第56話 共有



 女神と一緒に夢で飲み会をした翌日の朝。

 体も頭もスッキリとリフレッシュしているが、やるべき事の多さに考えを纏めるのにうんうん唸るシンヤ。



「ザンバーガが居るのがな……どう動くか」



 暫く考えて“電話板(擬き)”を取り出してアリュードに連絡を取った



『カイルド帝国の下に魔王幹部が封印されていたなんて……母上が亡くなったのも其奴が原因 何ですね』



「直接か間接か分からないが関わっているだろう。

 そして、体も復活している。完全復活して力を蓄えていたら、俺はあいつと戦うのに手一杯になる

 恐らく他に手を回す余裕は無いだろうね」



 結局、昨日 夢で女神と会った事にその時 話した内容を伝えるシンヤ。

 シンヤの強さを短時間でも見たことあるアリュードの息を飲む音が聞こえる。

 今度はユイナが



『その魔王の幹部が復活しているのなら何故そんな回りくどい事をしているのでしょうか?

 シンヤさんがこの時代に来ているのは、知られてないですよね』



「あいつの最優先事項は魔王の復活。確実に行う為に、隠れてするのが1番だろうな。

 そして人間同士の戦争を起こさせて疲弊しきった所で、魔王を復活させてあいつ自身は無傷でまた仕えるつもりだろうな」



電話板の向こうから “そうなんですね” とユイナの声が聞こえる



「それで、ユイナさんはアリュード殿下が[神聖魔法]を覚える為に、先程言った関連するスキル本を最優先で読んで身に付けてくれ

 薙刀の練習も合間でして欲しいが、スキルを優先して下さい。申し訳ないがお願いします」



『分かりました。頑張ります』



『俺も、もっと技術を磨き体を鍛えていきます

 シンヤさんが貸してくれた本も存分に使わせて貰います。

 それで……』



 言い淀むアリュード。少しの間を置いて



『[神聖魔法]と聖剣の両方が無いと魔王が倒せないのは分かっています

 この魔法は特殊で俺が身に付ける為にこれからユイナさんと一緒に過ごさないといけないんですよね?』



「そうだね。この魔法は魔王を倒せるぐらいに強力だ。

 その分、体に掛かる負担も強すぎて真面に戦えなくなってしまう

 だから、[学者]の人と負担を分ける事で戦える様になる。

 勿論、危険が及ぶ負担が掛かることは無くなる

 その為にスキルを〔譲渡〕するのではなく〔共有〕しないといけないから、常に一緒に居てお互い心から信頼して貰わないと駄目なんだ

 お互いに思う所はあると思うけどお願いします」



 アリュードは “俺は大丈夫ですが……” と言って静かになった。

 恐らくユイナを見ているんだろうなと考えるシンヤ



『……私は正直に魔王や幹部の話をされても、まだピンと来ていません。それに、魔物を少しずつ倒せる様になってもまだまだ恐怖は拭えません

 それ以外にもお城の騎士に襲われそうになったり 侯爵家の人の指示で攫われたりと、この世界に余り良い感情はありません』



 静かに聞くアリュードにシンヤ。アリュードの体が固くなるのを電話板越しに感じるシンヤ



『ですが、それ以外に良い人が居ることも分かっています。

 シンヤさんにヒカリさんにリリィさん、アリュード殿下も実はいい人ですし、ランドールにはお店の店長さんにリディーナさんやエヴィリーナさん等、沢山良い人が居ます

 だから、この世界の為よりもその良い人達のためになら出来ると思います

 シンヤさん アリュード殿下 宜しくお願いします』



 電話板から動く音が聞こえた。ユイナが頭を下げたのかアリュードの慌てた声で “頭を上げて下さい” と聞こえた



「ユイナさんありがとうございます。慌てなくて良いから落ち着いて確実に覚えて〔共有〕 出来るようになって欲しい」



『あの~ 1つ気になるんですが、ユイナちゃんが[学者]なの帝王や皇女達にばれてるなら幹部の魔族にもバレてますよね。それは、大丈夫ですか?』



 ヒカリの発言で同時に ““あっ?!”” と言うアリュードとユイナ



「それは、大丈夫だな。前の時もスキルは〔譲渡〕出来るのはバレてるが[神聖魔法]を使うのに必要な事はバレて無い。

 今後は分からないが注意していけば大丈夫だ

 俺は、これからリディーナさんと今後の動きを話したら一旦其方に帰る予定だ。

 また何かあったら連絡を頼む。此方からも連絡する」



 了承した返事が聞こえてシンヤは電話板の通信を終了した



「……彼女達には言わなかったが[学者]の件を大丈夫と言ったがザンバーガの事だ。

 アリュード殿下と一緒に居ると知ったら何かしら勘繰るかも知れん

 くれぐれも正体がばれない様に気を付け無いと。

 断定出来ない以上、彼女達を不安にさせるわけにもいかないからな……

 よし、リディーナさんに会いに行くかな」



 席を立ってリディーナの所に向かうシンヤであった



 一方、ヴァリアント砦のアリュード殿下達は



「ユイナさんいきなりこんな事になって色々と大変だとは思います。

 俺の方も出来る限りの事はさせて貰います

 これから宜しくお願いします」



「はい此方こそ宜しくお願いします、アリュード殿下。

 所で私の立ち位置はどうなりますか? これから一緒に居ないといけませんから」



 聞かれて顎に手を当てて考えるアリュード



「うーむ、取り敢えずは俺の囲っている取り巻きの女性の1人かな……」



「……それは、嫌な立ち位置ですね」



 アリュードの囲う女性の1人と言われて嫌悪感を露わにするユイナ。

 気持ち目が細くなってる気がする

 


「ああ、うん。嫌だよね、ごめんなさい。

 帝王達に俺は無能の女好きと思わせるだけでほんとに囲うつもりはないからね!

 彼女達も実際、俺の事は好きではないし俺も手は出してないから

 ここに来たときは俺に戦う力がまだ無かったからそうしたのであって、そこから便利だったから続けてただけです」



「分かってますから、大丈夫です。致し方ありませんから。ただ、思わず率直な気持ちを言ってしまいました。

 アリュード殿下、此方こそごめんなさい」



 段々、慌てて行くアリュードに頭を下げるユイナ



「そうか……良かった。まぁ、そうした方が側に居れるしスキルの修得にも繫がるからね

 決して手は出さないから安心して下さい。

 そうだ、彼女達で言えばシンヤさんは一瞬で見抜いていたな。」



「そう言えば、取り巻きの女性の皆さん本当はアリュード殿下の護衛の皆さん何ですよね

 全員で4名でそれぞれ冒険者でS~Aランクの実力の持ち主だとか……凄いです」



 頷くアリュード



「俺以上にトールベン達に鍛えられ気付いたら俺の護衛になってたよ。彼女達は……っと、話しはこれ位でもうすぐ朝食の時間だから運ばれて来るよ。

 食べたら早速スキル本お願いします、ユイナさん

 

 改めてこれから宜しくお願いします、ユイナさん ヒカリさん」



「はい宜しくお願いします、アリュード殿下」



「私は付き添いだけどお願いします、アリュード殿下」


 


 それぞれ頭を下げて挨拶する3人。同時に頭を上げると、扉の外から朝食を持って来たと声を掛けられたのである


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