第58話 魔界に向け



 昼過ぎに砦へ戻ったシンヤはそのままアリュード達に会いに行った



「っと言う事だ」



 アリュードの執務室でフィッシュから預かった手紙と書類をアリュードに渡して、夢で起きた事をリディーナに話した事や今後の流れをアリュード達に伝えるシンヤ

 リディーナが王女であることはアリュードも知らないのでそれは伏せて話した



「しかし女神様が言われてもまだ不安がありますね。現魔王即ち魔族の王に協力を仰ぐのは……」



「現魔王はかつて魔王幹部の三大公魔爵で唯一の穏健派で平和主義だった男の意思を継いでる魔族の血を引き本人も争いを好まないらしい

 魔族の殆どが本来争いを好まない種族だからな

 確かに、前の時も戦ったのは三分の一位だった。魔王の影響を受けても全員が戦いに繰り出された訳では無かった……まぁ、話を纏めると友好的に行けると思う。なにより……」



  シンヤの次に言う話を聞いて



「「「転生者?! その魔王も?!」」」



「えっ? あっ?! この世界は召喚者や転生者が多いですね。俺も一応転生になりますが……よく日本にありそうな物が、この世界にあるのは過去に来て発明したからか。」



「実際そうなんだろう。前の魔王も違う世界から来ているからな。ただ、転生者について1つあってね」



 少し困った表情になるシンヤ。アリュード達3人が顔を見合わせてからシンヤに教えて貰うとユイナが



「そうなんですね。確かに転生はそう言う事もありますか。しかし、その転生者さんは大丈夫でしょうか?」



「女神の話しでは、今の所は大丈夫そうみたいだよ。それも時間の問題だろうな。

 そこでだ、魔王に接触するのは、俺とヒカリさんで行こうと思う」



 言われたヒカリは飛び跳ねるほど驚いた



「わ、わた、私ですかぁ~?! え、ええぇ~私、回復魔法位しか出来ませんよ? 」



「大丈夫だよ。戦いに行くわけでは無いからね

出来る限り戦いは避けて魔王にだけ接触出来たらと考えている

 それに、会うのに男の俺だけより女性が居た方が、相手も安心すると思う。

 念の為に、俺の正体を知っていてある程度共に居た人を考えたらヒカリさんが良いと思う」



 言われたヒカリは落ち着きを取り戻して話を聞いていた



「あの~でしたら、エヴィリーナさんも一緒に行ったらどうですか? エヴィリーナさんもシンヤさんの正体は知ってますし優しいですよ?」



「彼女は俺の正体を知っているけど召喚者や転生の事は知らない。話せば分かってくれると思うけど、今回は相手が転生者だからな。

 日本からの転生者なので、同じ日本人なら安心出来るとは思う」



「あ~そうですね。エヴィリーナさんからばれる事は無いでしょうけど~私達の事が帝国に知られたら大変ですもんね

 分かりました、頑張ります。これから行くんですか?」



 胸の前で握り拳を作り気合いを入れた顔で頷くヒカリ



「用意ができ次第向かおうと思っている。

 魔徒の森から隠密ローブを被ってヒカリさんを背負い一気に魔王の元に行く予定だよ。

 アリュード殿下、携帯食を少し用意して貰いたいのだが、俺が直に調理場に行っても大丈夫か?」



「ええ、シンヤさんの事も砦の皆には周知させてるので構いませんが、持って来させましょうか?」



 首を横に振るシンヤ

 


「ありがとう、でも携帯食を取りに行ってそのまま向かおうと思ってるから大丈夫だよ。

 ヒカリさんも用意が出来たら砦の門で落ち合おう」



「分かりました。すぐに用意して向かいます」



 言うヒカリと一緒に執務室を出てそれぞれ向かった

 調理場に着いたシンヤは料理長をしている50代位の女性に話すと



「アリュード殿下から手伝うように聞いてるよ。

 すぐ用意するからねちょっと待ってな。

 それと、リリィちゃーん! シンヤさんが呼んでるよ!」



 リリィは砦に身を寄せるに辺り調理を手伝っていた。最初は皿洗いだったが、手際が良く更に【家事】スキルがあると分かると1日足らずで色々と任される事になる

 


「シンヤさん1日ぶりですね。私に何かありますか?」



「リリィさん元気そうで良かった。少し聞きたい事があって時間はちょっとだけ大丈夫かな?」



 リリィは料理長に振り返ると“行っといで”と言われて軽く頭を下げるとシンヤと共に調理場を離れた

 


「それで、聞きたい事は何でしょうか?」



「詳しくは言えないけど、これから魔界の魔王が住んでる都市に少し行くことになってね。

 それで、都市の事について知ってることがあったら教えて貰えると助かるかな」



「えっ?! 魔界に行くんですか? でも、シンヤさんの実力なら大丈夫かな

 それで、都市についてですね。その、私は村から出ないので良く知るないんですが……そうですね

 聞いた話しですが、都市の入り口から真っ直ぐ進むと中心に噴水があって更に真っ直ぐ進むと魔王さ……魔王のお城があります

 それ位ですね。思い出せるのは、余りお役に立てなくてごめんなさい」



 頭を下げようとしたリリィを止めるシンヤ



「そんな事は無いよ。全く知らないで行くよりも雲泥の差だからね。ありがとう」



「あっそれと、私がここに来る前ですが、都市を中心に良からぬ噂が流れてるとも聞きました。

 ただ、噂の内容が分からなくて……」



 申し訳無さそうにするリリィ



「良からぬ噂ね……思い出してくれてありがとう、助かるよ」



 お礼を言うシンヤ。リリィはそれ以上は知らないのと余り調理場を離れるのも悪いので戻った2人

 戻ったリリィを料理長が呼んで用意した携帯食を渡すように言った



「シンヤさん携帯食です。シンヤさん気を付けて下さいね」



「分かった、ありがとう。料理長さんもありがとうございます。では」



 調理場を出るシンヤ。シンヤの後ろ姿を見送るリリィ

 リリィの後ろから同い年の女性2人がニヤニヤしながら見ていると、料理長の鉄拳が頭の上に落ちたのだった


 シンヤが門の所に行くと既にヒカリが待っていた



「すまない、待たせたかな」



「そんな事無いですよ。私もさっき来たばかりです」



「そうか、じゃ行こうか」



 頷くヒカリと一緒に魔徒の森に向けて砦を出るシンヤであった

 ある程度、進んで砦が見えなくなった所で



「回りに人の気配が無いから言うんだけど良いかな?」



「はい、何でしょうか?」



 何かに気付いた顔になるシンヤに



「今回、相手に此方が日本人と分かるように日本語で書いた手紙を見せようと思ったんだけどね」



「そうですね。それが1番分かると思います」



「転生者が5才位の男の子と言ったけど平仮名は読めると思う?」



「えっ?! それは……如何でしたっけ~私の時は読めたかな? あれ?」



 自分達の事を伝える大事な所で躓きそうになり思わずお互いの顔を見る2人であった 



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