バス

西日が影を伸ばして


バス停がわたしの姿を隠す


バスが夕暮れの風と共に目の前に滑り込むと

わたしは顔も上げずにバスへと乗り込んだ


人影まばらな車内の一人掛けの座席に

深々と座り込むと窓にコトンと額をつける


ひんやりとした感触が額から伝わると

そこからいろんなモヤモヤが流れてゆくように感じた


窓越しにはふざけ合いながら楽しげに

自分と同じ制服を着た男の子たちが歩き


赤ちゃんを抱っこしたお母さんが買い物袋を持ち直す


メガネをかけたスーツ姿の男性はカバンの中を掻き回しながらなにやら電話をしてる


日常はすぐそこにあって


まだたかだか10数年しか生きていない自分の

今日の出来事なんて


きっと大人に言わせればどってことない


もしかしたら10年後の自分自身すら

今日を笑い話に出来るのかも知れない


それでも


今日の


今日までのわたしにはそれが全てだった


バスが小さなトンネルに差し掛かると

暗くなった窓に自分が泣いているのが映った


長袖の裾で目をゴシゴシと擦ると

「もうそろそろ衣替えだな」なんて

取り留めもなく考えた


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