第63話 ギーゼラの告白


 ギーゼラと共に帝都の街を歩く。

 私もギーゼラもそれなりに見目が良いこともあってか、道行く人に声を掛けられるけれど……私も、そしてギーゼラも心に決めた人がいるため一切相手にしない。


 なんとなくではあるけれど、これからギーゼラが話そうとしていることは想像がつく。

 エリアス様への気持ちが強くなりすぎてしまったことへの相談だと思う。


 ギーゼラは、エリアス様と二人でバームモアの森に行った日から明確に態度が変わった。

 魔物に襲われたとか言っていたけれど、きっとその時に何かあり――エリアス様の魅力に気づいてしまったのだと思う。


 だから、極力エリアス様と二人きりにはしたくなかったのだけれど、ギーゼラが第二夫人となった時から覚悟はしていたし、こればかりは仕方がない。

 それに……私はギーゼラも好きだから。


「適当に歩いてきたがここでいいか。……ふらっと歩いた割りには良い場所だな」


 着いた場所は帝都を一望できる高台のような場所。

 周りにはカップルしかおらず、私とギーゼラがそういう関係だと思われているのか分かりませんが、チラチラと視線のようなものを感じる。


「それで、エリアス様を抜きで私に話とは何なのですか?」

「クラウディアはもう気づいているだろう? 私は……エリアスのことが好きだ。愛している」

「ふふ、知っていますよ。そうでなければ、いくら冒険者になりたいからといったって婚約なんてしませんからね」

「そうなんだが、そうじゃなく…………心の底から愛してしまった。クラウディアのエリアスへの気持ちと同等以上に」

「それはありえません。私はエリアス様のためでしたら死ねますから」

「私だってエリアスのためなら死ぬことができる」


 胸を張ってそう言い返してきたギーゼラ。

 しばらく無言で睨み合い、同じタイミングで私達は笑った。


 私以上にというのはありえませんが、ギーゼラがエリアス様を愛していることは今のやりとりだけでも十分に伝わった。

 今日不機嫌だったのも、私とエリアス様とのイチャイチャを見て嫉妬したから。

 そう思うと……ギーゼラが可愛く見えてきてしまいます。


「ふふ、ギーゼラがエリアス様を愛していることは分かりました。それで、その報告をするために私に話に来たのですか?」

「ああ。私がエリアスと出会う前から、クラウディアはエリアスと婚約していた訳だからな。エリアスよりも先に、クラウディアには伝えないといけないと思っていた」


 エリアス様と婚約はしていましたが、一切結婚するつもりがなかったのですけれどね。

 好きになったタイミングは、恐らくギーゼラと同じタイミングぐらい。

 なので私の方が先ということはないのですが……わざわざ伝える必要はありませんか。


「ギーゼラは相変わらず律儀な人ですね。私だったら何も伝えず、エリアス様を襲っています」

「ふふ、私も伝えただけだ。クラウディアがどう返答しようが、エリアスに今の私の気持ちを伝えるつもりでいる。そして――絶対に抱いてもらう」

「それはまぁ……堂々と」

「クラウディアは嫌かもしれないが、私はもう自分を抑えられない。今日もずっとイライラしてしまったからな。実は……昨日の二人の情事。丸聞こえだったんだ」

「それで――嫉妬していたのですか!」

「ああ。自分でもよく分からないが、そういうことなのだろう。こんな感情、生まれてから一度もなかったからよく分からず……二人に当たってしまった」


 申し訳なさそうに俯いて、口をとんがらせているギーゼラは非常に可愛らしく、嫉妬で不機嫌だったとエリアス様が知ったら――きっとイチコロでしょう。

 このギーゼラの表情はあまり見せたくないと思ってしまうのは、やはり私もギーゼラに嫉妬してしまっているからでしょうか。


「ギーゼラは本当に可愛らしいですね。……構いませんよ。本当は嫌ですが、ギーゼラが第二夫人となったときから覚悟はしておりました。私ごときがエリアス様を独り占めするのもよくありませんからね」

「クラウディアは美人だし優しいし可愛いからな。エリアスくらいだろう。クラウディアが独り占めできない人は」

「ふふ、そうだと思います。……存分に楽しんでくださいね。そしていつか……三人で致しましょう」

「さ、さ、三人で!? そ、そんなのもあるのか……?」

「ふふふ、さてどうでしょうか」


 それから私とギーゼラはしばらく談笑してから、エリアス様の下へと戻ったのだった。




※     ※     ※     ※




 二人と別れた俺は『スペイス』へと戻ってきたのだが、やっぱり向こうの会話が気になって仕方がない。

 非常にもやもやとした気持ちを抱えたまま、俺は『スペイス』の店に入った。


 先ほどは客が一人もいなかったのだが、今は俺以外にも一人お客さんが来ていた。

 他に客がいたらルーンについて聞きづらいし、これは帰るまで待つしかなさそうだな。


「あんれ、また来たのか!?」

「ちょっと時間ができたから戻ってきたんだ。まだ見足らなかったしな」

「……ほーほー。べっぴんさんの二人に逃げられたのか! こりゃ可哀想だな! がっはっは!」


 大声を上げて笑う店主のスペイス。

 完全に馬鹿にしてきた対応に若干イラッとするが、相手にはせず武器を見ることに集中しようと思ったのだが……。


 店内にいる客が非常に気になるな。

 頭からブルカのような布を被っており、顔が全く見えない状態。


 ここまでして顔を隠しているということは有名人である可能性が非常に高いため、もしかしたら俺の知っているキャラかもしれない。

 そんな思考が頭を過り、武器を見るよりも客に視線が向いてしまう。


 手や体付きからして女性。

 荷物や武器は持っておらず、唯一身に着けているのは指輪だけか。


 …………あの指輪、どこかで見たことがあるな。

 この距離からではどんな指輪なのか判別できないため、何とか近づいて見てみたい。


 今の俺の動きは完全に変人であるが、知っているキャラの可能性があり、そして知っている指輪を装備していることから……もう止められない。

 何か探しているフリをしながら近づき、身に着けている指輪の確認をしたのだが――近くで指輪を見たことですぐにピンと来た。


「あっ、その指輪! ……っと、すみません」


 思わず声をあげてしまい、変な目で見られたが……間違いない。あれは皇女の指輪だ。

 ドラグヴィア帝国の皇女が持っている指輪であり、ドラグヴィア帝国の皇女といえば――ジュリア・エリザベス・ベル・ドラグヴィア。


 一時的にパーティに加わるキャラであり、皇女でありながら高い戦闘能力を持っている。

 皇女様なだけあって見た目も抜群に美しく、プレイヤーからの人気が非常に高いキャラ。


 声を掛けたいが、皇女だし流石に声を掛けたらまずいか?

 いや……でも、ここで声を掛けないのは『インドラファンタジー』を愛する者としてはありえない。


「……あの、間違っていたら申し訳ないのだが、ジュリアさんですか?」

「――な、なぜそれ……い、いや、人違いだ!」


 ジュリアはそう言うと、慌てた様子で店を飛び出して行ってしまった。

 声を聞いて確信した。今のは絶対にジュリアだ。


 追いかけたいところだが、流石に走って追いかけたら完全に不審者。

 皇女にストーキングしたとなれば、牢獄にぶち込まれる可能性もあるため……ここは堪える。


 ジュリアといえば――最初の出会いは神龍祭。

 てことは、今回の神龍祭にも出場するということだろう。


 もし万が一戦えたら、その時は絶対に声を掛けよう。

 ルーンについて聞くはずが完全に目的を忘れ、俺は訳の分からないことを心に誓ってから、店主に何も聞くことなく『スペイス』を後にしたのだった。

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