第40話

40



「申し訳ないのですがそれだけは譲れないというか、普通に創作した小説ということでお願いしたいと思います。


 活字の方は結構信憑性が高いといいますか、その時自分が感じた正直な心情なども吐露しておりますので、その辺は身内や近しい人間もしくは夫が万が一読んだ場合のことを考慮して変更させていただきたいと思います。


 その上で漫画家の方に描きやすいように手を加えていただいて構いません」






「分かりました。

 じゃあ書き直しの原稿を早々に送っていただけますでしょうか。

 大筋はすでに漫画家の方と進めていますので」




「はい、なるべく早くお送りさせていただきます」




「ありがとうございます。

 ……あの、気になっている個所がありまして。

 一つだけ質問してもよろしいでしょうか」




「なんでしょう」



「ご主人の会社は倒産しそうなのでしょうか? 

 予兆というかそういうものが何か……」



「いえ、業績はいいみたいで、この先もっと収益を上げていきそうです」




「でも小説の中では会社が傾いていく様子が描かれているのですが、

そうしましたらここは創作ということになりますよね」





「怖いですね。

 醜いことに、願望を乗せて書いてしまったのかもしれません。


 夫の会社は、って今はまだ舅が代表ですが、彼らの会社はものすごく

業績がいいというのに、小説を書いている時にフっと『倒産』という二文字が心の中に浮かんだものですから。


 まぁ、小説としても最後に裏切り者が落ちぶれるというのは読者に

受けるかもと思ったりして実録から外れますが書いてしまいました」






「いやぁ、そんなお話を聞いて不謹慎ですが……ちょっとワクワクして

しまいました。


 石田さんの予想というか胸に浮かんだことがもし本当になったら、

そういう予知能力があるっていうことが証明されますから。


 まぁ、ある意味人の不幸になるので当たらない方がいいと思いますが」






「そうですね、きっと当たらないと思います。

 小説の中でだけでも、ギャフンって言わせたいっていう……」





「分かりますよ。ははっ。じゃあ今日はこれで失礼します」



 帰りゆく山下さんの背中に私は呟いた。




『私の歩んできた日記なんて本当につまらないって思ってたのに。

 山下さんっていい人よね。ありがとー』






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る