QRコードからアンケートて。
アンケートに答えると特別なデッキケースプレゼントて。
何かのセールスか何かかよ。
いやまぁ、答えるけどさ。
デッキケースが欲しいわけじゃないぞ? 純粋にファイトロボっていう試みを面白いと感じたからだ。
デッキケースが欲しかったわけじゃない。
ファイトロボ、すなわちAIを利用した電脳ファイターの研究は、割と古くから行われている。
その成果は、正直言ってそこまで芳しくはない。
この世界の技術力は、前世のそれと比べて一部においては凌駕する部分もあるというのに。
理由は単純。
この世界にはカードが多すぎるからだ。
「しかし、アンタも大変だよな。辻ファイトでファイトのデータを収集しながら自分の性能を高めていくっていうコンセプトなんだろうけど……無茶だろ」
「……? と、いいマスと?」
「ん? だってそうだろ。この世界には無数のファイターとカードがある。その種類は千差万別、あまりにも学習する内容が多すぎて、データを収集しても強くなれるかどうか」
不思議なことに、メカシィは俺の考えにピンと来ていないようだ。
俺はアンケートに答えるためスマホを操作しながら、会話を続ける。
「いやだって、そうだろ? 一般的にファイトロボってのは、基本的にカードの効果を学習してそれに対応する行動を学習の中から選択するものだって聞いてるぞ」
「なるほど。それは確かに一般的なファイトロボデス。ですがワタシは一般的なファイトロボではありまセン。ピガガピー」
「どういうことだ……?」
首を傾げる。
メカシィは少し自慢げに目……みたいな部分を輝かせた。
いや、実際には光の反射なんだが。
後、黒い煙はいつの間にか止まっていた。
よかった……
「ワタシは、対応学習型ファイトロボ。ファイトを重ねることで、カードの効果ではなくファイトの"経験”を学習しています。ピガガピー」
「ええっと……つまりどういうことだ?」
「ヒューマンと同じ、ということデス。ヒューマンは基本、無数のカードを全て覚えるわけではありまセン。経験の中から、自分の手札にあるもっとも最適な対抗策を模索し実行しマス」
つまり、なんだ。
このファイトロボ、メカシィはそもそもファイトロボとしての設計コンセプトが違うのか。
「これまでのファイトロボは、ロボとしての利点を活かすことにばかり固執していマシタ。ピガガピー」
「人間には無い、膨大なデータとその活用……か?」
「イエス。けれども、それでは結局データの活用にばかりリソースを割くこととなりマス。むしろそれがファイトロボの処理能力という強みを奪っていたのデス」
なるほどなぁ。
この世界は、前世と比べて技術力が高い。
ファイトのために、モンスターを投影する技術が必要だったり。
後は、普通になんかオカルト染みたオーバーテクノロジーが転がっていたりするからだ。
だから、人間と変わらない思考を行えるスーパーテクノロジーなロボットも普通にいる。
けど、そんなスーパーロボでさえ、俺が言ったような全てのカードの効果を覚えてそれに対応するファイトを行うことは不可能だ。
だから、逆転の発想。
人と同じようにファイトをすればいい。
ロボであるという利点を一度捨て、人と同じようにファイトを学習して強くなるのだ。
それでは意味がないと思うかも知れないが、ロボであるという時点で学習能力は人間より高い。
納得したところで、アンケートの解答が終わった。
「よし、終わったぞ」
「アンケートのご協力ありがとうございます。今後とも我が社のファイトロボ、メカシィを応援いただければ幸いです。ピガガピー」
「やっぱりこういうやり取りは事務的なんだな……そして、その上でピガガピーは外さないんだな……」
ともあれ、俺はこうしてアンケートの粗品として新しいデッキケースを手に入れたのである。
□□□□□
「というわけで、見ろエレア。新しいデッキケースだ」
「おおー……店長がここ最近、休日のたびに街をうろついて、辻ファイト挑んでこないかと周りをチラチラしてたのは、これが目当てだったんですね」
「ちちち、ちがわい!」
後日、エレアにもらったデッキケースを自慢したら、いつものダウナーな目つきでそう突っ込まれた。
ち、ちげーし! そんなんじゃねーし!
別に、ここ最近街に出没するロボファイターとファイトするとデッキケースがもらえるって聞いて休日に街をうろついてたわけじゃね―し!
デッキケースのことなんてかっこいいとかおもってねーし!
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