第59話 どう伝えようか?
子供に如何したら伝わるのかをあれこれ考えた結果
「上手いものだな」
「そうですか? 趣味でアニメキャラとか書てました~」
ヒカリが大きく可愛らしい文字で平仮名を紙に書いている
所々、何かのキャラを書いていてシンヤが聞くと“ある教育番組のキャラとアニメのキャラクターです”と答えた
「ヒカリさんと一緒に来て正解だったな。俺1人だったらどうなってたか」
「シンヤさん字は上手ですけど達筆ですからね。5才児には読み辛いかなと思いますよ。」
うんうん頷きながら書いているヒカリと苦笑いするシンヤ
「俺は4歳から平仮名と習字を習いだして5歳には簡単な漢字教わってたからね。
俺のは宛てにはならないと自覚してるよ」
「はっきりと覚えてるのも凄いですが、4歳から色々とされてたんですね~
私達とは違う日本から召喚されたんでしたっけ?」
「そうだよ。年号はヒカリさん達と同じだけど、大きく違うのは、俺の世界は第二次世界大戦が無かった。1回はあったけどそれ以降は無い。
武家は完全に無くならず、1部は政府から任命された家が技術や考えを後世に残すため形を変えて代々受け継いでいる
俺の家もその1つで“剣術家” と言う名で受け継いでいるよ」
“ほぇ~”と言いながら話を聞いてるヒカリ
「シンヤさんは違う世界と聞いてましたけど、世界が違うと同じ日本でも変わってくるんですね~」
「そうだな。勇者パーティーでもそれぞれ違う世界の違う時代から召喚されたからな
例えばパーティーの“賢帝”と言われた男は賢者と聖女の2つの力を極めていたんだ
彼が元いた世界は中世の魔女狩りが起こる前で魔術が存在したようだ。
魔術は日本で言う言霊に近いものらしい。
奥さんと2人暮らしをしていたが、奥さんが不治の病で亡くなったそうだよ。
それで奥さんの意志を継いで錬金術を身に付けて病に苦しむ人達の薬を作っていたそうだ
だから、賢者と聖女の2つの力を得たのだろうな。」
「おぉ~凄いです。文字通り女神様から選ばれた人達の集まりですね~」
目を輝かせてシンヤを見るヒカリ
「確かに、他の3人はそう思うけど俺は武器をぶんぶん振ってただけだからな
それで、手紙は書けたかな?」
「あっ、はい書けました! 確認お願いします」
手紙を受け取り目を通すシンヤ。真剣なシンヤを少し不安そうに見るヒカリ
「うん、良いと思う。俺にはこれ以上の事は書けないしな、ありがとう」
「良かった~ 次は手紙を渡して読んで貰う事ですね……あの~1つ聞いても良いですか?」
ほっとするヒカリ。手紙をマジック袋に仕舞うシンヤにおずおずと聞くと
「ん? 構わないよ、何かな?」
「ありがとうございます。あの、シンヤさんの日本で江戸時代から明治の辺りの戦いで、物凄く速く動いてものすっごい速さで刀を振るって戦場を制する人は居ませんでした?」
「居ないかな? どれ程の速さか分からないけど1人で制する事は無かったと聞いてるよ
俺の動きを見てそう思ったんだろうけど、この速さはこの世界に来てから身に付いたものだよ」
“そうですか~”と少し残念そうに言うヒカリを見て笑みを浮かべるシンヤは
「前のパーティーに居た勇者にも、俺の話をしたら似たような事を聞かれた事があったな
もしかして君達は同じ日本から来たのかもな」
「そうかも知れませんね! 教えてくれてありがとうございます。そろそろ行きますか?」
頷くシンヤ。シンヤは隠密ローブをマジックボックスから取り出すと、ヒカリを背負いローブを被った
「よし、それじゃ行くよ。分かってると思うけど、舌を噛まない様にと振り落とされない為にしっかり首に腕を回していてね」
「はい、分かりました。お願いします」
(シンヤさんにおぶられるとお父さんの事を思い出すな~ 会いたいけど、会えないよね)
ギュッと首に腕を回して顔を首の裏側に顔を埋めるヒカリ
シンヤは何も言わずに走り出した
その頃、ヴァリアント砦では
「ユイナさん達が来てまだ1日足らずだけど、ヒカリさんが居ないだけでも静かなものだね」
「はい、そうですね。ヒカリさんは明るくて優しくて気遣い出来る方ですから」
アリュードの執務室でユイナは魔法の本を、アリュードはシンヤから渡された武術・剣術に関する本を読んでいた
なるべく一緒に居るためか隣通しで本を読んでいる。ユイナは本から目を逸らさずにアリュードの話を聞いていた
その後は話すこと無く静かな空間で本の捲る音が聞こえる
(気・ま・ず・いぃぃぃぃ! お互い本を読んでるから静かなんだけどさ!
隣に美少女がしかも一緒に居るために側にいてさ! 変な意味じゃ無いのは分かってるよ!
何て言うか、何時も護衛で側にいるあの子らはそれぞれが好き合ってるからそんな感情は此方にないのよ!! 雇い主と雇われ側だから良いのよ!!
でも、ユイナさんは違うんだよ! 何がだよ?!
ヒカリさんが居た時は彼女が間を持ってくれてたんだな! 俺は前の世界もこの世界も女の子と付き合った事ないけど?! あれですけど?!
ユイナさんは俺のこと別に何とも思ってないのはわかってるが!
ヒャーーホォーー?!)
皇子の立場も関係なく魔王復活した時に向けて魔法を身に付ける為に側にいる女の子
それだけの筈が、1度も女の子とお付き合いした事ないアリュード君の頭の中は、訳の分からない暴走?をかましていた
そんなアリュード君の頭の中を知らないユイナは
「あの……アリュード殿下」
「ひゃふぁい?!」
ユイナに声を掛けられ素っ頓狂な声を上げるアリュード。無表情のまま首を傾げるユイナ
「あ、ああ……ごめん。何でしょうか?」
「いえ……その……何でもありません。大丈夫です」
表情は変わらないが、申し訳無さそうな雰囲気で
見てくるユイナにアリュードは
「変な声を出したけど気にしないで。聞きたい事があったら遠慮なく聞いて下さい。
暫くは一緒に居るんだからね」
「……では……あの……帝国を魔王幹部の手から取り戻す時に、帝王様と戦う事になる筈です。
その……大丈夫なのかなって……変な事を聞いてますよね。ごめんなさい」
目線を逸らし俯くユイナ
「いえ、変な事では無いですよ。その時は父親といえど戦いますよ。
これこそ変な事だけど、帝王を父親と思った事はないな」
「……えっ?」
顔を上げて僅かに目を開いてアリュードを見るユイナ
「俺が生まれて物心ついた頃には俺と母上には一切興味も示さず父親らしい事もしていない
其れ処か帝王としてもキチンとしてるかどうかだな。帝王を恐れて従っている真面な官僚達が頑張ってる御陰だよ。
俺に取ってはトールベンが父親代わりで、帝王は俺が生まれるのに必要だった存在かな
だから、心配は要らないよ。ありがとう
……でも、如何してその事を聞いてきたの?
答えにくかったら、別に構わないよ」
(心配だから、だけでは無さそうだな)
「……私から聞いて答えないのはおかしいので大丈夫です。
あまり良い話ではありませんが、お聞きしますか?」
アリュードが、話の中で如何して聞くのかを聞いた時に、ユイナの体が僅かに強張ったのを見て答えなくても良いと言ったけど
ゆっくり首を振って話しだすユイナ
両親の虐待に祖父母の引き取りから祖父母が亡くなりまた両親に引き取られ虐待に買春の話をゆっくりと言ったユイナ
「……以上が私のこの世界に来るまでの話になります。私にしてみたら両親は恐怖の対象でした。
恐らく今もです。なので、私には一般的な両親への感情が分かりません。
だから、アリュード殿下が帝王様をどう思われてるのか知ろうと思いました。
魔法を覚えるて少しでも速く[共有]するためにもです」
(もし、シンヤさんがお父さんだったら……考えても仕方ない事ですね)
「辛い過去なのに話してくれてありがとうございます。僕の感情も一般的では無いけれど、僕の考えは帝国を取り戻すのに帝王は最悪、倒すのも止む無しと考えている。
今はそう思ってくれてて良いよ」
(無表情も自分の身を守る為なのか……自身も色々と辛いだろうに、それでも考えてくれていたのに
俺は何を変な事考えてるんだ! 気を引き締め直さないとな)
“分かりました”と頷くユイナ
「俺の集中力が切れたので、少し速いが訓練に行こうと思うんだ、どうかな?
勿論、本を読むなら続けるよ」
「私も体を動かして頭をスッキリさせたい所でした。行きましょう、お願いします」
席を立って本の片付けなどをする2人
その二人を扉の隙間からそっと覗き見……もとい見守る4人の人影
アリュードの勇者にシンヤの正体を知っているアリュードの護衛の4人
「いゃぁ~アリュード殿下の“ひゃふぁい?!”は傑作ね~ 普段あれだけ私達とベタベタしてるのに、初心と言うか……面白いわ~ ね、マーメイン」
「そんな事は言うものではないわクリエーナ」
揶揄う口調で話す金髪エルフのクリエーナを嗜めるダークエルフのマーメイン
「でも、マーメイン。普段見られないものを見れたのはレアにゃ。これからもっと見れるにゃ~ 楽しみにゃ」
「ポルテナもそんな事は言わないで下さい」
ポルテナと呼ばれた猫獣人を嗜める人間の女性サリナ
「どうせ聞こえてないわよ。あんまりうるさく言うなら今晩もキャンキャン鳴かすわよ」
「なっ?! もう、だから今は任務中なのよまったく……」
クリエーナの言葉に顔を赤くするマーメイン
話に上がった当のアリュードは
(聞こえてるわ!!)
ユイナには聞こえなかったが、しっかり聞こえていたアリュード
表情は変えずにユイナと一緒に訓練場に向かうのだった
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