第39話 プレゼント


 かなり癪ではあるが……小さい胸を目一杯張っているローゼルに、俺は指導のお願いをした。


「アリスが本当にローゼルなら、ぜひ指導をしてほしい」

「ふっふっふ、ようやく素直になったわね。ただ……お願いするにはちょっと頭が高いんじゃないかしら?」

「…………。指導はしてもらいたいが、別に頭を下げてお願いすることではないからな。……というか、俺に指導したくてこの学校にまで来たってことは、お願いするのはローゼルの方じゃないか?」

「はぁ? なんで教える側がお願いするのよ!」

「だって、ローゼルが俺に指導をしたいんだろ?」


 調子に乗ってきたため切り返して詰めてみると、言い返せずもごもごとし出したローゼル。

 齢百歳を超えているのにも関わらず、意外と弁が立たないようだ。

 というか、長いこと偉い立場にいる人物だから、言い返されることに慣れていないのだろう。


「確かに指導はしたいが、指導を受けるのはエリアスな訳で……」

「ローゼルが指導したいなら、お願いするのはローゼルの方だろ。それでお願いする時はなんだっけか?」

「うぅ……。わ、私に指導させてください。お願いします!」

「ああ、頭を下げてくれたなら指導させてあげても構わない。それじゃ明日からよろしく頼む」


 指導してもらう身だが、上手いこと俺が上の立場になることができた。

 常に高圧的な態度だったことがネックだったが、このスタンスなら指導を受けている時もムカッとくることはなさそうだな。

 上手いこといったことに対して俺は笑みを浮かべ、教室を後にして闘技場へと向かった。



 闘技場に着くとクラウディアも既におり、ギーゼラと何か話をしていた。

 同時に指導を始めたということもあり、二人は変にライバル意識があるようで、滅多に話すことはしないんだが……珍しいな。


「遅れて悪い。二人は何の話をしていたんだ?」

「いえ、エリアス様が遅れる理由についてを教えてもらっていたんですが……。アリスという方に呼び止められていたんですよね?」

「ああ。クラウディアはアリスについて何か知っているのか?」

「そういう訳じゃなく、最近私のクラスに転入してきた子がアリスさんについて尋ねて回ってまして、それで少し気になったんです」


 最近転入してきて、アリスについて尋ねて回る?

 ピンポイントでアリスってところが色々と臭ってくるな。

 

 『インドラファンタジー』に関わりのあるキャラなら、顔を見れば一発で分かる。

 裏で暗躍するような組織の人間だとしても、分かるというのは大きな強みだし一度確認してもいいかもしれない。


「それは俺も気になるな。明日にでもクラウディアの教室に行っていいか? その人を見てみたい」

「別に構いませんが紹介はできませんよ? アリスさんという方について尋ねられただけで、私は知り合いでも友達でもありませんので」

「大丈夫だ。どの人が尋ねてきたのかを教えてくれればいい」

「それだけでしたら構いません。エリアス様も何か気になったのですか?」

「ああ、少しだけな。それより……今日は二人に渡す物がある」


 アリスについて尋ねて回っている人も気になりはするが、今回の本題は休日に回収してきたアイテムを渡すこと。

 話題を変え、俺は二人にアイテムを渡すことにした。


「あっ、早速プレゼントですね! でも、私だけでなくギーゼラのもあるのですか?」

「ああ、二人にプレゼントがある」

「そうなのですか……。てっきり私だけかと思っていましたが、エリアス様からプレゼントを貰えるなら何でもいいです!」

「私にプレゼントか。……異性からプレゼントを貰うのは初めてだな」

「プレゼントといっても、強くなるために役立つものだぞ?」

「だとしても、エリアスから貰えるのは私も嬉しい」


 軽く微笑んでくれており、『インドラファンタジー』では見ることのできなかった細かな表情の変化に鼓動が速くなる。

 ギーゼラはやはり美人だし、そんな美人にこうやって微笑んでもらえるようになったということは、多少なりともダイエットや輝き茸の効果が出ているのかもしれない。


「それじゃまずはギーゼラから。ギーゼラへのプレゼントは――このイヤリングだ」

「イヤリング? こんなお洒落なもの身に着けたことがないのだが、私なんかに似合うだろうか? ……というか、これが戦闘に役立つものなのか?」

「きっと似合うから大丈夫だ。このイヤリングはマジックイヤリングといって、このイヤリングを身に着けている間は、魔法を使った際の魔力の消費を抑えることができる優れもの」

「へー、それは確かに便利な装備品だな。……なぁエリアス、ちょっとつけてもらってもいいか?」


 そう言うとギーゼラは髪をかき上げ、俺にイヤリングをつけるよう耳を傾けてきた。

 なんというか……めちゃくちゃエロくて体が止まってしまう。


「あ、あー! 私がつけてあげます! エリアス様、そのイヤリングをお貸しください!」

「…………なんだ。せっかくならエリアスにつけてほしかったんだがな」

「文句は言わないでください!」


 俺が立ち止まっているところにクラウディアが割り込み、俺からイヤリングを奪い取るとギーゼラの耳につけた。

 確実にもったいないことをしたはずなのに、ホッとしている自分が少し情けない。


「とりあえずそのイヤリングを身に着けていれば、魔力の練習が捗るはずだ」

「エリアス、本当にありがとう。大事に使わせてもらう」

「ああ、大事に使ってくれたら嬉しい。次はクラウディアだな」

「はい! 一体何をプレゼントしてくれるんですか?」

「まずは……もう見えていると思うがこの弓を渡す。性能の良い弓だから大事に使ってほしい」

「ふふっ、ちらちらと見えていましたが嬉しいです! 私のために弓をプレゼントして頂き、本当にありがとうございます! 今日から早速この弓で……いえ、練習は普通の弓の方がいいんですかね?」

「いや、使ってくれて構わない。普通に使う分には壊れることはないからな」

「それじゃ使わせてもらいます!」


 クラウディアは大事そうに弓を抱えた。

 確実に大事に使ってくれるのが分かり、大金をつぎ込んだが入手して良かった。


「あともう一つプレゼントがあって――この指輪だ」

「ゆ、指輪ですか!? そ、それってもしかしてぷ、プロポーズ……」

「違う違う! こんなところでプロポーズなんてする訳ないだろ。これは命の指輪といって、自然治癒を上昇させる効果がある。弓を射るせいで手がボロボロになるだろ? だから常に着けていれば回復が早くなる優れものだ」

「そんな効果まであるんですね! 指輪のデザインも素敵ですし、二重で嬉しいです! それで……エリアス様が私の指にはめてもらえますか?」

「いや、指輪は流石に自分でつけられるだろ」

「いやいや、折角ですのでエリアス様に――」

「私がつけてやる。さっきのお返しだ」


 今度はギーゼラが俺から命の指輪を奪い取ると、指を差し出していたクラウディアの指にはめた。

 これまた勿体ないことをした感じがするが、今のはギーゼラの動きが速すぎてどうにもできなかった。


「なんでギーゼラがつけるんですか! 私はエリアス様につけてほしかったんです!」

「さっきのお返しだと言っているだろ。私につけてもらえたんだからいいじゃないか」

「二人はなんですぐに喧嘩するんだ。……ったく、プレゼントも渡し終えたし鍛錬を始めよう。装備品の効果を確かめてくれ」

「ああ、確かめさせてもらう」

「私も確かめさせてもらいます!」


 こうしていつものように鍛錬が開始された。

 プレゼントした装備品の効果はかなりのものだったようで、二人の練習効率は一気に上がった。


 これだけ成果を出してくれたら街を巡った甲斐があるというもの。

 俺も二人に負けないように鍛錬を行うとするか。


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