勇者俺、魔王俺
ぽね太
プロローグ
その日は、月の綺麗な夜だった。
背の高い木々が鬱蒼と生い茂る樹海の中、巨大迷宮は静かにそこへ佇んでいる。
来る者拒まず、されど脱出は不可能——そう言われる神話の地下迷宮、その内部は当世の魔術を使えなくさせる上、怪物がはびこっている。巣穴を探して迷宮に入り込んだは良いが、出口がわからず彷徨うしかなくなった怪物たちは、争いを繰り返し、力尽きた者の死骸を貪り食うことで何とか生き長らえていた。
その日々が終焉を迎えたのは、突然のことだ。
今夜の客人は二組。
——片や、小さなドラゴンを連れた勇者。
——片や、侍女を連れた魔王。
勇者は剣を振るい、靴底を怪物の血で濡らしながら進んで行く。
魔王は侍女が屠った怪物を踏むことなく、拓かれた道を前進する。
二人の顔はよく似ていても、互いの立場や心境、この迷宮に足を踏み入れるまでの過程は、全く違うものだ。
けれどその目的は同じだった。仄かな壁の光と手元のランタン、そして勇者側は小さなドラゴンの持つ力を頼りに複雑怪奇な道を辿っていく。全てはこの迷宮に隠された、神話に伝わる秘宝『聖神の石』を手に入れ、この世界を救うため。
そんな二組が出会ったのは、神のいたずらとしか思えないほどの偶然だった。
それが全ての始まり。勇者と魔王が手を取り合い、運命に反撃の狼煙を上げた日。
両者は監視の目をくぐり抜け、時に睡眠時間を削り、幾度となく迷宮に転移しては探索を続けた。時には一人、稀には二人揃って。気力や体力を削りながら、迫り来る限界を誤魔化しながら月日を過ごした。
ある日、勇者は言う。自分たちの影武者がいてくれたら、探索にもっと時間を使えるのにと。魔王は大笑いして、頷いた。冗談のつもりで放ったその願いは、召喚魔法によってやがて遠い異世界へと繋がる。
——彼女たちの前に、彼が現れる数日前のことだった。
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