第二十二話 新たな封印術

 五角形の字印が書かれた札。

 あの札に触れた時、魔力が乱れた。


――魔力封印。


 封印術に必要な条件は “相手の名前を知っていること”、“字印を相手に付けること”、“相手の魔力が自分より低いこと”。


 だがこれらの条件はあくまで一生物、一物体を丸ごと封じる際に必要なもの。

 ならば、対象を細かく分割したらどうだ?


 あるいは魂、

 あるいは肉体、

 あるいは魔力、


 対象を絞れば、その分封印に必要な条件は少なくなるのではないのか。

 オレは無条件で魔力を乱された。恐らく、魔力封印に必要な条件はゼロだ。一つ挙げるなら五角形の字印に相手を触れさせなければいけないってとこか。あぁ、あとあれか。字印を付けられるのは魔力を孕まない物に限るだろう。


 お手本はある。

 対象の魔力を支配し、封じる。通常の封印術と違うのは込める魔力の比率だ。

 封印術は相手に黄魔を込めて発動する術だ。だが、実際には黄魔以外にも込める魔力はある。それは青、操作の魔力。


 操作の魔力は魔力を操る魔力だ。この魔力封印は相手の魔力を操作(吸収)し、それを黄魔で封じ込める。理屈はこうだろう。


 ならば通常の封印術より青の魔力の比率を増やす。割合的には半々でいいだろう。

 五角形の字印、それをその辺の石ころに筆で描く。そんで右手から黄魔、左手から青魔を流し込む。


 一度目、失敗。失敗すると字印が消えてしまう。比率を青・黄で6・4に調整。

 二度目、失敗。今度は青・黄で4・6。

 三度目、成功。字印が赤く光った。しかし触ってみると微量な魔力しか吸い取られない。これでは戦力にはならない。


 魔力循環のイメージが悪いのか。いつもは相手の全身を魔力の糸で縛り上げるイメージで行っていたが、全身じゃなくていいのか。


 字印から中が空洞な魔力の糸を伸ばす。糸の先端は針にする。針で相手を突き刺し、魔力を吸引、空洞の魔力の糸から字印に流し込む。


――よし、このイメージでいこう。


 石に五角形の字印を書き込み、集中。


 糸――針――吸引――封印。


 字印が赤く光った。試しに印に触ってみると、魔力が先ほどとは比べ物にならない速度で吸引された。


 大成功。ここまで15分。


「イグナシオ、カーズ。お前らの武器を貸してくれ」


 海の方を見張っていたイグナシオとカーズは不思議に思いながらも抜身のレイピアと長槍を預けてくれた。


 オレはレイピアと長槍の刀身に五角形の字印を付けて返却した。レイピアの刀身は細身だったため、手元が狂って二、三度失敗した。


 イグナシオとカーズは自身の武器に付いた字印を見て首を傾げる。


「大将。コイツは一体なんだ?」


「魔力を封印する字印だ。

 その字印を相手に押し付けると相手から魔力を抜き取り、武器に封印する。

 通常なら魔力で弾かれるような攻撃でも、字印これが付いてれば相手の魔力を削ってダメージを通す。魔力の使えないお前らでも奴らに傷を付けることが可能だ」


「す、すごいですね……!」

「ほー! コイツはすげぇ!

 これなら、俺たちも参加していいだろ? ねえさん」


 見張りに出ていたシュラ、フレデリカが岩陰に戻ってくる。


「ま、それなら戦力に数えてあげてもいいわ。

 赤髪、青髪、緑髪はトリオで動きなさい。それでようやく一人前の戦力ね」


 オレ、

 アシュラ姉妹、

 カーズ、

 イグナシオ、

 フレデリカ。


 魔術師は実質三人、非魔術師二人。

 非魔術師の方には魔力封印の武器……ようやく小隊として悪くない位置まで来たかな。


「よし、なんとかこれで戦力は整ったな……」


 オレが腰を上げようとした、その時、


 ズドン。と大地が揺れた。

 地震かと疑った途端のことだった。



――太陽の光が遮断された。



 オレたちが居る岩場……いや砂浜全体を覆う影。人影。

 オレは上を見て、絶句する。



 緑の巨人が、大の字になって飛び込んできていた。



「おいおいおいっ!?」


 大の字ダイブ。避けられない規模の攻撃。

 だが奴の巨体がオレ達を潰すことはなかった。


――小さな体が巨人の腹を蹴り飛ばしたからだ。


「見下ろすなと言ったはずよ!」


 森を潰し、背中から倒れる髭巨人トロール

 オレたちは岩陰より外に出る。

 岩の上にシュラが着地する。その小さな背中は物凄く頼もしかった。


「ここは引き受けた。アンタはあの骨の奴を殺すなり封印するなりしなさいっ!」


「善処はするさ。

――行くぞ!」


「おう!」「了解です!」「はい!」


 獅鉄槍、ルッタが入った札。

 魔力封印の小石十数個。

 あとは……切り札を二つ。


 オレは必要な物だけ持ち、残りは巾着バッグに入れて岩陰に置いて行く。

 オレ達が飛び出るとシュラは右腕を振るい、紅き魔力を立ち昇らせた。



 ---



 髭巨人トロールを避けながら森へ侵入。集落を目指す。


 襲い掛かる雑魚魔物たち。オレは素手で奴らを払いつつ前に進む。

 森を大きく迂回していると、花畑のある場所に出た。

 多種多様な色の花が咲く場所。そこに、アレは居た。


 全身から人間の腕を生やした人魔もどき――悪魔馬オロボス


「【お、オオオ。ひ、さしぶり……】」


 門番のように、奴は存在する。

 オレが札を指に挟むと、カーズが腕で制止した。


「行けよ大将。

 コイツらは俺らの担当だ」


「四人でコイツ倒して、そのまま四人で本丸に行った方がいいだろう」


 オレが言うと、フレデリカが否定する。


「いえ、屍帝を野放しにするのは危険です。

 この魔物を倒しても、先ほどの巨人を倒しても、屍帝が来てしまえば屍を使役され、振出しに戻る可能性があります」


「……なるほど。

 アイツは誰かが足止めしてねぇと、他がバンバン復活しちまうわけか。

 了解した」


 オレは札をズボンのポケットにしまう。


「あばよ、大将!

 この戦いが終わったら島でキャンプファイアーだ!」


「まったくアナタは……緊張感のない。

 でも、悪くありませんね!」


 抜刀するカーズとイグナシオ。

 オレは三人を置いて走り出す。



「奴は風の魔術を使う!

 気を付けろよ!」



 花畑を抜けて、集落へ向かう。悪魔馬(オロボス)はオレを邪魔することなく、視線すら向けなかった。

 あとはまっすぐ進むだけ。


 集落まで走って20分ってところか。

 屍帝“レイズ=ロウ=アンプルール”……。

 爺さんが封印し、恐らくは爺さんの死を起因に復活した。


 全盛期では封印術師二人掛かりでようやく封印できた怪物――


 こんな時、怯え、震え、縮こまるのが普通の人間だ。

 なのにどうした、フレデリカを助けに集落へ飛び込んで以来――胸のざわめきを止められない。


 こんな状況を、こんな展開を、楽しんでしまっている自分が居る。



 ――――――――――

【あとがき】

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