第81話 意外な繋がり


 声を出して応援していたら、あっという間に決勝戦が終わってしまった。

 アダムも強かったが、それ以上にティファニーの強さが際立った試合だったな。


「ティファニーさん、やっぱり凄いですね! 英雄と呼ばれる人に圧勝ですよ!」

「やっぱりティファニーさんが優勝だったか……。私が勝てていれば、優勝もあったということだけにめちゃくちゃ悔しい!」

「そういえば準決勝はティファニー対ギーゼラだったよな? 接戦だったのか?」

「いえいえ。ギーゼラはボッコボコにされておりましたよ」


 俺のそんな質問に答えたのは笑顔のクラウディア。

 ギーゼラは少し恨めしそうにクラウディアを睨んだ後、小さく頷いた。


「ボッコボコにやられてしまった。ここだけはエリアスがいなくて助かったな。惨めな姿を見られずに済んだ」

「別に惨めなんて思わないけどな。ティファニーの強さは俺もよく知っているし」

「……戦っていない私が言うのもなんですが、あの負けっぷりはかなり惨めでしたね。ティファニーさんも悪いのですが、攻撃を行わせて倍返しという戦法のせいで会場も完全に冷え切っておりましたので」

「ワシが思うに、ティファニーはギーゼラに稽古をつけているつもりだと思うんじゃが……大会で行うべきではなかったのう」


 デイゼンまでそう言うということは、余程酷かったのだろう。

 ギーゼラは昨日のことを思い出したのか、シュンとしてしまったし。


「アダムさんが“英雄”と名高いこともありますが、ティファニーさんと戦っていて応援が一方的ではなかったのはギーゼラとの準決勝が理由です」

「少しだけ疑問に思っていたが、ティファニーがギーゼラをボコしたからだったのか」


 俺とジュリアが戦った時は完全にアウェーだったもんな。

 ティファニーはジュリアに負けず劣らずの美人だし、アダムもそういった雰囲気になるのかと思っていたが、応援はどちらも同じくらい……というか、若干アダムの方が大きかったぐらい。


 決勝戦特有の雰囲気だと勝手に思っていたが、準決勝のギーゼラ戦が影響しているとは思っていなかった。

 観客に男性が多い故に女性贔屓になりやすい中、歓声がトントンになるほどって……本当に余程だったんだな。


 そんな雑談をしていると、どうやら表彰式兼閉会式が始まった様子。

 デイゼンと、ボコボコにされたらしいギーゼラも同率三位のため表彰式へと向かい、俺はそんなギーゼラとデイゼンとティファニーを観客席から見守る。


「四人中三人が知り合いって本当に凄いわね。エリアスがトーナメントに残っていたら、全員がエリアスの身内だったんじゃない?」

「確実にそうだと思いますよ。エリアス様とティファニーさんの強さはほぼ同じですから!」

「軟禁することになってしまって本当に勿体無いないわね。一観客として、エリアス対ティファニーは見たかったわ」

「ほぼ毎日のように戦っているし、そんな特別な感じはないんだけど……。確かにこの大舞台で戦ってみたかったかもしれない」


 練習と本番ではティファニーの本気度も違うだろうし、俺も剣と魔法の両方を使って戦うつもりだった。

 本気の戦いは絶対に楽しかっただろうからな。

 ジュリアと仲良くなれたというメリットも大きいし、一切後悔はないけど……少しだけ羨ましい。


「そうなったら、私一人だけで表彰式を見守ることになっていたかもしれません。エリアス様が隣にいてくれて良かったです」


 そう言いながら肩を寄せていたクラウディア。

 クラウディアなりの慰め……いや、単純にイチャイチャしたいだけか。


 そんな会話をしている中、今回の優勝商品である世界樹の木の実と大天使の腕輪を受け取って笑顔を見せたティファニー。

 大歓声に包まれながら行われた表彰式を見守った後、俺はティファニーに声を掛けるべく選手控え室へと向かった。


 選手控え室には、表彰式に出ていた四人の姿が見えた。

 アダムも割とスッキリとした表情を見せており、思ったより落ち込んでいない様子。


「ティファニー、お疲れ様。流石の強さだったな」

「エリアス! 見てくれていたのはすぐに分かったぞ。エリアスの代わりにきっちりと優勝してきた」

「ティファニーなら優勝すると思っていた。本当にかっこよかったよ」


 俺がそう褒めると、嬉しそうに笑ったティファニー。

 そんな俺とティファニーの会話をアダムは口をぽかーんと開けて見ており、ワンテンポ遅れて声を荒げた。


「えっ! ティファニーとエリアスって知り合いだったのか!?」

「知り合いも何も俺の剣の師匠だ」

「ああ。エリアスに剣を教えたのは私だが……アダムとエリアスも知り合いだったのか」

「ギーゼラの予選の一回戦の相手がアダムの付き人で、その繋がりでアダムとは顔見知りになったんだよ」


 そう伝えてもなお、ティファニーと俺を交互に指さしながら驚いているアダム。

 俺の伝えた情報の信憑性が一気に増した――とかそんなところだろうか。


「神龍祭の出場者だから繋がりがあってもおかしくないとは思うが、まさかティファニーとエリアスが繋がっているとは思わなかったぞ!」

「ちなみにだが……そっちのデイゼンは俺の魔法の師匠で、ギーゼラは俺の妻だ」

「はぁ!? てことは、上位四人で俺以外はエリアス繋がりだったのか!」

「ちなみに俺が棄権していなければ、アダムに確実に勝っていたから全員俺繋がりだったんだけどな」

「いや、エリアスには負けない! ――とは言い切れないのが悔しい。エリアスが棄権したと聞いて、普通にガッツポーズしたしな!」


 そう赤裸々に語ったアダム。

 英雄と呼ばれていながらも、フランクに接してくれるのは気分がいいな。


「とりあえず教国に戻ったら、俺が伝えたことを絶対に調べてくれ。流石に信じられるくらいの信頼は得られただろ?」

「ああ。最初は半信半疑だったが、今は九割方信じている! 戻ったら確実に調べさせてもらう!」

「……? 一体何の話をしているんだ?」

「いや、なんでもない。ちょっとアダムについて気になったことがあったから教えただけだ」


 そう誤魔化しつつ、軽い雑談を交わしてから俺達はコロシアムを後にした。

 場所を移して祝勝会といきたいところだが……その前に一つ確認したいことがある。


 護衛を終えたルーシーとも別れ、俺達だけとなったところで話を切り出した。

 内容はもちろん――助けたシアーラについて。


「デイゼン、俺が保護をお願いした女は今どこにいるんだ?」


 決勝戦前は聞く雰囲気ではなかったし、俺もティファニーの決勝戦に集中したかったから聞かなかったが、ずっと気になっていた。

 ちなみに兵士に連行されている可能性も十分あると思っている。


「ああ。その女性なら……ワシの泊まっている宿におるよ。今朝も様子を見たんじゃが、まだ体力が戻っていないようじゃな」

「そうなのか。しっかり保護してくれていたんだな」

「私もずっと聞きたかったのですが、あの女性は誰なんです? ……と、問い詰めたかったんですけれど、あの女性——貴族学校でローゼルさんについて聞いて回っていた方ですよね?」

「あっ! どこかで見覚えのある顔だと思ったが、貴族学校にいた女だ!」

「そこまで深い付き合いじゃなかったのによく気づいたな。……そうだ。俺達と同じ貴族学校に通っていたシアーラ。そして、貴族学校で俺とローゼルを暗殺しようと動いた人物だ」

「「えっ!?」」


 ギーゼラとクラウディアは声を合わせて驚きの声をあげた。

 ティファニーだけは何も理解できていないようで、栄養補給のためのバナナを食べながら小首を傾げている。


「そうだったのですか? ということは、今回もエリアス様を暗殺しようと動いていたのでしょうか?」

「ああ。多分だが、そうだと思う」

「なら、なんで生かしたんだ? 命が狙われているんだぞ!」

「だからこそ、だよ。どこの誰が俺の命を狙っているのか聞かなくちゃいけないからな」

「…………なるほど。それで捕らえたのですか。てっきり可愛いから捕らえたのかと思っていましたが――申し訳ございませんでした」


 目的を言い当てられて心臓がドキッと跳ねたが、まぁ本当に情報も聞き出すつもりだもんな。

 とりあえずシアーラは今現在も保護下にあるようだし、色々と聞き出しつつ――これからどうするかも本人から聞かないといけない。


 逃がすつもりはないため、俺の下で働くか大人しく自主させるかの択だが。

 暗殺者を手元に置くのは非常に怖いが、それ以上にクール系美人を自分の傍に置けるメリットが大きい。

 俺は表情を緩ませながら、シアーラが休んでいるらしいデイゼンの宿泊している宿へと向かった。


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