まにまに吸血紀行

紫野一歩

序章 観光事情

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 近年、日本の観光地は随分と様変わりを見せている。

 多くは諸外国の発展の賜物、及び日本の体力の低下に原因があり、ここ二十年あまりではそれが更に顕著だ。有名な観光地になればなるほど外国人観光客は多くなり、今や国内旅行者よりも多くなっている場所もがほとんど。観光地で商売をする店はこぞって外国語を案内に取り入れ、多い所だと八ヵ国語対応の店もある。

 そんなグローバリズムの最先端をひた走る日本の観光地の数々だが、未だに旅行魔を客層として取り入れるのは苦労しているらしい。

 日本国内の旅行魔へのサービスを充実させ、外国人旅行者へのサービスを充実させ、次は外国人旅行魔へと目を向けるべきなのは、明らかなことだ。しかしそれが難しい。それは最近の動向にも表れている。

 中国から観光に来たキョンシーが自らの体が虫に食われないようにと『箪笥にドン』を爆買いしたニュースは記憶に新しいが、全てのキョンシーがそれを必要としているわけではなく、その後二ヵ月ほど秋葉原では大量に入荷した箪笥にドンが溢れかえった。最近だと、狼男向けのシェービングフォームが備え付けられていないホテルには満月の夜に苦情が発生したりもしている。この事からわかるようにまだまだ経験が足りない。

 それというのも旅行魔とされる方達は出不精で、他の観光客と違って日本へ旅行に来るようになったのは本当にごく最近の事なのだ。度々人知れず移住してそのまま暮らすケースはあったが、それは移住であって観光目的ではなかった。

 先の観光地グローバリズム化において成功した店に共通しているのは、いち早く市場動向を察知してその客層に対応するサービスを行っているところにある。

 旅行会社とのタイアップ、バイリンガルの育成、採用、食文化への精通と新商品の開発などなど。次に旅行魔向けへの対応を充実させるのは何処の地方か、何処の街か。

 観光産業の次の覇権は誰が握るのかは、外国人旅行魔が握っている。

                      週刊SATURDAY編集部

 ――――――

 とある居酒屋の店長は休憩時間中にそんな記事を見つけた。

 しかしその店長はアイドルと俳優のドロドロの三角関係が見たかっただけなので、そんな物は読まずに飛ばした。

 きっと週刊SATURDAYを買っている人の九割九分は同じ行動を取っている。

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