ディープへの手紙2
読み進むうちに涙が止まらなくなった。
そして……。
ディープは、今まであきらめることなく、何度も繰り返し自分に向けて差し出されたその手、自分を待っていてくれる人がいることに、はじめて気がついた。
自分の重さに精一杯であっても、誰かに手を差しださずにはいられない、自分と同じ心を持つその人。
(僕はその手をとってもいいだろうか……)
ディープは長い長い間、黙ったままでいたが、やがて、そっとためらいがちに言った。
「……エリン」
「はい?」
「君を抱きしめてもいい?」
ディープはエリンの心の中にモーリスがいることを知っていたし、それでもいいと思った。
もし、ふたりの関係がクライアントと精神科の主治医というだけのものだとしたら……NGになる。ためらうエリンの心の中で、モーリスの声がした。
(エリン、大丈夫だよ。信じて)
エリンは静かに微笑んで、うなずいた。
ディープは大切なもののようにそっとエリンを抱きしめて、彼女はゆっくりとディープの背中に手をまわした。ディープは本当にやさしくて、エリンはただ身をまかせていた……。
*
翌朝、エリンはディープを起こさないようにベッドを出ると、手早く身支度を済ませた。
「行ってきます」
穏やかに眠るディープの様子に安堵して、そっとその髪にキスすると、部屋をあとにした。
ディープは目覚めたとき、もうエリンがいないことを知った。
テーブルの上にメモが残されてあった。
『おはようございます!今日はいいお天気になりそうですよ。
起きたら、まず窓を開けてくださいね。
それでは、仕事に行ってきます! エリン』
ディープは窓を開けて、空を見上げた。
そこには、まぶしい青空が広がっていて、
久しぶりにそんな空を見た気がした。
風がディープの髪をゆらして、
目を閉じ、陽射しの中に身をゆだねる。
……ディープのいるこの世界に、音が、光が、色が、戻ってきた。
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