第11話 向かうべき場所
「お帰り、アレイスター」
「……ただいま」
冒険者の免許を手に入れてゲーテ村に戻ってきたら、真っ先にサラが迎えに来てくれた。なんか……結婚したら毎日こんな感じなのかなって思うと、それも悪くない気がしてきたんだけど、もしかして俺はサラに影響されているのだろうか。まぁ、別にされても悪いものではないんだけれども。
「ジオニクスはどうだった?」
「どうだったって言われてもな……まぁ、よくある地方の町って感じだったな」
「よくある地方の町って言われても、私はこの村から出たことないからわからないのよ」
「それもそうか」
俺は騎士として帝国内を走り回っていた時期があるからそれなりに大きい町はいくつも回ってきたけど、村に住んでいる人は生涯町に出ないことの方が多いよな。でもなぁ……別になにか話すような特別なことが町の中で起きていた訳でもないし、かと言って俺が変な女に絡まれたことなんて話したところでなんにも面白くないんだから喋ってもしょうがないし。
「お疲れ様です」
「キマリス、私は邪魔しないでって言ったよね?」
「ひぇ……すいません」
俺に挨拶に来てくれたキマリスは、サラに威嚇されてすぐさま逃げ出していった。あいつ……いつの間にか完全にサラの舎弟みたいになってるよな。サラだって昔はもっとお淑やかな性格だった気が……いや、そんなことないわ。昔からこんな感じだった気がするわ。
「それで、これからどうするの?」
「まぁ……ちょっと狩りについていくかな。畑仕事だって年がら年中やることがある訳じゃないしな」
「ふーん……ねぇ、もしかして町の方で女と会った?」
「そりゃあ、女ぐらいいるだろ……町だし」
「知り合いの女がって話なんだけど」
そんなに独占欲強いの? 別に俺はあんまり気にしないけど……あんまり束縛強いと嫌われるよ?
サラに詰め寄られている訳だけど……シトリーは別に知り合いの女って訳じゃないから、会ってないって答えるのが正解だな。俺の過去を知っている人間ではあったけども、別に俺の知り合いではないから……嘘は言ってない。
「……やっぱり、早く結婚しよう? なんかアレイスターの周りって女の気配多い気がするから」
「そんな馬鹿な。騎士団にいた時だって殆ど女性とは関わってこなかったぞ」
「じゃあ1人ずつの関係が濃いのね」
そうかな? 俺が騎士団にいた時に関わった女性なんて……同期のシルビア以外は後輩と偉そうな派手女だけだぞ。
「まぁ、関係を持った人は今まで誰もいないなら許すけど……正妻は私ね」
「正妻? ちょっと待って、複数人前提なの?」
「え? だって別に複数人娶っちゃ駄目なんて法律ないじゃない」
そうだけども。
「それ以前に、俺は複数人の女性を養っていくような甲斐性ないぞ?」
「そんなことないと思うけど……まぁ、またその時は相談すればいいわ」
うーん……まぁ、それでいい……のか?
村長に冒険者の免許を取れたことだけを伝えて、畑の方に顔を出す。まだ植え替えたばかりだから苗から少しだけ成長しただけだが、既に雑草が少しだけ生えてきているし、野菜を食べるような虫は既に出てきているからそういうものも対処していかないと。
「……ん?」
目についた雑草を抜きながら畑を歩いていると、少し離れたところに足跡があるのを見つけた。大きさ的に普通の獣ではなく……魔獣だと思う。だが、ジオトラス子爵が言っていた宵闇の屍が持ち込んだ大型の魔獣ではなく、恐らくは自然発生の小型の魔獣だ。しかし……ここ数年で魔獣による人的な被害が増えているとは言われていたが……まさかこんな辺境の村の近くにまで魔獣が出てくるとは。
魔獣は普通の動物と違って人間を見るだけで襲い掛かってくる獰猛さが問題視されるのだが、実は魔獣がどうやって発生して成長しているのかは何も判明していなかったりするのだ。つまり、帝国がやっている冒険者と騎士を動かしての魔獣退治はあくまでも対処療法。根本的な解決にはなっていない。
「仕方ない……なんとかするか」
中型以上の魔獣には通用しないが、小型の魔獣までなら濃い魔力をばら撒くことで近づけさせないことができる。勿論、それだけで完全に小型魔獣が一切やってこないということはないけれど、目に見えて効果は出るのでやっておこう。後で村長には報告しておくし、見かけたら積極的に狩ろう。解体もできるようになったしな。
「アレイスター!」
「まだ、何か用か?」
「この村の近くまで貴族さんが来てるみたいなの。こっちに向かってるわけじゃないみたいだけど、念のためにアレイスターに助けて欲しいって」
「ジオトラス子爵……いや、シトリーか」
そう言えば、自分だけで宵闇の屍を片づけるって息まいていたな。ただ、村の人間ですら気が付くような移動に、手練れの盗賊団が気が付かない訳がない。恐らく……このまま放置していたら、シトリーが死ぬかもしれない。
俺には関係のない人間だと、突き放してしまうことは簡単だが……一度でも顔を合わせた人間が死ぬなんて話はあんまり気分がいいものではない。しかし、俺は既に騎士を追放された身で、相手が盗賊団とはいえこちらから攻撃して相手を殺せば、それなりに問題になるかもしれない。
「……宵闇の屍って指名手配されてたか?」
「え?」
「村長に指名手配書を全部見せるように頼んできてくれ」
「う、うん!」
たとえ犯罪者であろうとも、一般人がなんの理由もなく殺すことは下手すると過剰防衛になる可能性がある。しかし……宵闇の屍が指名手配されているのならば、俺が殺しても何の問題も起きない。そういう抜け道ではないけど、方法は確かにある。
しばらく待っていると、サラが大量の紙束を手に戻ってきた。恐らく、村長が持っていた帝国から配られている指名手配書だろう。
「はい!」
「助かる。さて」
指名手配書をパラパラと捲りながら確認していく。宵闇の屍は頭領の顔も知られていない組織なので似顔絵による指名手配書は全部別人だ。勢いよく捲っていくと……獣の頭蓋が大きく書かれた手配書を見つけた。
「これが宵闇の屍の指名手配書だ。生死を問わず……これなら、俺が助けに入ることはできるな」
「助けに行くの?」
まぁ、確かに俺がわざわざ助けに行く義理なんてないかもしれない。俺が助けに行かなくても、シトリーが自分で解決できてしまうかもしれない。でも……だからって動かないってのも気分が悪いんだ。
「悪いけど、村長には忙しいから行けないって言っておいてくれ」
「ちょ、ちょっと!?」
魔剣アルマデルを手に取って、俺は村の外に向かって駆けだした。
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