第2話
その少女の名前はアイといった。 アイは快活な性格で話しやすい。
「サナはこのゲームまだ始めたばかりだよね」
「ああ、そうレベル2。 アイはこのゲームどのぐらいプレイしてるの?」
「そうだね。 まだレベル4かな...... 私、四期のテスターだから」
「じゃあ五期のおれとそんな変わんないか...... それにしてもこのゲームやたらテキストが細かく詳しくかかれてるんだね」
テキストを見ながらきいた。
「そう、設定やシナリオなんかもAI《エーアイ》が自動生成してるらしいよ」
「AI、人工知能か......」
「うん、この世界の歴史、神話なんかも膨大な設定をつくってリアルに進行させていったみたいね」
「歴史とかが実際に起きたってこと?」
「そうそう。 この空間内で時間を進ませたらしいね」
「へぇ、そこまで作り込んでるのか、それは楽しみ」
(一応メールが来たとき、まだ完全に確立したとは聞いてない《MT《マインドトランスファー》技術を使ってるのと、聞いたことのないゲームメーカーだったから不安だったけど、大丈夫そうだな)
「そういえば、アイはあのメールみた?」
「メール...... ああ、あれね?」
「そう、あなたの願いが叶うってやつ?」
「うん...... 本当とは思えないけど......」
そういいながらアイは何かを考えているようだ。
「アイは生産系のクラフター? タンクやアタッカーみたいな戦闘職でもヒーラーでもなさそうだけど...... ウィザード? エンチャンター?」
「ああ、このゲームにそういう職種はないよ。 本当にチュートリアルしてないんだね。 普通にプレイヤーと呼ばれるよ」
「プレイヤーか...... ついいつものようにスキップしちゃって...... でも魔法はあるよね」
「ええ、私は回復魔法しか使えないけど」
(なら特化しなければ、やじられる心配はなさそうだ)
それを聞いてほっとした。 プレイ内容でアイとギクシャクしたくなかったからだ。
「おれは魔法、使えないんだけど? すぐ覚える?」
「うーん...... このゲームのステータスはプレイヤーごとに個体差があるみたいなんだよね。 だから魔法を使えない人もいるよ。 ただ魔法が使えない人は戦闘のステータスが強いはず。 でも全員プレイヤー独自の【EX】《エクストラ》スキルはあるよ」
そういうと、アイは両手を前にして目をつぶる。
「私スキルは【知覚】、周囲にモンスターが多い、少しはなれましょ」
おれたちは少しはなれる。
「ここなら平気」
「知覚、周囲を調べられるのか...... それでなんで襲われたの」
「使ってるとものすごくつかれるんだ。 しかも集中が途切れると疲労感がすごいから、たまたま使ってない時におそわれたの」
困り顔でアイはいう。
(疲れる、ゲームなのに? まあ確かにさっき戦ったとき疲労感はあったな。 どうやって疲れなんて再現してるんだ?)
「おれのスキル、ステータスをみればわかるかな」
「ええ、ウィンドウをコールして、そこに項目があるよ」
「詳しくまだみてなかったな。 コール、ウィンドウ」
目の前に青色の半透明な四角いウィンドウが現れ、そのメニューに【EX】《エクストラ》スキルの項目があった、
「これか、おれのは、
「そうなの、なんか集中してよびだすの変よね。 しかも最初から決まってるし......」
アイは首をかしげている。
(まあ、個人的にパラメーターが異なるらしいし、最初にスキャンされた脳内の情報からできてるのか...... まあさすがにプレイヤー全員が公平になってるだろう)
そのテキストを詳しくみる。
(えっと集中してイメージを思い描く...... この脳波を読み取るのか)
おれは目をつぶりイメージする。
(痛...... なんだこの頭痛)
「えっ!?」
アイの驚く声がした。 みると、両手の上にそこにはプルプルと震える半球の透明なものがいた。
「これスライム!!」
「なんだろう? 召喚かな」
アイはそれをつっつく。
「くっ、それにすごい疲れる...... なんだこれ」
「そうなんだよね。 これ使うと疲れる...... HPとかMPとかは減らないのに、どんなシステムなんだろう」
アイは首をかしげている。
「ぐほっ!」
急にそのスライムみたいなやつは、おれにぶつかってきた。
「どういうこと!? おれの出したやつなのに!」
スライムは何度も体当たりしてくる。
「しかも痛い!」
「多少の痛みもフィードバックされるから気をつけて!」
それからしばらくスライムと取っ組み合って、何とかおとなしくさせた。
「ふ、ふぅ、やっとおとなしくなった......」
「ええ、結構強かったね。 名前でもつけたら」
「名前か...... こういうの苦手なんだよな」
「じゃあ、私がつけようか」
「頼んでいい?」
「うん、名前はクリアね」
「クリア?」
「なんか透明だから」
「ああ、確かに...... まあいいか、クリア」
おれはスライムにそう名付ける。 そんなことも気にしないかのように、クリアはそこらを動き回っている
「ただ集中してないと、かってに動き回るな」
「そんなの使えるの? 何か能力は......」
メニューから、クリアのステータスを確認する。 ステータスの数値はかかれていない。 ただそのスキル項目に【形】《シェイプ》とだけ表示されている。
「形...... どういうこと?」
「うーん、よくわからないね。 とりあえず使ってみるしかないんじゃない」
一応能力を調べるべく、近くを歩く。
すると、茂みの奥になにかが動く。 そこには小型の歩く木がいた。
「トレントだよ!」
「いた! よしいけ!」
すぐにクリアはいうことをきかなかったが、なんとか念じると、ゆっくりとモンスターへとあるきだす。
「ギィ!」
トレントは気づくと体についた葉っぱをうちだした。
シャッ、シャッ。
クリアの体は、ボヨンポヨンと刃のような葉っぱをを弾き、トレントにぶつかった。
「ギィギャ!」
トレントは光になって消えた。
「なにげに強いな...... ただなんのスキルかはわからないな。 というか疲れる......」
「そうなの、このスキル結構疲れるから多用もできないし......」
クリアを戻れと命じるとその姿を消した。
「ごめん、かなりつかれたからおれはログアウトするよ」
本当にそれぐらい疲労感があった。
「そう、私はもう少しだけ町に戻って散策するね。 明日また一緒に旅をしましょ。 じゃあフレンド登録を」
おれたちはフレンド登録をした。
「ああ。 じゃあ明日」
おれはウィンドウからログアウトを選択するが、反応がない。
「あれ......」
「どうしたの?」
「いや、ログアウトを押しても反応がない......」
何度メニューから選択してもログアウトできない。
「そんなはずは...... あれ? 私もできない」
「不具合か...... まあベータだし仕方ない。 最悪セーブできなくなるかもしれないけど、直接バイザーをはずして強制ログアウトで...... あれ、バイザーがない!」
頭につけたバイザーを探すが、頭にはなにもない。
「本当...... どういうこと?」
「これって戻れない......」
アイと顔を見合わせる。
おれたちは現実に戻れなくなっていた。
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