第十話 生物封印
オレは短剣が抜けた空札(中身の入っていない札)を捨て、短剣を順手で構えた。
「札から短剣が――」
解封に驚く茶髪女子、だが手を止める気はないようだ。
オレは短剣で杖の縦斬りを受け止めた。
「ぬおっ!?」
踏ん張った足から衝撃が地面に伝わり、大きな亀裂が地に走る。
短剣を振り、茶髪女子を弾き飛ばす。
一歩、二歩と距離を取りながらオレは茶髪女子の持つ杖を観察する。
「杖の先っちょに黒の錬魔石……あの杖、魔成物か」
黒の錬磨石を付けてるってことは、黒の魔力を使うということ。
黒魔術師か。破壊の魔力……警戒しなくちゃな。
相手はまだ全然本気じゃないだろう。
さっきの一撃は一般人に向けたモノ。オレが魔術師とわかった彼女は次は加減なしでくる。
次の攻撃は最初から魔術師相手の力加減、つまり本気でくるはずだ。
「アンタ、魔術師なのね。しかも奇妙な術を使う。加減はいらなそうね……!」
茶髪女子の発した赤い魔力が鼻を掠める。
おかしいだろ、異常だ。オレの赤魔の量を遥かに凌駕してやがる。アイツが凄いのか、オレが雑魚なのかはわからない。
まともにやりあったら勝てる相手じゃ無いな……ならば、
「待てよ。名前ぐらい名乗ったらどうだ?
戦士の一騎討ちに名乗りは必須だろう」
「戦士ぃ?
生憎だけど、私はアンタを戦士とは認めないわ」
「じゃあこういうのはどうだ?
オレがお前に一発入れたら、オレを戦士として認めてくれるってのは」
「ふん。いいわよ……やれるもんならねっ!」
背を低くして杖を腰に当てながら茶髪女子は接近してくる。
「杖ってあんな使い方する武器だったっけ?」
杖って振りかざしているイメージしかなかった。
バリバリ接近戦で使う奴いるんだな。
「面白い……」
自然と笑みがこぼれる。
魔術師との初めての戦闘、英雄譚の中に居るようで心が躍る。
赤い魔力を掌・上腕・肩に集中。
武器のさし合いでオレに勝ち目はない。とことん虚を衝いて狡猾に勝つ。
オレは手元の短剣を接近する茶髪女子目掛けて投げた。茶髪女子は足を緩め、杖で短剣を弾く。タイミング同じくしてオレは右拳を握って殴りかかった。
「そらよ!」
避けるか、防御か。カウンターを狙える態勢ではない。
ガードの姿勢を作っていた茶髪女子の選択は至極当然、防御だった。
オレの拳が杖にヒットする。
茶髪女子は防御が成功し、笑みを浮かべる。
「残念、その程度じゃ私に一発入れるのは無理ね!」
「残念なのはそっちだ。元より、オレの狙いはその杖なんだよ」
オレは黄色の魔力を杖に打ち込む。
「“
杖に字印が浮かび上がる。
茶髪女子はなにか異変を感じたのか、大きく飛び退いた。
予定通り。
杖には黒色の錬魔石が埋め込まれていた。つまりあの杖は魔力を孕んでいるということ。
魔力を孕んでいれば封印できる。
「この刻印は……!」
過った疑問を解決することなく茶髪女子は一息で距離を詰め、杖を振るった。
なにかをされる前にオレを昏倒させる気だ。
「“
グン。と茶髪女子の肩が落ちる。
「ッ!!?」
手元にあったはずの杖が無くなり、杖に込めた力が行き場を無くしたのだ。
彼女の杖はオレの左手に持ってある札に
オレは右拳を握り、
「もいっちょ“
隙を見せた茶髪女子の腹を殴り飛ばす。拳は茶髪女子のシャツを貫通し、生肌を突いた。
ギン! と魔力が弾ける音が鳴る。
拳が痛い……腹筋に赤魔を集中させやがったな。
だがちゃんと、茶髪女子の腹には字印が付いている。相手は気づいてないようだが。
どうやらオレの総魔力量が彼女の総魔力量を上回っていたようだ。赤い魔力に限れば相手の圧勝だが全ての魔力の総合ならオレの方が上ってことだな。
「私の杖、どこにやったの?」
ひどく、落ち着いた瞳で彼女は聞いてくる。
一切の隙の無い、脱力した構えをしていやがる。
「その前に約束したはずだ。一撃入ったらオレを戦士として認めると。
名前教えてくれ。杖の居場所はそれと交換だ」
「決闘の礼儀を重んじるタイプね。
嫌いじゃないわ」
茶髪女子は腕を組み、口を開く。
「シュラ=サリバンよ。杖の前にアンタの名前も聞いてあげる」
「シール=ゼッタだ」
「……
彼女が一瞬、驚いたような顔をした。
――好機。
オレは空札を手に取り、右手で筆を持って彼女の名を札に書き込む。
茶髪女子に打ち込んだ字印には識別文字が書いてあり、オレの手元の札にも対応した文字が魔法陣の内側に書いてある。オレの手元の札と彼女に付いた字印は紐づいている状態だ。
この状態で札に名を書き込み、札が青く光ったのなら……封印の準備が完了したということ。
――札は、青く光った。
「正直者だな……」
もし、彼女が偽名を名乗っていたなら獅鉄槍を中心に作戦を練り直さないといけなかったが、無駄な心配だったな。
「相談なんだが、この辺でおひらきといかないか? 杖は無条件で返すからさ」
「冗談。ここまで体が熱くなってるのに退けるわけないでしょ」
拳同士を当て、彼女は楽しそうに笑った。
「杖は後でいいわよ。
アンタの全身の骨をズタズタにした後でね!」
おやおや、もしや戦闘狂ってやつか。
止まってくれそうには無さそうだ。
「仕方ねぇ、なら実験台になってもらうぜ。初の生物封印だ」
「はぁ?」
オレは彼女の名と魔法陣が書き込まれた札を掲げる。
「――“
「いっ!!!?」
札から渦が生み出され、彼女を飲み込もうと襲い掛かる。
「ちょ、なによコレ!?
吸い込まれ――」
あれ? なんか様子がおかしい。
赤い稲妻が渦に発生している。しかもなんだ、茶髪女子に重なるようにさっき路地裏で見た金髪女子の姿が見える。
――失敗?
失敗したらどうなるんだ。
取り返しのつかないことにはならないか!?
「やべ、どうやったら中止できるんだコレ!!?」
――
「抗え、……ない!」
札を破こうと左手を伸ばした瞬間、茶髪女子は札に飲み込まれた。札に書いた魔法陣が赤く光る。
成功……なのだろうか。
パサ。となにかがすぐ目の前の地面に落ちた。視線をやると、そこにあったのは女物の無地の白パンツと茶髪女子が着ていた服一式だった。
「服?
――あ!」
封印できるのは魔力を孕んだ物体のみ。
恐らく服は魔力が通っていないため、封印から弾かれたのだろう――
「え、ってことはつまり……」
彼女は真っ裸で札に入ったってことだ。この札を解封すれば、きっと裸の彼女がでてくる。
誤算、いや想定できた事態のはずだ。自分の思慮の浅さが恐ろしい。
気づいたら、酒屋の入り口の方に人が集まっていた。
どうやら今の戦いの音を聞いて今しがた酒屋から出てきたようだ。
オレは周囲の荒くれ者共の視線を集めながら、とりあえず女子の服を拾って鞄に入れた。服にはまだ生暖かい感触が残っている。その感触が、気色の悪い罪悪感をオレの心に生み出した。
周囲の視線は完全にオレのことを女物の服をかき集める変態として見ていた。
さて、意図せずして女子を裸に剥いてしまったわけだが……どうしたものか。
爺さん、オレの冒険は前途多難だよ。
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
小説家になろうでも連載中です!
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