第12話

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 私と秋野さんは会社から徒歩数分の最寄り駅近くの『フランソワ』という

カフェに入った。




 入り口のドアが濃い色合いのブルーで壁はシースルーのガラス張りに

なっていて、一見小さな店舗に見える店。



 しかーし、中に入ると嘘のように結構広々としている。



 なんか、今日の石田さんみたいに込み入った話をするのにぴったし

なのよね。



 勿論みんなでわいわいやるのも良しって感じなんだけどね。



 テーブルと椅子が木でできていて暖かさを感じるそんな店。





 秋野さんと来る時は大体サンドイッチだとかケーキを頼むんだけど、

今日は秋野さん、石田さんと話をすることになるので、そんなもの頼んでも

きっと喉に通らないと思うから、ここはおねいさんが気を利かせて

あげるね。





「え~と、私お腹すいちゃったのでサンドにし……」



「あぁわわ、あの秋野さん?」



「はい?」



「実はここの後、友だちから教えてもらった素敵なバーへ行こうかなって

思ってるの。だから軽食は後にしない?」




「わぁ~、素敵。分かりました。

 黒田さんと飲みに行くなんて初めてですよね。

 あ~ん、これが最初で最後になるかも」



「何々、意味深なこと言うねー」



「あぁ、実は私……」




 入り口を見るとちょうど石田さんの姿が見えた。

 間に合ったようだ。




          ◇ ◇ ◇ ◇





 私はわざとらしく

「石田さん! すごい偶然ですね。ご一緒しません?」

と大きな声で石田さんに向けて声を掛けた。



 秋野さんを見ると青ざめている。



 石田さんと何かあった?

 だから辞表を出した?




 いきなりそんな考えが次々思い浮かんだけれど、とにかく目の前の

ミッションをこなさないとね。





「おじゃましてもいいのかなぁ~」

と、しらっと言いつつ石田さんが秋野さんの横に座った。




 私はややお尻の位置を二人の間くらいにずらして会話した。



 何か妙な感じ。



 石田さんと秋野さんの表情が丸わかりなんだもの。

 秋野さんは愛想笑いをしつつも、迷惑そうなのが見て取れた。




 ここで私が彼女を置き去りにして席を立てば、泣いて縋ってきそうな雰囲気だ。





 そう考えていると、思っていた以上の早急さで石田さんから『帰っていいよ』

という合図が飛んできた。




 いや、視線を受けただけなんだけど、分かったのよ。





「秋野さん、私、ごめん。急にお腹痛くなってきちゃって……

申し訳ないけど帰るね」





「えーっ! いやそんな……。

 じゃあ私、駅まででも見送ります」





 

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