第79話 決勝戦のカード


 三日間軟禁されていたが、俺の無罪が完全に証明されたということで解放されることとなった。

 軟禁状態ではあったが、至れり尽くせりだったため何の不満がないどころか、ジュリアとの仲を深めることができたから非常に良かった。


 帝国騎士団の団長のルーシーと、宮廷魔術師長のアルバートもよくしてくれたしな。

 本音を言うならもう少し長居させてもらいたかったが、俺が帝城にいた間も神龍祭は滞りなく進められており、今日が決勝戦らしい。

 その決勝戦の対戦カードが、ティファニーVSアダムということで流石に見なければいけない。


「ジュリア、色々と良くしてくれてありがとう。お陰で楽しい時間を過ごさせてもらった」

「私の方こそ楽しかった! 魔法の極意も教えてもらったし、こっちこそ感謝しかないよ。……命を助けてもらったのに、三日間も勾留しちゃってごめんね」

「気にしなくていい。皇女であるジュリアと仲が深められただけで本当に良かったからな」

「私もエリアスと仲良くなれて良かった! 次は私が遊びに行くから!」

「ああ。いつでもきてくれ」


 握手を交わすと、ジュリアは少し頬を赤らめて笑った。

 やっぱりめちゃくちゃ可愛いな。


「師匠、俺も遊び行かせてもらうからな! それといつでも遊びに来ていいから! 宮廷魔術師長の権限で最高級にもてなす!」

「アルバートもありがとう。気軽に遊びに行くし、いつでも遊びに来てくれ。俺の師匠のデイゼンも紹介したいからな」

「師匠の師匠! そりゃ一度は会ってみたいな!」


 アルバートとも握手を交わして別れを告げる。

 宮廷魔術師長が俺を師匠呼びはまずい気もするんだが、言っても止めなかったから仕方がない。


「それじゃ二人共、また近い内に会おう」

「ええ。また近い内に絶対会いに行くから!」

「俺も近い内に行く! ルーシー、護衛の方しっかりやれよ!」

「言われなくともやるわよ。それじゃ行きましょうか」


 二人に見送られ、俺はルーシーと共に帝城を後にする。

 別に護衛なんかいらないんだが、物騒だからということで用意してくれた。


「俺なんかの護衛をさせて色々と悪いな」

「いえ、気にしなくていいわ。……まぁ私よりも強い人間の護衛って部分は、少しだけ引っかかっているけれどね」

「ありがとう。帝国騎士団の団長に護衛されるというのは心強い。ジュリアを負かしたせいで嫌われているからな」

「一回戦のことだし、流石にもう覚えていないと思うわよ? 今回の神龍祭は過去一で盛り上がっているようだしね」

「やっぱりルーシーも神龍祭は気にしているのか?」

「そりゃもちろん。今回はジュリア様が出場するということで、私は出場しなかったけれど……前回大会ではベスト4まで残っているからね」


 武闘会なんだから、そりゃ帝国騎士団の団長なら気になるか。

 前回大会ベスト4という実績を持っているなら尚更、今大会も出場したかったはずだしな。


「ルーシーが出場する可能性もあったってことか。次回大会はぜひ出てほしいな」

「次はメモリアル大会だし絶対に出場するつもりよ。本当は今回も出場したかったからね。まぁジュリア様が負けるような大会だし、優勝候補筆頭と言われていたエドワード・サマースケールも負けているからね。優勝は難しかったと思うけれど」

 

 ルーシーはこの三日間の情報も調べていたようで、めちゃくちゃ詳しい。

 逐一チェックしてくれていたようなので、コロシアムに向かいながら神龍祭がどうなっていたのか聞いてみようか。


「ちなみに、今大会のベスト4は誰だったのか知っているか?」

「もちろん知っているわよ。決勝戦を行う元聖王国騎士団団長のティファニーと英雄アダム。ベスト4まで進んだのは、グルーダ法国の元第五席次のデイゼンとダークホースのギーゼラ。正直、このメンツの中で勝ち残ったギーゼラという子は凄いわね。まだ若いみたいだし、戦っているところを見たかったわ」


 ティファニーだけでなく、デイゼンとギーゼラも勝ちあがっていたのか。

 四分の三が俺と親しい仲の人物であり、ついニヤニヤとしてしまう。

 

 恐らくギーゼラはティファニーに負け、デイゼンはアダムに負けたのだろう。

 英雄アダムは闇堕ちした姿しか知らなかったが、デイゼンに勝ったってことは相当強いんだな。


 “英雄”と呼ばれているぐらいだし、当たり前といえば当たり前なんだろうが。

 そうなってくるとアダムとは戦いたかったし、棄権せざるを得なかったのは痛い。


「ルーシー的にも相当レベルが高かった大会なんだな」

「相当というか、過去一レベルの高かった神龍祭だと思うわ。だからこそ今日の決勝戦は楽しみなの。エリアスの護衛を名乗り出たのも、決勝戦が見たかったからってのが大きいわ。利用したみたいな形でごめんなさいね」

「別に構わないぞ。俺は護衛してもらってありがたい。ルーシーは決勝戦が見れて嬉しい。win-winの関係だからな」


 そんな会話をしつつコロシアムにやってきた俺とルーシーは、まずクラウディア達を探すことに決めた。

 心配をかけているだろうし、少しでも早く顔を見せてあげたいからな。


 本当はティファニーにも声を掛けたかったのだが、決勝戦前ということで会うことはできない様子。

 クラウディア達の隣で観戦していればきっと気づくだろうし、試合前には確実に合流したいのだが……。


「本当に凄い人ね。どの試合も盛り上がったから、観客の入りも過去一よ」

「こんな人の中から探せるか不安だな」

「無難なのは試合が終わった後に探すことだけれど、一緒に試合を見たいわよね……」


 人を押しのけながらコロシアム内を移動し、思い当たる場所を手当たり次第に回っていく。

 三人の内誰か一人でも見つけられればいいのだが……厳しいか?

 半分諦めかけたその時――前方に見覚えのある杖を持った人がいるのを見つけた。


「いた! デイゼンだ」

「えっ? ……デイゼン?」


 疑問の声をあげたルーシーを無視し、俺はデイゼンの下に駆け寄った。

 デイゼンもすぐに近づいた俺に気づいてくれ、笑顔で迎え入れてくれた。


「デイゼン! 良かった。見つけることができた!」

「エリアス様、戻って来られたんじゃな! ワシもみんなも心配しておったんじゃぞ!」

「心配かけて悪い。クラウディアとギーゼラの姿がないが……一人なのか?」

「いや、ワシだけ用を足していたところじゃった。これから席に戻るところじゃったんじゃよ」

「そうなのか。そのタイミングで見つけることができて運が良かった」

「この人混みじゃ見つけるのも一苦労じゃからな。それで……そちらの人は一体誰なんじゃ?」

「俺の護衛をしてくれている帝国騎士団の団長のルーシーだ」


 俺はルーシーの紹介をしたのだが、肝心のルーシーは固まったまま。


「ルーシー。何で固まってるんだ?」

「な、なんでって……準決勝まで残ったデイゼンじゃないか!? 知り合いだったのか?」

「ああ。ギーゼラも知り合いだし、決勝で戦うティファニーは俺の剣の師匠だ」

「えっ!? 何だそれは……そういうことは早めに言ってくれ!」


 なんで怒っているのか全く分からないが、ルーシーは怒りながら俺の肩をバンバンと殴ってきた。

 そんなルーシーを改めてデイゼンに紹介し、クラウディアとギーゼラの下へと向かった。


 たった三日間だけだが、三日間だけでも何だか久しぶりの感覚。

 観客席で座っている二人を見て、俺は顔を緩ませながら声を掛けた。


「クラウディア、ギーゼラ。無事に戻ってきた」


 俺がそう声を掛けると、クラウディアは一目散に駆け寄ってきて、飛びついてきた。

 勢いはかなり凄かったが、軽いため簡単に受け止められる。


「心配しておりました。お体は大丈夫ですか?」

「ああ、心配かけて悪かった。ありがとな」

「お礼を言われることはしてません。でも、本当に良かったです」

「クラウディアばかりズルいぞ。私にも飛びつかせてくれ!」

「いや、そういうのじゃないだろ」


 周囲からの視線も集めているため、あまり派手なことはしたくなかったのだが……クラウディアと代わってギーゼラも飛びついてきた。

 恥ずかしさもあるが、やっぱり嬉しさが勝る。

 

「何だか随分とイチャイチャしているわね。……彼女さんか何か?」

「二人共、俺の妻だ。――って、先に紹介した方がいいよな。クラウディアとギーゼラだ。こっちの人は帝国騎士団の団長のルーシー。俺の護衛をしてくれている」

「クラウディアです。護衛して頂きありがとうございます!」

「ギーゼラだ。ありがとう」


 ギーゼラを離れさせ、二人にルーシーを紹介していると――どうやらもう試合が始まるらしい。

 花火のようなものまで打ちあがり始め、雰囲気からして決勝戦という感じ。

 俺はワクワクしながらコロシアムの試合会場を見ていると……選手入場口からティファニーの姿が見えた。

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