第95話  神属性の本は



 女神がアリュードとユイナ結衣に向き直り



「2人に話したい事は、神属性についてなんだけどさ」



「アリュードさんから幾つかの神属性についての本は読んでますが、覚える気配がありません」


「帝城にあった本は全て持って来てるはずなんですが……やはり相当、身に付けるのは難しいのですね」



 2人同時に首を撚ると靱平が



「神属性に関する本は帝城が建てられる前の神殿跡の地下室に納めた筈……この1000年の間に失われる事は……ないから見落としたとか?」



「それは……無いとは言えませんね。今は使われてない地下室か、入口が閉じられた地下室にあったら気づかなかったと思います

 危険は承知で戻って確認するしかないか……」



 今度は靱平とアリュードが首を捻っていると、女神が恐る恐る手を上げて



「あ〜その本だけどさ……じゃじゃーん! 何と! ここにあるっしょ!」



 金の縁が彩られ銀の文字で書かれた虹色の表紙の本を両手で頭上に掲げた女神

 アリュードは疎か靱平すらも思わずポカーンとした表情になる

 ユイナは無表情だが動きが固まっていた。

 少しの間ジャスティーネがお酒を飲む音と、ヒカリがお菓子を食べる音が微かに響いた



「……ってじゃじゃーんでは無いわ! 持ってるのなら何故直ぐに言わないんだ!」



「仕方ねぇーしょ! この1000年のゴタゴタのせいでうちの力を持ったこの本が! この世界で! 何でか異物としてとらえられて! この世界から放り出されてたんだよ! 

 ようやく視えたら無くなってるのに気付いて、外に漂ってるのをちょっと前に見つけたんだよ! 

 文句あるならあのに文句言えやぁ!!」



 靱平に怒られて色々と溜まってたのか、ぶち切れた女神。

 余りの怒りに同僚の神を何度もクソと言い、その迫力に皆が固まっていると



「あーその……すまん……いや、ごめんなさい。色々とそちらも大変なんだな。兎に角ありがとう」

(もう少し優しくするか……)



「はぁ……はぁ……スッキリしたー いや〜此方こそいきなり怒鳴り声上げてゴメンね

 女神にもそれなりの苦労があるのよね……今の苦労の8割以上は私には関係ないのに……」



 落ち着いて謝る女神だが今度は落ち込んで



「まあ……その……なんだ、酒を注ぐから思う存分飲んでくれ」


「アルフィーナ様のお陰で本が手に入ったのでありがとうございます」


「アリュードさんの言う通りです、ありがとうございます。あの……ミカン剥いたのでどうぞ」


「疲れた時は、甘いものも良いですよ〜 女神様にも良いと思います〜」


「酒のつまみはこれがいいですね。愚痴ならこの時間で幾らでも聞くからじゃんじゃん言ってね」



 それぞれに慰められる女神。勧められたものを一通り食べて飲んだ女神。落ち着きを取り戻して



「みんな〜 ありがとう……愚痴は今度集まった時に聞いて欲しいじゃん。今は神属性を覚えるのが大事だから早速読んでよ。」



「今からですか? 後から落ち着いてユイナさんと読みますよ」



「それがさ、さっきも言ったけど、この世界から弾かれたせいで本が現実に召喚出来ないんだわ

 だからこの夢の中で読んでもらう事になるのよ」



「夢の中とはこの時間でてすか? それは難しくありませんか?」

 

 

 ユイナが、困惑した雰囲気で聞くと



「流石にこの時間だけでとは言わないよ。それで、うちなりに考えた方法があってさ。それはね」



 女神の考えた方法は

・テウラーノス山(ディスター山)に近いランドールにアリュードとユイナが暫く寝泊まりする


・テウラーノス山は神が尤も力を発揮出来る場所。その側なら女神が毎晩、夢に表れても世界には影響がない


  そして


「お考えは分かりました。そして、同じ部屋で生活するのもまだ分かります。

 ですが、同じベッドに寝るのは流石に駄目です。

男女7歳にして席を同じゅうせずとも言います。

 本来なら恋人でもないのに、長時間2人で同じ部屋にいるのもあれなのに……せめて別々のベッドに出来ませんか?」



「う〜ん、固いなぁアリュード君よ。夢の中と言えど【共有】スキルで身に付けるから身体的な距離も短い方がいいんだ」



 言われて顎に手を当てて考えるアリュード。するとユイナが



「……私は構いません。ずっとアリュードさんと過ごして来ましたが、アリュードさんが誠実な方だとわかっています

 今は少しでも力を付ける事が大事です。宜しくお願いします」



「うん、分かった。明日直ぐに手続きを取って行くようにするよ」


 

「ホントにさ〜普段あれだけ女の子侍らせてる人間のセリフじゃないよね」


「ちょっ?! アルフィーナ様からかわないで下さい。あれは、帝王や周りの目を誤魔化す為の芝居ですから! 彼女達は護衛ですし……その……大事な人には……その……それより本を読みましょう!」



 慌てるアリュードを見て何かに気付いた靱平が



「少しいいかい? 話の途中で悪いがアリュード殿下、貴方の転生前の名前を覚えて居たら教えて貰えないか? 嫌なら構わないけどね」



 靱平が何に気付いたのか分かったアリュードは



「構いませんよ。俺の転生前の名前は 。お気づきの通り靱平さんと共に戦った元木 勇助の弟です」



「やっぱりか……あえて女好きを振る舞っていたり幼馴染に似たような反応をしていたからな。

 慌て方もそっくりだったしな。道理で会った事あるような気配だと思ったよ」



 納得している靱平だけど


「アリュードさんが前の勇者の弟さんだったなんて驚きです。ご兄弟共に勇者としての素質が凄いんですね」


「ユイナちゃんよりアリュード殿下との接した時間は短いですが、真面目ですし思慮深いと言うのかな? 知的で結構強いですから納得です」



「……私は、数回も会わなかったから分からなかったわ……でも、あの人は1回見て見抜いてたのよね……あれで、ビビリで小心者じゃ無かったらあんなに掻き回され無かったのにな……でも、そこも良いのよねー」



 ユイナとヒカリも納得して何回も頷いていた。ジャスティーネは驚いていたが、いつの間にかブァランタンの事を考えて嬉しそうにしていた



「素質もそうだけど、修行を段々と厳しくしているのに弱音を吐かず食らい続けるのは大したものだよ」


「俺は、召喚された方々より恵まれていますからね。調子に乗る訳にも行きません。

 チャラ男として振舞っていましたが、勇者として皇子として頑張ります。

 アルフィーナ様。本はここで読んだら良いですか?」



「集中出来る様に別空間の部屋を用意してるよ〜 そこで読んじゃって〜 時間が来たら声かけるからさ」



 言って手を振ると壁に扉が現れた。女神からユイナは本を受け取り部屋に行こうとした所でジャスティーネが


「アリュード君よ。部屋に行ったら真面目にするだけじゃ仲は深まらないよ。ブチューとキスを……フガフゲ〜」


 ジャスティーネの口を慌てて抑えたヒカリ。靱平はジャスティーネの顔を見て、自分の口に人差し指を当ててジェスチャーをした。

 ユイナは目を広げて驚くが、アリュードがさり気なく部屋に入れて自分も入った。

 扉が閉まるのを待ってジャスティーネの口から手を離したのヒカリ



「えっ? なに? どったの? 私は何か変な事を言った?」



 訳が分からず靱平とヒカリの顔を交互に見るジャスティーネ


「理由は私が話しますね。話してユイナちゃんから怒られるのは私だけで良いですか」



 少し考えてもし勝手に話して怒られる時は、自分も怒られようと考えながら頷く靱平


 そしてユイナに何があったのか話すヒカリ。

話を聞いたジャスティーネは、顔を真っ青にして両手で頭を抱えていた



「あっちゃーまじか……私やっちまったよ……アリュード君の事を言えねーよー

 ユイナちゃんの事を殆ど知らないのに迂闊な事言っちゃった……後で謝んないと……でも、口を聞いてくれるかな……もう、話してくれないとか」



「ジャスティーネさんは知らなかったんですからユイナちゃんも分かっていると思いますよ」



 そこでずっと俯いていた女神が



「今ね〜 念話でユイナちゃんにさっきの事を伝えたら、ヒカリちゃんが話した事もジャスティーネさんの発言も気にしてないってさ

 私の代わりに話してくれてありがとうございますと、気を使わせてしまいごめんなさい だってさ」



「そんな〜 気を使わせたなんて……私が悪いのに」



 気にしているジャスティーネを今度は女神達が励ますのだった

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