第77話 宝物庫


 帝城にて事情聴取を受けたのだが、ジュリアを助けたということもあってか、かなりのVIP待遇を受けたため非常に快適。 

 基本的な情報については、捕まえた黒いローブを着た人間から聞くということで、ほとんど帝城の見学を行っているような状態だ。


「ジュリアのお陰で、めちゃくちゃ快適に過ごさせてもらってる。事情聴取なのに、こんなVIP待遇を受けていいのか?」

「いいんだよ! 命を懸けて助けてもらったし、エリアスには本当に感謝してる」


 色々と話していく中、敬語を取っ払ってこういう形に落ち着いた。

 俺がタメ口でジュリアが敬語を使っていると、兵士や偉そうな人達からの視線が大分痛かったからな。


「帝城の中に入れるのも嬉しかったが、こうして自由に歩き回れるとは思ってなかった」

「そんな面白いものじゃないけどね。エリアスにはしばらく城に留まってもらうことになっているし、自由にくつろいでほしい!」

「ローブを着た人間から話を聞き終わるまでは、外部との接触もできずに城からも出られないんだよな」

「うん、ごめんね。私は一切疑っていないんだけど、万が一のことがあったらってことで留まってもらうことになってるんだ」


 この国の皇女の命が狙われたのだから、これぐらいは当たり前の対応だろう。

 命を助けたサリースも事情を聞かれているだろうが、サリースの狙いは俺な訳で……クラウディアやギーゼラ、それからデイゼンもいるし大丈夫なはず。


「当たり前の対応だと思ってるし、気にしないで大丈夫だ。それより……ぼーっとしているのも勿体ないし、可能な限り城の中を案内してほしい。どこかで手合わせもしたいな」

「帝城を案内させてもらうよ。それと……手合わせもいいね! 神龍祭ではエリアスに完敗したからなぁ。色々と私に教えてほしい」

「俺とジュリアは剣と魔法ってスタイルが同じだからな。多分、教えられることがあると思う」


 軟禁状態ではあるのだが、こうしてジュリアと二人きり……ではなく監視の兵士が二人ついているのだが、実質二人きりのようなものだし楽しい。

 城を案内してもらったり手合わせを行って、この軟禁されている期間に少しでも仲を深めたいところ。


 まずジュリアの案内で向かったのは、ドラグヴィア帝国の宝物庫。

 ゲームでは割と定番な宝物庫なんだが、『インドラファンタジー』ではドラグヴィア帝国の帝城には入れなかったこともあって、宝物庫自体が要素としてなかった。


 俺が知っているのはそれこそ、ジュリアが身に着けている皇女の指輪だけだったし……。

 もしかしたら、四年後に開かれる神龍祭の第百回大会の優勝賞品である『紅蓮の天槍』と『オリハルコン』も、この宝物庫にあるのかもしれない。


「ここがドラグヴィア家……いえ、ドラグヴィア帝国の宝物庫だよ!」

「ついてきておいてあれだが、大丈夫なのか? まだ俺は疑われている段階だろ?」

「帝城から出なければいいと言われただけだし、別に大丈夫だと思う!」

「めちゃくちゃな理論だと思うけど、皇女であるジュリアがそう言ってるならいいのか」

「そういうこと! 見張りもつけている訳だし大丈夫、大丈夫」


 そう断言したジュリアについていき、俺は宝物庫の中に入った。

 まず目に入ったのは、キラキラと光輝く大量の金貨。


 想像する宝物庫そのままであり、雑に積まれた金貨の圧が凄まじい。

 ……ただ、この金貨はフェイクのようなもの。


 この宝物庫の中には、金じゃ買えないアイテムや装備品がいくつも置いてある。

 そんな中でまず目に付いたのは、やはり紅蓮の天槍。


 紫と赤を基調としためちゃくちゃ凶悪そうな見た目の槍。

 思わず手を伸ばしたくなるほど、あまりにもカッコ良すぎる槍だ。


「エリアスはお目が高い! やっぱり紅蓮の天槍に目がいくよね! この宝物庫の中で一番価値があるのはこの槍だと思う。ちなみに……次の神龍祭の優勝賞品はこの紅蓮の天槍にするって、お父様が話しているのを聞いたことがある」

「優勝賞品? こんな凄そうな槍を優勝者にとはいえ、渡しちゃっていいのか?」

「次は第百回のメモリアル大会だしね。それにこうして宝物庫の中で眠るよりかは、神龍祭を優勝するような実力者の手に渡った方が私は良いと思う」

「まぁ……それは確かにそうだな」

「でしょ? そこのオリハルコンの塊もそうみたい。今大会への気合いも凄かったけけど、第百回は本気で国を挙げて盛り上げるつもりらしいよ」


 やっぱり紅蓮の天槍とオリハルコンは第百回大会の優勝賞品。

 つまり次回の大会が……『インドラファンタジー』の主人公が出場する大会ってことだな。


「次回大会にはジュリアも傘下するのか?」

「うーん……エリアスが参加するならしようかな?」

「俺は可能なら参加するつもりだけどな。今回は消化不良気味だし」

「あっ……ごめん。私のせいで棄権させちゃったんだよね」

「いやいや、責めるつもりは一切ないから。こうして宝物庫見せてもらったり、ジュリアと仲良くできてるだけで、神龍祭の優勝以上の価値があると思ってる」

「本当にエリアスは口が上手いね。…………ありがとう」

「いや、慰めるための嘘とかじゃなくて本音だから」


 こうしてフランクに会話ができるくらい仲良くなれたのは、本気で優勝や優勝賞品以上の価値があると思ってる。

 相手は皇女様だし、仲良くなる機会なんてそうそうないだろうからな。


 それからジュリアの紹介で宝物庫のアイテムを一通り見た後、中庭で手合わせを行うこととなった。

 オールカルソン家の中庭も大分凄いのだが、帝城の中庭はレベルが違う。


 近衛兵とかも使用しているからか、試合を行うためのコートが六面も常備されている。

 これだけ広ければ思いっきり戦っても大丈夫であり、何ならここで神龍祭を行えるのではないかと思うほど。

 観客を入れられないから現実的ではないが、それだけ広い中庭だ。


「それじゃ早速——私に色々と教えてほしい!」

「ちなみに、ジュリアはどうやって魔法や剣術を身につけたんだ?」

「剣は帝国騎士団の人達に教わって、魔法は宮廷魔術師の方に教わったんだよね。手放しで褒められていたから、本気で神龍祭で優勝できると思っていたんだけど……一回戦であっさりエリアスに負けちゃった。やっぱり皇女だから、気を使ってくれていたんだと思う」

「いや、そんなことないぞ。自分で言うのも何だが……相手が悪かっただけだ。俺は神龍祭の優勝候補筆頭だからな」

「ふふ、確かに自分で言うことではないね! でも、襲撃者もあっさり倒していたし、エリアスが強いということは分かってる」

「そう。だから、俺に負けたことを落ち込まなくていい」

「慰めてくれてありがとう。エリアスは本当に優しいよね」

「別に優しくないぞ? 俺が強かったって事実を伝えただけだしな」

「ははは! 確かにそうだね!」


 無邪気に笑うジュリアを見て、俺も自然と笑顔になる。

 クラウディアの時もそうだったが、最初笑顔を見せてくれなかったからこそ、この笑顔が何倍も素敵に見えるな。


「それじゃ俺流の指導を行う。ジュリアは基礎は完璧に出来ているから、応用を覚えれば飛躍的に伸びると思う」

「応用? エリアスは応用を教えてくれるの?」

「ああ。剣は短期間じゃ教えられないから、魔法の応用について教える。魔法なら、きっと短期間でコツは掴めると思うから」


 『インドラファンタジー』の知識であり、そしてこの世界で実際に使えた魔法の裏技を伝授するつもり。

 教えていいのか分からないが、ジュリアになら教えても問題ないだろう。


 ティファニーみたいにゲームと違った展開になるとちょっと怖いが、皇女様だし多分問題ないはずだ。

 俺はこの帝城に軟禁されている期間、ジュリアに魔法の知識を徹底的に叩き込んだのだった。


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