知らないキミ

今日


久しぶりにキミを見かけた


それはぼくの生活の中


部屋の片隅


ちっちゃなディスプレイの奥


いくつもの季節の折り目


どこに仕舞い込んでいたのかも分からなくなるくらいの時間の先ですれ違ったのに


たった一目キミを見ただけで


まるでいつか2人で見た花火のようにぱっと広がって


あの声


あの仕草


髪の香り


誕生日には「また歳を取ってしまった」と鼻にシワを寄せて笑っていたのに


別人のようになっていて


子どもっぽさのある顔や


表情は


見たこともないほど大人っぽくて


綺麗だった


そしてキミは


立ち止まることも


振り返ることもなく


やわらかく風になびく髪を左手で押さえて歩いてゆく


イヤフォンからはプレイリストに入れていたあの時の曲が流れた


もう


誰も聴かなくなった


あの時の曲が


いつか2人で聴いたあの曲が


キミは


そんなぼくを知らない


ぼくの知らないキミは

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