第13話 感染


 Seitoは風の恩恵でSeikaの立ち位置まで素早く移動をする。そして、命の危機を感じたSeikaは太陽の剣サンソードを出し握るとSeitoの刀を受け止めキーンと鋭い音が弾く。


Seika 「Seito!どうして!?戦いたくないよ!」


 ギリギリと音が鳴る中、互角の状況に埒が明かず2人は後方へと宙に舞うように下がる。


Seito 「身体が勝手に動くんだ!俺はSeikaを斬りたくないっ!だから、だから俺をっ!」


Seika 「そんなの絶対いやっ!どういう事!?」


 「Seika様…。Seito様の姿アバターは―――SF1号にプログラムが上書きされてウィルス感染されています。現実世界の姿になっても尚、人間離れしたAIと一緒の瞳の色が証明しています」


 11Kがそう話すとSeikaは瞳の色を確認する。茶色だったSeitoの瞳だが遠目でも白銀の色だとくっきり分かる。


Seika 「解決策…は…?」


 「「……」」


 11Rと11KはSeikaの問いに黙り込む。


 Seitoは風の恩恵を使い素早くSeikaに接近し、互いに目で追うにも素早い武器の振るいに鋭い音が何度も響く。


Seito 「Sei…ka…!!俺は…!」


Seika 「解決策があるはずだよっ!ねぇ!11Rと11Kっ!!」


 Seikaがフェアリー型AIの方へ振り向くとSeitoは月の刀ムーンブレイドを力強く振り太陽の剣サンソードを弾く。


 持っていた剣が弾かれた衝撃でSeikaはバランスを崩し床に倒れる。


 そっと目を開くと、首元に刀を構えるSeitoが真上に立っていた。


Seika 「Seitoに斬られるなら…本望だよ…」


 涙を零すSeikaにSeitoはプルプルと震えた手を抗うように動かし頑丈な床に刀を刺す。


 Seitoは横になっているSeikaと唇を合わせると再び刀を抜き腕を動かす。


Seito 「Seika…。大…ぐっ!」


 Seitoはそう言葉を残すとプルプルと震えながら自分の首元に刀を当てる。


Seika 「Seito…やめて!Seitoっ!!」


 Seikaは行動を阻止するかのように起き上がり手を伸ばすが、Seitoは躊躇も無く首元を斬る。


Seika 「あっ…あぁ…―――あぁぁぁあああ!!!」


 Seikaが手を伸ばした先は本来、顔が触れるはずだがSeitoの顔は床に転がり身体は横に倒れる。


 Seikaは恐る恐る足元を見る。


Seito 「Sei…ka…」


 「11K…後は任せました」


 「分かりました…。11R」


 フェアリー11Rは輝く粒子となり消えていく。


Seika 「い…やだ…。嫌だ!!Seito!!消えないで!!」


 端の部分からSeitoの顔と身体は光り輝く粒子が散り徐々に身体が消えていく。


 Seikaはその場で座り込むと輝く粒子が散らないよう必死で両腕でかき集める。


Seika 「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!絶対に消えさせない!!」


 必死に粒子を集めるSeikaだが掴むことも出来ず宙に舞う。


Seito 「後は…頼―――」


 Seitoが話している最中に輝く粒子は口元まで進行すると声すら出せずパクパクと動かす。


Seika 「絶対に終わらせるから!!」


 床の上で転ぶSeitoは柔らかに微笑みながら消えていく。


Seika 「だから…消えない…で…」


 Seitoの身体は完全に消滅しSeikaは涙を床にポロポロ零す。


Seika 「うぐっ…私…また、また大切な人を…」


 「Seika様。わかっています。気持ちはわかっています」


 11Kは涙が溢れ出すSeikaを落ち着かせるように頬にピタッと輝く身体を寄せる。


 「マスター権限候補者はSeikaのみとなりました。早急なマスター権限許可を要請します」


 話すモニターに反応するとSeikaは流した涙を無理矢理拭い立ち上がる。


Seika 「もう―――こんな酷い世界は終わらせよう」


 モニターに表示されている『マスター権限委任要請』をSeikaは迷う事もなくタップする。


 「マスター権限所持者はSeikaとなりました。次の提案を要望します」


 コンパクトサイズなモニターは更に広がり3つの提案を表示した文字を映し出す。


 1つ目は『前回の更新したデータまでに遡る』、2つ目は『スピリットファンタジーのデータをreset初期化』、3つ目は『スピリットファンタジーのデータをdelete完全消去』と表示されSeikaは目を閉じ考え込む。


Seika 「選択は―――これしか無い!」


 Seikaは大きく目を見開くと3つの提案のうち1つをタップする。


 「了解。3分後、作業に掛かります」


 話すモニターが消えると、目の前に広がった日の光の色合いが薄くなる空間となる。


―――スピリットファンタジーをプレイしている皆さまに運営からのお知らせです。3分後に緊急メンテナンスを実施します。作業の前にログインされているプレイヤーの方は強制ログアウトを致しますのでご了承下さい


 全プレイヤーにアナウンスの声が流れる。全プレイヤーは身体が光り輝く粒子となり消え去っていく中、歓喜の声をあげる。


Seika 「皆…。ようやく、全員ログアウト出来るよ」


 日の光は更に薄くなりモノクロの景色が映し出される。


Seika 「あぁ―――やっと…、終わっ…た…」


 完全に真っ暗となった景色でSeikaは天に向かい手を伸ばすとハッキングされてからの記憶を思い返す。


 ギルドメンバーと過ごした楽しい記憶、苦しい記憶も沢山あった。それでも、仲間と支え合った輝かしい記憶を思い出すとSeikaの目から涙が溢れ零れる。


 流した涙が床に落ちるとSeikaはスピリットファンタジーの世界から完全に消える。

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