第4話 囁くような叫び

 ICU(集中治療室)からは出たものの、まだ意識の戻らない秀一はICUにほど近い病室に移された。


(全部私のせいだ……私にもっと勇気があったら……)


 奈々の心を埋めていく後悔の念。奈々は秀一の両親に、これまでの出来事をすべてを打ち明けた。自分が秀一に助けてもらったこと、そして秀一へのイジメを見て見ぬ振りしてしまったことも。

 それでも秀一の両親は奈々を抱き締めた。


「あなたもつらかったね。秀一を救ってくれてありがとう」


 どれだけ罵倒されようがおかしくない中で、秀一の両親は慈愛の心で奈々の告白を受け入れてくれたのだ。

 その暖かい言葉に、奈々は涙が止まらなかった。


 秀一の両親に病室への入室を許可してもらった奈々。

 両親と一緒に病室に入ると、ベッドに秀一がいた。

 酸素マスクをつけ、色々な機械につながれている。

 ベッド脇に椅子を置いて腰掛けた奈々。


 自分を救ってくれた秀一。

 自分が見殺しにした秀一。

 奈々は目を覚まさない秀一の手を握る。

 そして、優しく呼び掛け続けた。


「江口くん」


 秀一は何の反応もしない。


「江口くん」


 目をつむったままの秀一。


「江口くん」


 でも、いつか答えてくれるんじゃないか。


「江口くん」


 『佐倉さん、どうしたの』と優しい笑顔を見せてくれるんじゃないか。


「江口くん」


 その時だった――


 奈々の手を弱々しくも握り返した秀一。

 ハッとして、奈々は秀一の顔を見た。

 薄く目が開いている。


「江口くん……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「……佐倉さん……泣かないで……大丈夫だよ……僕が守るよ……」


 酸素マスク越しの秀一の声。こんな状態であっても、秀一は恨みつらみを口にせず、真っ先に奈々を思いやった。

 奈々はそんな秀一の優しさに包まれながら、そのまま秀一の手を握りしめ、声を殺して涙を流し続ける。

 秀一は、奈々を見つめながら、優しい微笑みを浮かべていた。



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