第二話 七つの魔力
勉強は嫌いじゃ無かった。新しい知識を得ると言うのは楽しいものだ。
それに爺さんから学ぶ“魔術学”の内容は面白かった。
爺さんはまず、オレに魔力という力について説明した。
魔力には七つの色がある。
赤、青、緑、黒、白、黄、虹。
この内、赤・青・緑の魔力は全ての人類に流れている。これを《
そして他の黒・白・黄・虹。この内一つがランダムに一個人に与えられる。これを《
つまり、《主源》の三色+《副源》一色で合計四色の魔力が人間には流れているらしい。
魔力は色ごとに特性がある。
赤……強化の魔力。
モノを強化する魔力だ。赤の魔力を流せば物の強度を上げたり、自分の身体強化をすることが可能。
緑……形成の魔力。
モノを形成する魔力だ。緑の魔力から炎や水、もしくは鉄や鋼のような物質・物体を作ることができる。
青……操作の魔力。
魔力を動かす魔力と言ったところか。赤の魔力を強化したい箇所に誘導したり、緑の魔力で作成した物質を噴出させたり停滞させたりするのがこの魔力だ。
青の魔力を器用に動かせれば動かせるほど魔術の幅は広がる。
ある意味、最も大切な魔力かもしれない。この魔力が尽きればどんな魔力も操作することが不可能になる。
《主源三色》のなにを伸ばすかによって魔術師の役割も変わる。
赤を伸ばせば身体能力でゴリ押しする戦士タイプ、緑を伸ばせば後方で魔術を飛ばしまくる魔術師タイプ、赤と緑の両方を極めればどちらもこなせる万能型になる。ただ基本的には赤と緑の両方を高めるのは効率の無駄と言われており、どっちか一つを選んで学習し、平行して青の魔力の使い方も学ぶ……というのがポピュラーな理論らしい。
ただここまでだと魔術師それぞれに個性が無い。
魔術師の個性、それを決めるのが《副源四色》だ。
黒……破壊の魔力。
その名の通り触れた物質を破壊する魔力だ。魔術に纏えば破壊力を強化でき、剣に纏えば切れ味を増加させる。赤の魔力に似ているが赤の魔力と違って肉体強化や物体強化はできない。
肉体に活性化させた黒の魔力を循環させると体が崩壊するためである。これは武具も同様で、オーラのように纏えば問題ないが剣そのものに流したりすると剣が壊れる。扱いが難しい魔力である。
白……再生の魔力。
肉体や物の修繕に使うことができる。傷口に白の魔力を灯せば傷は癒え、壊れた物に灯せば物を治すことができる。治癒術は白の魔力でしか
黄……支配の魔力。
対象の脳や魂、
虹……自由の魔力。
他の六色で分類できない魔力が総じて虹色をしている。
基本的に黒と白の人数が多く理論も確立されていて扱いやすいらしい。黒の魔力を扱う魔術師を《黒魔術師》、白の魔力を操る魔術師を《白魔術師》と呼んでいるそうだ。
黄と虹の二色は特に呼称はなし。個体数が少ないゆえんだろう。まぁ《黄魔術師》とか《虹魔術師》ってなんか語感悪いしなぁ。
「オレの《副源四色》は何色なんだろうな……」
ポツリと呟く。
「黄色だ」
渋い声が即答する。
爺さんはしわくちゃな肌に反して瑞々しい白銀の瞳でジッとオレを見ていた。
「わかるのか?」
「少々特殊な眼を持っている」
青の右眼と銀の左眼、どっちが“特殊な眼”なんだろうか。どっちもか?
「黄色は《支配の魔力》だったかな?」
「封印術師は《支配の魔力》を持っていなければ扱えん。君は運が良い」
支配……封印ってのは相手を壺とか札に封じ込めるイメージだ。
見方によっちゃ支配とも呼べるのか。相手の体を支配し、束縛し、閉じ込めるわけだからな。
「そんじゃ資格があるのも確認したし、早速封印術を教えてくれよ」
「その前に《主源三色》だ。
《主源三色》で魔力の輪郭を掴み、《副源》の修行に入る。これが魔術師の基本パターン……」
ってことでオレは強化の魔力、
同時に操作の魔力
赤魔は強化の魔力、核は心臓。心臓に赤い魔力を生み出すエネルギー源が存在するとのことだ。
心臓からパワーを血管を通して四肢に移していくイメージ。
青魔は操作の魔力、核は脳。
脳からパワーを(以下略)。
脳から流した青の魔力を、心臓から流した赤の魔力と接続し、混ぜ混ぜして全身に移していく。
イメージは掴めた。余裕余裕――
「無理です」
オレは言われた通りに実践し、早々に諦めた。
いやだって、魔力なんて今まで扱ったことないし、パワーの移し方なんてまーったくわからん。
「どうしてできないのか、おしえてくだせぇ師匠」
「センスが……無いから、だな」
「アンタ、本当にオレに教える気あるのか」
説明が下手な爺さんだ。
多分、コイツ今まで弟子とか取ったことないんだろうな。
世界で唯一の封印術師って言ってたし。
「てか本当にあるのかよ、赤の魔力とか。爺さんの与太話じゃないだろうな?」
爺さんは無言で立ち上がり、その細い腕を振り上げた。
「ふんっ!」
爺さんが石の地面に拳を打ち付けるとマー大変、地面にヒビが入りましたとさ。
こんなよぼよぼの爺さんが監獄の労働について行けるか心配だったが、問題は無さそうだ。
「私は8歳の時に岩石を砕いた。君と同じ歳の頃には拳で海を割ったものだ」
「はい! 確実に誇張した! ジジババはすーぐそうやって自分の武勇伝をねつ造する」
爺さんはキョトン、とした顔でオレを見ていた。なにを仰っているかわかりません、って顔だ。
え? 冗談だろ? 本当に海を割ったの? 嘘だよね?
「やれば、できる」
馬鹿みたいな言葉を吐き、お師匠様は腕を組んだ。
はいはい、やればいいんだろやれば。
---
「テメェ、シール! いまなんつった!?」
「だから、囚人の親玉の座を賭けて、オレと勝負しろって言ったんだ」
この監獄では囚人は大浴場で同時に風呂に入る。
オレは今、タオル一つを装備して身長2m、体重150キロの囚人のガキ大将と向き合っていた。
囚人大将ブタマルはオレを睨み、仁王立ちする。
「オレが勝ったら、オレの部屋が任された労働はお前らに肩代わりしてもらう」
「ふんっ! 嫌だね。この勝負にオレが乗る理由はない!」
「お前が勝ったら、昼飯のデザートを毎日献上しよう」
「のったっ!!!」
勝負のルールを決める前にブタマルは地面を蹴った。
油じみた巨体が迫る。振り上げられる岩石のような拳。
これを受けたら以前のオレなら一発ノックアウトだっただろう。
ゴンッ!!! と骨が砕ける音が鳴る。
オレの額とブタマルの拳が激突した。
「うぎゃぁ!!?」
ブタマルは右こぶしを左手で押さえ、風呂場の石床を転げ回った。
「よし、うまくコントロールできてるな」
赤い魔力を一か所――頭に集中させ、ブタマルの拳を迎え撃った。
オレの頭にダメージは無いが、首から下にほんの少し衝撃が伝わった。一か所に魔力を集中させるのはいいが、他の部位もある程度の魔力で覆わないと衝撃が伝わってしまうか。
「次は……」
床に膝をつき、ギッと睨むブタマル。
ブタマルは怒号を上げ、猪の如く突進してきた。
オレは足元の木の風呂桶を蹴り上げ、右手でキャッチし、赤魔を風呂桶に流す。
――物体の強化。
オレは風呂桶をブタマルに投げる。
木の桶なら軽く払われて終わりだ。当たっても大したダメージにならない。だが鋼鉄の硬度を持つ桶ならどうだ?
「ぐげぇ!!!?」
こうなる。
ブタマルは桶を顔面で受けようとして、鼻を砕かれた。そのまま消沈。
どうやら勝負はオレの勝ちのようだ。
オレは騒ぐ囚人たちの間を縫い、一人湯船からお湯を掬って体を流す老人に近づく。
「背中流してやろうか?」
「いらん。それより、赤魔を使いこなせるようになったようだな」
「ああ。もう完璧だ。一週間かかったけども」
「ならば、明日から本格的に封印術の修行に入るぞ」
オレと爺さんは湯船に入り、横に並んで座った。
「なぁ爺さん。爺さんは誰に罪をなすりつけられたんだ?」
「なすりつけられた? なぜそう思う?」
「だって、アンタは罪を犯すような人間じゃねぇだろ。
オレは生まれた時からこの街の裏側に住んでたからな。屑の臭いはわかるんだよ」
爺さんは思いつめたような顔をする。
「その鼻は信用できないな。なぜなら私は、屑なのだから」
「屑だと自覚できてるならモノホンの屑ではないな」
温い湯が全身の肌を駆け巡る。
お湯は熱い方が好みだ。この監獄の湯は甘すぎる。
「温いな……」
「同感だ」
爺さんのボヤキにオレは頷く。
爺さんが来てから一週間が経ち、オレは赤い魔力と青の魔力を扱えるようになった。この一週間と言う期間が短いのか長いのかはよくわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます