魔王に連れられて (仮)

宇紀

第1話

水が冷たい、池が深くなくてよかった。

私がなにか悪いことをしたのだろうか。いや、こんなことになったのだ、なにかしたのだろう。

「あんたのことずっと嫌いだったの。私の好きな人に色目使うからいけないのよ!」

私を池に落とした女が声を上げる。

「なんのこと?」

「惚けるんじゃないわよ、あんたがキル君にお菓子をあげて手を握られてるの見たんだから」

キル、それは私とこの女-ミミィがいる魔王討伐隊の仲間で隊長だ。正直キルのことはタイプでは無いむしろ苦手な方だ。

「黙ってないで何か言ったらどう?!」

「誤解だよ、私はただ街で買ったお菓子をたまたまキルさんに取られただけで…」

「まぁ!まるでキル君が悪いみたいに言うのね、さすが泥棒猫。あんたみたいな奴がいると仲間の雰囲気が悪くなるわ、キル君に言って追い出してもらうから精々覚悟することね」

ミミィは踵を返すと仲間がいる方へ帰って行った。

「嵐のようだ…てか寒っ」

ぶるっと震えながら池から出ると魔法で濡れた服を乾かす。


「お主も大変だな」


どこからともなく声がした。


「だれっ!」

私が身構えると木から人が降りてくる。髪が長く艶やかな顔立ちで、シャツの間から見える素肌やしなびやかな体は妖艶だ。月明かりに照らされたその''人''は口を開く。

「我はお主たちが目指す魔王城の主だ」

ニヤリと笑う。

「魔王城の主…?」

「そう我は、お主たちが目指し打ち倒そうとしている魔王シュイル・ラルムだ」

「はぁ?」

この男は何を言っているんだ、訳が分からない。いきなり現れて魔王だなんて言われても納得が行くわけない。しかも魔王がなんでこんなところにいるんだ。ここは魔王城に着くまでまだまだ時間がかかるところなのに。

「…あのお兄さん、ここは魔物も出る森なので早く帰った方がいいですよ。」

「ハッハッハッ、信じておらんようだな。ではこれでどうだ?」

魔王と名乗る男が手を前に出す、すると黒い炎が手から出る。

その瞬間体がゾクリと今まで感じた程のない拒否反応を起こす。

「これはっ魔力?!しかも強いっ」

「そうだ、これで我が魔王だと分かったか?」

魔王が手を下ろすと体の力が抜けその場に座り込む。

私、殺されるのかな…

「なぁに、殺しなどしない」

「で、ではなぜこんなところに…」

震えながら質問をする。


「それはな-…」

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