コンビ名は道化師

茅花

プロローグ 一回戦


「はいどーもー!」「はいどーもー!」

「ソーラーパワーでーす!」

「僕ら高校の同級生なんですけどね」

「凄まじい田舎に住んでましたね。僕は今では都会人ですけど、彼は地方公務員なんかやってまして」

「未だに人口よりも豚の方多いくらいですからね。猪と猿は毎日欠かさず出るんで警報も見なくなりましたんで」

「出て当たり前なんです、もう。もののけ姫の世界観なんですよ」

「もののけ姫と言えばカラオケのフリータイムで夜中3時過ぎると必ず歌う奴出てくるじゃないですか」

「はりつめた~つって」「こぎつねの~つって」

「待って!そんな歌詞ない!米良さんはそんなこと言わない!」

「え、そうでしたっけ?」

「まずこぎつね出てこないし。もののけ姫見たことある?」

「一日に二回は見てますよ」

「多いな」

「金ローでやる日は三回」

「めっちゃ見るじゃん。公務員て暇なの?マジで定時で帰んの?」

「もうやめて。いいじゃん、米良さん自体あんまり弄っちゃいけないんだから」

「すみませんでした。ねえこれ俺が悪いの?」

「半々くらいですかね」

「誰とですか。あ、答えなくていい」



 眩暈のするような歓声に倒れそうだった。一部が笑ってくれているだけに過ぎないのは解っているし緊張もあった。ただこの、高校の文化祭なんて比にならない人数のオーディエンス。遠い昔に一瞬だけ夢を見た舞台に立っている。

 高校時代、ハルはおとなしかったけれど人気者だった。口数の多い方ではないのに目立っていた。彼と話す相手がいつでも大笑いしているからだ。なんとなく目が離せないというか、近づいてみたい存在だったんだ。

 文化祭には漫才のオファーが何件も来ていたのを知っている。俺も誘ったことがある。晴は容姿もそれなりで爽やかで、だけど本人は人前に出ることを嫌がった。その代わり頼めば漫才やコントの台本を書くことは引き受けてくれた。

 その彼から素人の漫才大会に一緒に出てくれないかという誘いが来たのは先週、27歳になった翌日のことだ。

 彼が田舎に帰って公務員になったことはSNSで見て知っている。Lineにも友達として登録はされていたが連絡を取り合ったことは無かった。


「どうしたんだよ」

「久しぶりだな」


 彼からの返事もすぐに来た。


「久しぶり」

「笑わせたい人がいるんだ」

「遅くなったけど、誕生日おめでとう」

 笑わせたい相手が自分のことだと思ったわけではない。でもその瞬間、自分が笑顔になったのをはっきりと感じた。あの口角が引き上げられる感覚。


「そうか」


 やろう。

 俺もすぐに返信した。好きなひとでもできたのだろうか。そんなら、いっちょ協力してやろうじゃねえか。

 何よりも君から誘われたことが嬉しくて堪らなかった。自分が認められたような気になってしまったんだ。多分ずっと、昔からずっと、君のように面白くて良い奴になりたいと憧れていたから。

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