世界の片隅で今日も生きてます

櫻井金貨

第1話 いつかヤギを飼いたい

 ガソリンスタンドで給油していた夫が叫びました。


「早くおいで。子ヤギがいるよ!」


 えっ、と思って、トラックを降りると、1つ向こうで給油している女性、トラックにゲージに入れた黒い子ヤギを載せていました。


「か、か、可愛い〜!」


 大喜びをする、通りすがりの中年夫婦です。


「ヤギはいいねえ」

「本当だね。飼うなら白いヤギがいいなあ。茶色や黒のブチが入ったやつ」


 人様のヤギを見て、あれこれ言っていると、黒ヤギさまが「めええ」と答えてくれます。


「おお、可愛いなあ」

「めええ」


「子ヤギでも、大きさはもう中型犬くらいだね」

「めええ」


「赤ちゃんでもないからな」

「めええ!」


 夫がトラックの給油を終えました。

 黒ヤギさまも、「めええ……」と呟きながら、出発されました。



 これから車で30分かけて帰宅します。

 その間に、少なくとも3軒、ヤギを飼っている家を通ります。


「あの子ヤギ可愛かったね」(まだヤギの話をしています)

「可愛いけど、世話は大変だぞお。放っておくと、何でも食べちゃうからな」


「そうだね。それに旅行にも行けないって、Bさん夫婦が言ってたし、Jさん家は……」

「Bさん家のヤギはペットだけど、Jさん家のヤギは食用だな」

「……(そうでしたね)」


 カーブを切りながら、トラックはまだまだ走ります。


 旅行にも行けないくらい、おじいちゃん、おばあちゃんになったら、ヤギを飼おうか。

 ペットとして。


 そうしたら、ヤギに話しかけて。


「めええ」

「めええ」


……とお返事してもらうのだ。


 私が黙っていると、夫が言いました。


「ヤギはまだ飼わないぞ〜」

「わかってるよ〜」


「お、ほら、ヤギの(いる)家!!」

「本当だ。今日も元気そうだね!!」


 家の近くに来ても、まだヤギの話は続くのでした。



※本当、ヤギは可愛いんです〜

 かなり懐いて、後ろをくっついてくると聞きました♡



☆☆☆世界の片隅の、田舎でのお話でした☆☆☆

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