田舎で育ったガンマンが、助けたペガサスとピストル二丁で成り上がる
大犬数雄
第1話 田舎の村のガンマン、旅に出る
春の森の中で静寂が響き渡る。村の皆の注目を浴びながら、俺は右腰に着けたホルダーに手を伸ばし、グリップを握る。木の感触が伝わってきた。
遠くにある的を見つめ手の力を抜く。集中しろ、勝負は一回だ。そう自分に言い聞かせる。
パァン――パァン――…
6発の銃声が森に響く。少ししてから、銃声と同じくらい大きな歓声が上がった。俺は銃をホルダーにしまい、体の緊張を解く。
「やったなバック!全部命中だ!」
「これで試練突破だね」
「ホップ、キリ、ありがとう」
まわりで見ていたみんなも盛り上がっている。
「皆のもの、静粛に!」
村長が立ち上がり声をあげる。みんなの目線が白髭の老人に集まる。
「見ての通り、バックはバラリ村の試練をクリアし、一人前のガンマンであることを証明した。よって、バックが村を出ることを許可する」
威厳のある宣言をした後、村長は俺の方に向き直り、いつもの優しい顔で声をかける。
「バック、おめでとう」
「村長、ありがとな」
「君ほどの人間を村から失うのは心苦しいが、約束は守ろう」
「ただでさえ人が少ないのに、ごめん」
「いいんだ、試練を越えたものに文句は言わんよ」
俺はバック。たった今、この村を出ることが許された。
この村は片方を山、もう片方を森に囲まれていて、外の地域との交流がほとんどない。森の中にもたくさんの大型獣がいて、居住エリアは大きな柵で囲まれている。柵の外に出ることができるのは、村長に実力を認められたガンマンだけだ。そのため、住人のほとんどが村を出ずに一生を終える。
村から出なくたって不自由なことはない。山の方には採掘場があって、たくさんの種類の金属や石炭が採れるし、森ではガンマン達が狩りをして食料を確保している。もちろん畑や学校もあるし、少ない人口ながらみんな快適に暮らしている。
そんなこの村では昔から金属を加工して狩りの道具や農具を作っていたらしく。ぼくらが生まれたときには、ピストルやライフルが狩りの道具として使われていた。学校では農業や採掘技術に加え、これらの銃の扱いについても習った。授業を受けているうちに、俺は自分に射撃の才能があることに気づき、いつしか村でも上位の腕前になっていた。
学校の授業で、森の外のことを知っている村人がいないことを知った俺は、外の世界を自分の目で見てみたいと思うようになった。それから、ガンマンとして村長に認められるために修行を続け、ついに今日、外の世界に出ることが認められた。
みんなからひとしきり祝福された後、一人家へと向かう途中で喜びをかみしめる。ようやく夢が叶う。六歳の頃から十年間、ずっと追い続けてきた夢だ。
次の日の朝、家で旅の準備をしていると、両親が部屋に入ってきた。俺の父さんはガンマンだ。小さい頃から森の獣の話を聞いてきた。その横では母さんが目を腫らしている。
「バック、少しいいか?」
「父さん、母さん、どうしたの?」
父さんが金属のケースを取り出し、俺の前で開けて見せた。これは…、銃?いつも使っているものより一回り大きなリボルバーだ。
「この銃を持って行きなさい」
「こんなもの、うちにあったんだ」
「私のおじいさんが、当時村一番だった職人からもらったもので、特別な金属を使っているそうだ」
「父さんの父さんって、伝説のガンマンっていう?」
「ああ、村で一番狩りが上手かったんだが、ある日突然帰ってこなくなってしまったんだ」
「噂には聞いてたけど…、そうだったんだ」
帰ってこなかったってことは、まだ生きてるかもしれないのだろうか。
「少し古い形式の銃だが、使い方はわかるな?」
「わかるけど…、こんなすごいもの、俺が持って行ってもいいの?」
「ああ、きっとお前の力になってくれる」
「いつになってもいいから、無事に帰ってくるのよ」
「わかった。約束するよ」
父さんに促され、ケースの中からリボルバーを取り出してみる。
重い。見た目の予想を裏切らない重さだ。きっと威力も相当なものなのだろう。
それから俺は、両親にもらったものと、試練で使った二丁の銃とその弾薬、野営に必要な装備だけを持って旅に出た。
居住エリアの端、森の方にある門につくと、同世代の友達が集まっていた。俺が同じ学校で学んでいたメンバーは二人。ホップとキリだ。ホップは陽気な男で、将来は銃を作る職人になりたいらしい。キリは農家生まれの女の子で、農業や料理に関する知識が深い。二人とも俺の大切な友達だ。正直分かれるのは寂しい。
「バック、寂しいとか思ってんなよ」
「そうよ、絶対戻ってくるんでしょ」
そう言う二人の目は、昼前の日光を乱反射させている。その姿をみて、俺も感情がこみ上げてくる。
生まれたときからずっと三人で一緒にいた。これからは二人と、一人になってしまう。それでも、俺は外の世界を見てみたい。この目で確かめてみたい。
「ああ、絶対戻ってきて、旅の話を飽きるまで聞かせてやるよ」
ホップとキリはうなずく。そして、俺は門へと向かう。森の門番のヤニスさんが、俺を見て門を開けた。
「行ってきます」
「「いってらっしゃい!」」
森へ向かって歩き出す。もう振り返ることはない。
後ろで門が閉まる音がした。涙を振り払う。行き先は東の果てだ、森を抜けて世界を見に行こう。
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