星と化け物

間上 菜子

不老不死の化け物


"不老不死"

 大昔から現代に至るまで、多くの人々が追い求めてきた人間の完成形。

その肉体は老いることなく人生における全盛期を保ち続け、どんな傷を負おうとも何事も無かったかのように再生する。

……そんな夢のような存在を、僕は知っている。

"それ"との出会いは突然のことだった。

突然、空から降ってきたのだ。

人気のない夜道を一人歩いていた僕の目の前に落下したそれは鈍い水音を立てて潰れた。

すぐ側には立ち入り禁止となった廃ビルが建っている。恐らくはそこから落ちてきたのだろう。

落下の衝撃で四肢もあらぬ方向へ捻じ曲がり、原型を留めないほどに潰れた肉体。

…それは、数秒後にはまるで何も無かったかのように傷一つない体で立ち上がった。


「ありゃ。人が居たのかぁ…。ごめんね、びっくりさせちゃって」


目の前でへらりと笑うそれに、思わず声を掛けてしまった。


「……きみ、なに?」


「んー、そうだねぇ…」


目の前のそれは、少し考え込むような姿を見せたかと思うと、やがてゆっくりと口を開いた。


「……ただの、化け物だよ」


「僕のことよりもさ、なんで君みたいな子供がこんな夜中に歩いてるのさ」


その質問に対して、何も言えずに僕は俯いてしまう。するとまるで、納得がいったとばかりに頷がれてしまった。


「あぁ。なるほど、わかった。家出、というやつだね?」

 

「でも、こんな何もない所にいてもつまらないだろう? びっくりさせてしまったお詫びに、僕がいいものを見せてあげるよ」


俯いたままの僕は抱え上げられ、そのまま廃ビルの壁際へ連れて行かれる。そして僕を抱え上げたまま、壁を蹴り上げあっという間に屋上までを駆け上っていった。

普通の人間は壁を駆け上ったりしないし、そもそも潰れていた体が数秒で完治したりしない。

今、僕を抱き上げているこの存在は間違いなく"化け物"なのだろう。


「ほら。さっきよりもよく空が見えるでしょ?」


化け物は抱き上げている僕にのんびりと話かけた。

確かに、先程までは建物の屋根や街灯で見えにくかった空だけれど、この辺りで一番高い建物の屋上となると障害となるものがなくなり星が美しく散りばめられた夜空が視界一面に広がる。


思わず息を呑む程、美しく感じるその夜空に一筋の光が流れた。


「流れ星だねぇ。運がいいね。せっかくだし、何か願い事でもしたらいいんじゃないかな?」






…これが、僕と化け物の最初の出会いだった。




 

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