新しいはじまり5

 やがて目的地に到着して、エアカーを停めたパーキングから、少し歩く。

「足元、気をつけて」

 ディープはエリンの手を取った。

 そこにあった展望台に上がると……。


 静かにエメラルドグリーンの水をたたえた湖があって、紅葉と黄葉と緑の木々のグラデーションに染まる湖畔の山々が見事だった。


「うわー! 綺麗!」エリンは思わず声を上げた。

「子供の頃、両親に連れられて来た記憶があるんだ。ちょうど見頃に間に合ってよかったね。君に見せたいと思ってた」

「ありがとう。こんな素敵な場所があるなんて」


 周りには誰もいなくて、静かだった。遠くで鳥の声がする。


「……エリン」

「はい?」

 景色に見入っていたエリンはふりむいた。

「ええと、僕はいつも君に甘えてばかりで……。いつも感謝してた。仕事の方もまだこれからだし、いろいろ困らせてる、と思う。でも……」

 エリンは、急にどうしたのかというように、小首をかしげている。ディープは思い切って言った。

「一緒に暮らせないかな? もし、君が良ければ、だけど」

「え?!私——」

 エリンが答えようとしたそのとき、急に強い風がふいて、

「キャッ!」

 エリンは髪を押さえて目を閉じた。


 目を開けたとき、たくさんのあかい葉が一斉に舞い散っていて、

(凄い……!何これ……)


 吹雪のように視界を埋めつくすあかあかあか……。


 そして、風がおさまっても、まだはらはらと静かに葉は散り続け、水面をくれないに染めていく。


 エリンが、ディープの髪についたあかい葉に気がついて取ろうとしたとき、彼はその手を取って引き寄せ、そのまま強く抱きしめた。

 エリンの耳元で小さく声がした。

「君を、愛してるんだ」

(……!!)

 エリンの目が大きく見開かれ、そして閉じられた。彼女はそっと聞いた。

「ときどき一緒に空を見上げてもらえる?」

「うん。約束する」

 こみあげてくる涙を感じながら、エリンは唇を寄せた。


 長い間、唇を重ねたあとで、ディープは優しく笑って、エリンの涙を指でそっとぬぐい、紅葉の照り返しで頬を染めたふたりは、微笑みを交わす。

 そうしてしばらくの間、寄り添って空を見上げていた。


『エリン。君が空を見上げるとき、君がひとりきりではなくて、誰かが隣で微笑んでいてくれますように』


 エリンは、遠い空の向こうにいるその人に向かって語りかける。

(……ありがとう、私達を結びつけてくれて)


 

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