第三十三話 戦利品

 海を正面に据えて、オレとシュラは岸の上に並び立つ。


「結局、この島で得たモンはなにも無かったな……」


 魔力封印の札を見れたことぐらいだな。

 それ以外に大した収穫はない。


「そうでもないんじゃない?

 未来の騎士団長とギルドの総大将とパイプを作れたと考えれば、おつりが出るぐらいよ」


 おっと、シュラ的にはあまり悪い経験ではなかったみたいだ。すげぇ機嫌が良い。

 驚いた、てっきり『ほんっとうに無駄ね!』と怒られると思ってた。


「あともう一つ。

 これ、戦利品」


 シュラは膨らんだポケットから二つの珠を取り出した。


 片方は赤色の珠、強化の錬魔石。

 もう片方は緑色、形成の錬魔石だ。


「トロールの死体から赤の錬魔石が、オロボスの死体から緑の錬魔石が採れたわ。

 二個ともアンタにあげる」


「ん?

 いいのか? 倒したのはお前らだろ」


「みんなの総意よ。一番強い奴を撃退したのはアンタだからね。

 私は白の錬魔石以外興味ないし」


 オレはシュラより二個の錬魔石を受け取る。


「つーか錬魔石って魔物から採れるんだな。

 これを錬金術師に渡せば、魔成物ができるってわけか」

「そうね。帝下二十二都市――マザーパンクにも錬金術師は居るはずよ」


 なるほど、新しい武器……か。

 迷うなー、盾か剣か、弓とかも悪くない。


「アンタってさ、そこまで強くないわよね」


 シュラが後ろで手を組み、オレに背を向け、不思議そうな声でオレに尋ねる。



「いきなり酷いこと言いやがる」


「でも、アンタって妙に安心感があるのよね。

 頼り甲斐があるっていうか……」


「そりゃこっちの台詞だぞ。

 オレ、お前ら姉妹のことすげー頼りにしてるんだぜ。

 本当に、あの魔物の群れに襲われた時は助かった」


「案外、良いコンビかもね。私達」


「コンビじゃなくて、トリオだろ?

 アシュも居るんだし」


 シュラが溜息をついた。

 あれ? なんか変なこと言ったか?


「まぁいいわ。

 おやすみ、シール」


 なぜか呆れながらシュラは砂浜へ戻っていった。


「よくわかんねぇ奴だ」


 もう少しだけこの海の風景を記憶に焼き付けてから、オレもその場を去った。



---



 早朝、目が覚めると肌を焦がす陽光がオレを包んでいた。


「あちぃ……」


 オレは肌を焼く前に起床。背中をググッと伸ばし、砂浜を見渡す。

 他の奴らはそれぞれ好き勝手なところで眠っている。まぁ、カーズ、イグナシオ、フレデリカは眠ってると言うのか気絶していると言うのか。


 ふと、一人少ないことに気づく。


 アイツだ、あのボロボロの服を着たオッサンが居ない。

 確かアイツ、三人を歌で昏倒させた後、『見張りは僕に任せてねー』とか言ってずっと起きていたはずだが……。


「ん?」


 “シール君へ”と表に書かれた手紙がすぐそこの砂浜にある岩の上に置いてあった。

 オレは熱い砂を踏み、手紙を手に取り中身を確認する。



『ごめんねー、急用ができたから僕先に帰るよ~。

 船も乗ってっちゃうから自力で船は作ってね』



「はぁ!?」



『島の後処理とかは適当にボチボチやっとくから、君たちは気にせず旅を続けるといい。

 そうそう、なにか困ったことがあったら〈マザーパンク〉に居る“”って騎士を頼ってね。

 彼も僕と同じ騎士団の大隊長で、すごーく頼りになるからさ!

 じゃ、次会ったら僕のとっておきの歌を――』


 オレはそこまで読んで手紙を破いた。

 “パール”……。


――『羨ましい限りだ。

 励めよ、少年』


 あの牢屋で、爺さんを訪ねた四人の内、一人がそんな名前だったような気がする。

 同一人物か? 確かアイツも騎士の恰好をしていたな。


 つーか船!

 あの野郎――急用なら急用でオレらも連れて行けばいいだろ! そんで適当な場所に降ろしてくれればいいだろうが!


「……次会ったらぶん殴ろう」


 オレは静かに決意し、他の奴らを起こす。



 ――――――――――

【あとがき】

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