第13話
13
「駄目ダメ、石田さんがいらっしゃるでしょ。
失礼だよ。
じゃあ、石田さん、秋野さん、お先に失礼します」
秋野さん、悪いお
今度サンド奢るからさ。
俯いて何事か思案している上司と青ざめて困惑顔の秋野さんの姿を
目にしつつ、私はカフェを出た。
いいことをしているはずなのに、秋野さんの顔を思い出すと罪悪感で
胸がいっぱいだ。
◇ ◇ ◇ ◇
秋野さんの様子から、この場所にいては上手く事が運ばないような気がして、 俺は注文をせず彼女に提案した。
「大切な話があるんだ。
ここだと落ち着かないから別の場所に移動しない?」
普通なら電車を使うところだが、タクシーでハーバーランドまで足を
延ばした。
飲食の店舗沿いに水路があってすごくいい雰囲気のウッドデッキ調の歩道が続き、そこをぶらりぶらりと歩いた。
「すごく話しづらくてこんなところまで付き合わせてすまない」
「いいえ、そんな……」
目の前に広がる海の風景に力を貰い、俺は意を決して秋野に自分の気持ちを伝えることにした。
「この間はつまんない言いがかりをつけてほんとに、ごめんっ」
「あの、もしかして、あの時の質問って日比野くんのことでしたか?
私、あの時、てんぱっちゃって、日比野くんが部屋に来ていたことが
頭に浮かばなくて石田さんに嘘ついたことになってしまって、私のほうこそすみませんでした」
「これ以上秋野さんを困らせるのは不本意なので直球で話そうと思う。
俺があんなつまんない質問をしたのは、嫉妬からなんだ。
いつの間にか秋野さんのことが気にかかるようになっていて、
大きな存在になっていた。
俺と結婚前提で付き合ってもらえないだろうか。
ああ、それとひとまず辞表はなしでお願いしたい」
俺がそう言うと秋野はしばらく呆けていた。
そして涙目になりながら
「私、嫌われたのかと思ってました」と呟いた。
「ほんとに、きつい言い方をしてごめん」
「良かったです。嫌われてなくて」
「俺、日比野に負ける?」
弱気になり、言いたくないヤツの名前を出す。
「日比野くんは同期でやさしい人だけど、私たちそういうのではないです。
それに石田さんは負けてません。
石田さんにそんな風に思ってもらってたなんて考えたこともなくて
……でもすごく嬉しいです」
「じゃあ、俺と付き合うっていうことで……いいのかな?」
「はい」
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