第8話 特訓二日目

 次の日の朝、昨夜遅くに返ってきたラオさんが、みんなに向かって今の状況を放してくれた。

「昨日送った偵察部隊によると、ティタノベアはこの村の北側30㎞あたりからゆっくり近づいているそうだ。この村に到着するのは明日の午後だと思う」

 明日の午後ってことは、魔法の訓練ができるのは今日が最後になりそうだ。何としてでも強化する魔法を習得しなければいけない。

「昨日の会合では、ティタノベアを直接対峙するのではなく、空からやつを誘って進路を逸らすのがいいという話になった」

 鼻が利く可能性があるから、明日は一日料理してはいけないらしい。保存食は倉庫に入れ戸をしっかりと閉めておくように。と言って、ラオさんは再び村の会合に出かけて行った。

 作戦が上手くいけば、俺の出番はないまま終わるかもしれない。それに越したことはないが、うまくいかなかったときの作戦は用意されているんだろうか。


 今日は村の一大事ということで、リラさんもライも家の中で保存食の移動を行うということだったので、僕らは村の端にある人気の少ない廃屋で訓練をすることにした。

「今日は昨日の続きから?」

 先ほどベガの背中に乗せてもらったミラは、ベガと道中いろいろな話をしていた。そのおかげか、ついたころにはすっかりベガに心を開いていた。

「はい、夜の間に魔力も回復したはずなので、また木の枝を強化するところから始めましょう」

 そういって始めてみたものの、昨日と同じで一向にできる気配がない。見かねたベガが、また授業をしてくれることになった。


「いいですか、物を強化するためには、単に魔力を流すのではなく、魔力をとどまらせてあげることが大切なんです」

 とどまらせる。自分の手のひらに魔力をためながら考える。今も手に魔力をとどまらせてるってことなんだよな。ってことは、この木の枝が体の一部だって思い込んでみればいいんじゃないか?

 試しに枝を手に取り、それが手の一部たと自分に言い聞かせながら魔力を移動させていく。すると、一瞬大きく光った枝の光は今までよりもずっと長く残っていた。

 言葉では説明できないが、何かをつかんだ気がする。

 それから訓練を続けていくと、1時間以上強化を持続できるようになった。俺の足元には強化された枝がいくつも転がっている。その一本を拾って折り曲げようとしてみると、鉄のように固くなっているのがわかった。

 正午を超えたあたりからミラはベガのそばで寝てしまった。その様子を見ながらベガが指示を出してくる。

「バックさん、枝はもういいので、銃と弾薬の強化をしてみましょう」

 そういわれて二丁の銃を取り出す。それぞれに装填されていた弾を手に取り、枝にしたのと同じ要領で強化していく。今度は銃本体を手に取り、こちらも強化してみる。弾を銃に戻すと、淡く光る銃が二丁、出来上がった。

「できたみたいですね、試しに撃ってみましょう」

 弾薬の無駄遣いはあんまりしたくないけど、どれくらい強化されるのかは知って起きたい。そう思いながら小さいほうの銃を手に取り、廃屋に残っている大きな柱に狙いを定める。


 バァァァン!!!!


 すさまじい轟音とともに柱に穴が空いた。小さい穴だが、きれいな丸型にくりぬかれた穴は十分にその威力を表現していた。その穴を覗いてみると、廃屋の壁も突き破ってそのまま外が見えた。

 強化する魔法の威力に感動していると、銃を握っていた右腕に激痛が走った。先ほどの銃の反動で痛めてしまったらしい。右腕を抑えながらベガたちの元へ戻ると、さっきの銃声でミラは目を覚ましていた。

「バックさん大丈夫ですか?」

「起こしちゃってごめんね。反動で右腕を痛めたみたいだ」

「強化した銃を撃つときは、腕の方も強化した方がよさそうですね。バックさん、こっちに来てください」

 ベガの方に近づくと、ベガは痛めた右腕に鼻先をつけ、魔力を流してきた。右腕の痛みがだんだんと和らいでいき、ついには完全に治癒してしまった。

「今の何?」

「治癒魔法です。強化する魔法と生成する魔法を組み合わせることでできるんですが、まあ結構難しいですね」

 ベガは得意げに鼻を鳴らしている。確かにすごい魔法だ。


 腕を直してから、体の方の強化を練習すると、こちらは思いのほか簡単にできてしまった。試しに強化された大きいほうの銃で一発、銃弾を撃ってみると、柱にはもとからあったものよりも大きな穴が開いていた。腕も問題なさそうだ。

 

 明日はティタノベアが来てしまう。今朝ラオさんが言っていた作戦が成功するといいが…。

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