直会
ひさしぶりに、父と姉と食事にでかけた。
母はなぜかいなかった。
店は高層ビルの三十二階にある、中華料理屋だった。
鉄とガラスとコンクリートでできた灰色の建物に、金と赤に彩られた派手派手しい店が入っているのは奇妙な感じがする。
店のなかは騒がしかった。外国から来た観光客と相席になったのだ。
陽気な観光客たちの前には豪華な皿が次つぎと運ばれ、彼らは大騒ぎしながらそれを平らげていった。
わたしたちは安い料理を四皿注文し、ぼそぼそと食べた。
味は可もなく不可もなくといったところ。
食べ終わると、観光客のひとりから結婚を申し込まれたが断った。
店を出るとエレベーターは行ったばかりだった。
待っているあいだ目を閉じると、建物が振り子のように揺れているのが分かったので不安になった。
いままで気づかなかっただけで、建物はずっと揺れていたのだ。
わたしたちを乗せたエレベーターは、ゆっくりと降りていった。展望エレベーターで外のようすが見えるから、どれだけ遅いのかよく分かる。
わたしはしばらく夜景をながめていたがそのうち飽きて、カバンからルービックキューブを取り出した。
むかしは六面を揃えられたのに、いまは一面を揃えるのも無理だった。
外に出ると、小雨が降っていた。
あたたかい夜だったし、歩けないほどではなかったから、わたしたちは家まで濡れて帰った。
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