【BL】イケメンになって高校デビューしクラス人気No.2になったのに彼女は出来ないみたいです。
あとみく
前編
高校生になる直前の春休み。
僕が行く高校には、同じ中学のやつらは一人もいない。
そして、何となくそれを機に、大学生の兄に勧められて眼鏡をコンタクトにし、髪型も変えた。
知り合いが誰もいない学校だから緊張していたし、何となく、気分を変えて、新しい気持ちで高校デビューしたくて。
でも。
正直言って、自分で言うのもなんだけど、思ったよりも……「イケている」気がした。
兄も、口には出さないけど、ちょっとそう思ったっぽい。
それで、他にも、眉毛を整えたりだとか、なんやかんやしていたら更によくなった気がして、まあ「イケメン」とまでは言えないものの見る角度によっては「イケメン風」の一歩手前くらいまでは来ている気がした。
兄の一張羅を借りて表参道を歩き、ファッションスナップとやらを撮らせてくれと言われた時はもう人生の希望の光が眩しすぎて、あまりのことに断ってしまった。人生最大の失態だ。
そんなこんなで、着こなしには肩幅と胸筋が大事だということで上半身の筋トレにも励みながら、入学式を迎えた。
どきどきしながら、クラスの顔ぶれを見る。
まさか、予想もしなかったことだが、何と、女の子は可愛い子が多く、男は不細工が多かった。そんな中で「イケメン風の一歩手前」の僕は、もしかして、「クラスNo.1のイケメン」なんじゃないかとさえ感じた。いや、もちろん、坊主頭の運動部員とかはそのうちスポーツマンってことでモテはじめるだろうし、頭脳部門や金持ち部門でモテるやつも出てくるだろうけど。
だけど今のところ、顔部門では僕が……。
……と思うのはやはり早計だった。
入学式から一週間。
親の仕事の都合で、今日から顔を出した男子。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、帰国子女、親が金持ち。
彼が教室に入ってきた瞬間から負けを悟った僕は、もう眉毛を整えるのも流行りのアイテムを持ち歩くのもやめようと思った。イケメン風未満の僕がどんなに背伸びをしてみたって本物のイケメンにはかなわない。当たり前だが女の子たちの視線は彼にくぎ付けだ。昨日までは僕だってチラホラ見られていた気がするけど、そんなものは幻だったかのように。
休み時間になり、彼の机には入れ替わり立ち替わり、女の子たちが集っていた。
でも昼休みになると女の子たちはそれぞれのグループになり、慎ましくも、抜け駆けをする子はいない。
そうして彼は、一人で弁当を食べている僕に声をかけてきた。
「もしよかったら、一緒に、いい?」
え?
な、なんて感じのいいやつなんだ!
最初から白旗を上げていた僕は嫉妬や敵対心を感じることもなかったが、しかし友達になろうなどとも思っていなかったから、ただただ驚いてしまった。
「も、もちろん。これからよろしく」
それから、何となく一緒に昼飯を食べるようになり、委員会だの体育のペアだのもそれとなく一緒な感じで。
しかし、兄が言うには、それは僕が同類に見られたからじゃないか、と。
それって類が友を呼んだということ?イケメン同士で?
いやいや、そんな、と謙遜したが、要点はそこではないらしい。
イケメンは少し格下のイケメンとつるむことで「イケメングループ」を形成し、孤高のイケメンよりも話しかけやすい雰囲気を醸し出す。そうして女子の「可愛い子グループ」と釣り合う感じになり、接触頻度も増え、その頂点同士がくっつきやすくなる。格下たちもそれなりに恩恵にあずかれる。ウィン・ウィンな人間関係というわけだ。
いや、そんなグループに所属できるだけでも光栄なことであり、そして、ちょっと欲も出てきた。
これはまさか、やはりモテ期の到来か!?
真のイケメン登場ですっかり諦めていたけれど、チャンスはまだあるのかもしれない。
それから僕は、イケメン(を目指す)活動を再開することにした。
筋トレを欠かさず、身だしなみに気を遣い、悪ふざけはするけど下品な下ネタは言わない。
旬のネタやアイテムをチェックし、話題に事欠かないようにする。
そして何より、彼のイケメンぶりを間近で見て徹底的に研究した。
女の子にちょっかいを出す時と引く時のタイミングとか。
ワルぶったりはしても、基本の真面目路線はブレないところとか。
自分の失敗は隠さずに笑うけど、友達(=僕)の失敗はそれとなく隠してフォローしてくれる、だとか。
頑張って真似してみると、気のせいかもしれないが、女子の視線が僕にも向けられた気がした。やっぱり効果があるんだ。
初夏。
努力の甲斐もあり、とうとう、「イケメングループ」と「可愛い子グループ」で休日にお出かけする予定が持ち上がった。
何を隠そう、イケメングループとは僕と彼のことだ。そして可愛い子グループはクラスの可愛いランキング1位~3位の三人。それって実質的に、ナンバーワン同士がくっついたら僕は2位と3位を両手に花!?人生絶頂じゃないか。
そんな夢心地の中、彼が行き先(ベタだが原宿だ)を事前にリサーチしておこうと僕に持ち掛けた。
ああ、さすがだ、尊敬するし勉強になる。
そうして僕たちはお出かけ予定の前の週の日曜に原宿で待ち合わせ、いくつかのお店をチェックした。「このことは内緒でね」と、水面下の努力を隠すことも忘れない。当日に、場所や営業時間や乗り換えがわからなかったりするとカッコ悪いから下見はするけど、そんなことはおくびにも出さずに女の子たちと遊ぼうというわけだ。僕としては、イケメンなのに抜けていた方が逆にいじりやすくていいのではないか……とも思ったけど、彼は正統派のイケメンだからこうなんだろう。
そういうわけで僕はなるべく女の子の気持ちになり、待ち時間や値段やトイレの場所や、暗くなった時の治安なんかを気にしながら下見をした。そして、気になったところは大体、僕が言う前に彼が「こっちに行こうか」とか「ちょっと高いよね」とか言ってくれて、僕はもう本当にイケメンの真の力を見せつけられてぐうの音も出なかった。イケメンというか、もう、スパダリだ、彼は。
しかし。
お出かけの直前で、彼が風邪を引いたとのこと。
ひそかに、僕一人と女の子三人のデート……とか期待したけど、もちろん予定自体がキャンセル。そりゃそうだ。
非常に残念だったけど、まあ、チャンスはこれからもきっとあるだろう。
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